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第105話 刃の戦い
しおりを挟む「コゴロウ様、本当にされるんですね」
「ああ、このまま二人を死なせるくらいなら……。あんまりじゃないか、カシンはずっと床に伏せている、キョジも不治の病。これで2人が生き長らえられるなら私は禁術を使うさ」
フウマ・コゴロウの前にはカシンとキョジが眠っていた。2人は苦しそうにしている。
「カシンとキョジの魂を融合させる。術が終わったら私の死体はすぐに隠してくれ。2人は賢いからすぐに何が起きたか気づくだろう。しかしそれでも、せめて直接は事の顛末を見ずにすむように」
「御意に」
「二人は生き延びてくれ、そしてこの里から飛び出て広い世界を楽しんでくれ」
そう言ってフウマ・コゴロウは倒れる。
「タケミさんの元へは行かせない!」
「なら気張れ!動きが鈍って来ているぞ!」
ゲゾウは印を結ぶ。
「水術、水鯱泳!」
地面から水で形成されたシャチを繰り出す。
シャチは周囲を抉りながら二人との距離を詰める。
「土術、鋼剛身!」
身体に鋼の鎧を纏い、カシンはシャチを受け止めた。
カシンの背後から飛び出したキョジがゲゾウに斬りかかる。
「甘い。風術、裂旋風」
ゲゾウの囲うように竜巻が発生し、触れたものを切り裂く。
「くっ!」
キョジは竜巻に弾かれてしまう。
(幻術に対抗するため魔力の糸は消してないはず。それだけでも相当な集中力を要するはずなのに、ここまで戦えるなんて、さすがというべきか)
カシンの視界が一瞬霞む。
(この術、始めて全力で使ったけど消耗が激しい。そもそもこんな身体で使うようなものじゃないんだろうけど)
「辛そうだな、ここいらでダメ押しをしてやろう」
ゲゾウの額や頬に合わせて8つの目が現れる。
「禁術、八傀眼。この傀儡の眼に幻術は効かんぞ」
「その状態で禁術まで使うとは」
「言ってなかったか。殺しの技では貴様の父以上だぞ、ワシは」
ゲゾウはカシンとキョジに接近し刀を振るう。
「速い!」
二人の攻撃を適切に捌くゲゾウ。
「土術、黄泉水!さあどうする!?この毒は忍にも当然効くように作っているぞ!」
ゲゾウが地面を一踏みすると地面から泥の波を発生させる。
「水術、巳喜流」
カシンは水流を口から生み出し泥を押し流した。
「炎術、|豪炎瀑布!|《ごうえんばくふ》」
キョジが手を振ると炎の滝がゲゾウに降り注ぐ。
「術の精度が上がっている、なるほどな幻術以外にもおまけがあるようだな。コゴロウの奴はワシに最後までその術を教えてくれなんだが。良い術だ」
ゲゾウは後方に飛び去り炎を回避。
同時に懐から爆弾を取り出し投げつける。
「これも毒?!」
カシンが煙に向って忍術を使おうとした。
「カシン!」
「……っ!」
刃がカシンの胸から突き出ている。意識が煙に向いた隙をゲゾウに利用されてしまったのだ。
刀を一捻りし、引き抜くゲゾウ。
「一瞬の隙が命取り。基本を忘れておるな」
「随分と前の事ですからね……」
「何?」
カシンは倒れずに立ち上がる、傷口は塞がっていた。
「今のは即死の筈だが。高速で治癒したのか?いや違うな」
ゲゾウは後ろに飛び下がる。
「だとしても早すぎる。さては……入れ替わっているのか?本体が」
キョジに刀を向けるゲゾウ。
「なるほど、ワシは勘違いしていた。この場合キョジはただの召喚物、いくら切った所で本体が健在な限り決定打にはならない。だからカシンを斬ってしまえばと思ったのだが」
カシンとキョジが斬りかかる。
「それすらも入れ替えるとは!それは常に入れ替わるのか?それとも1度きりか?」
二人の斬撃を凌ぐゲゾウ。
二人は宙に飛び上る。
「風術、鉄捌武刀」
二人は渾身の力を込めて斬撃を放つ。
「禁術、外道法腕」
ゲゾウの背後から腕が現れ、斬撃を弾いた。
「まあどちらでも良いか。両者を一度に殺せばいい話だからな」
「禁術を重ねがけるとは。死を厭わないのですか」
カシンの言葉に笑うゲゾウ。
「死ぬことを計画に織り込むのは愚か者。本物の刃は生や死などは考えぬ、ただ相手を斬るのみよ」
ゲゾウは地面に手を触れ沈んでいく。
「土術、潜仏」
地面に潜ったゲゾウは完全に気配を消し、彼を見失った二人の背後から飛び出る。
「炎術、土龍爆火」
泥と炎を同時に放つゲゾウ。
「水術!」
「だめ!間に合わない!」
キョジはカシンを掴みその場を飛び下がった。
「いい判断だ、あれは水術すらも押しのける」
回避することに意識が逸れた隙をつくゲゾウ、二人の背後に回り込む。
「……しまった!」
ゲゾウはそのまま、二人を同時に切り裂く。
「この手応え、何がしまっただ」
そういうとゲゾウの前で倒れた二人の身体は消えてしまう。
ゲゾウが口から血をこぼした、カシンが背後からゲゾウを突き刺していたのだ。
「やるじゃないか。いつからだ、ワシに幻術をかけていたのは」
「貴方に刺された時です。脳を操作する糸に細工をしました」
「なんとも味な真似をする、準備が出来ておりながらワシを泳がせるとは」
ゲゾウがニヤリ笑う。
「貴方の隙をつく必要があったので」
「決着を焦ってしまったか。ワシも鈍ったもんだ」
「なぜそこまであの者を助けようとするのか。貴様は言った、女神はついていくに値しないと、あの男にその価値があるというのか?世界でも救う英雄になるのか?」
膝をついたゲゾウはカシンに質問する。
「あの人は確かにヒーローという感じはしません。暴れたいように暴れてる、そんな人です。厄災のような。でも……」
「なんだ?」
「あの人を見ていると無性に勇気が湧いてくるんです。背中をつい追いかけたくなるんです」
カシンはいつもの口調にもどっていた。
「キョジもか?」
「知らない、カシンがついて行くならついて行く」
「ふん、理解できんな。主を決めるなど、主を決めずに自由気ままに、報酬の良い仕事を受け殺す。それが忍の気楽なところだと言うのに」
笑うゲゾウ。
「はあーにしてもまだまだだ」
身体を起こしたゲゾウをみてカシンは目を見開いた。
「殺しきれんかったのは貴様の甘さだ。殺せただろうに。まったく蛙の子は蛙だな」
ゲゾウは自身の胸に手を突き刺していた、彼の皮膚に呪文が現れ始める。
「禁術、道死逆連」
「なんてことを!」
口から血を吐きながらゲゾウ笑う。
「貴様らは逃がさん。これが旧き刃だ」
ゲゾウは刀を構え立ち上がった。
「さあ、これでワシを殺せようとも貴様らは自爆に巻き込まれる。直径一里、その範囲にある全てを飲み込み消し去る。塵も残さんぞ」
ゲゾウは自身の手から骨の刀を生み出す。
「禁術、呪骨雑災」
骨の刀から垂れた赤い液体が地面に垂れると地面を溶かす。
「さあどうする。ここを超えねば新しい世界などありはせんぞ」
「……ッ!」
(しまった術の反動がこんなときに!)
カシンの動きが止まり、キョジはカシンの前に出る。
「カ、シン!」
キョジの動きも明確に鈍っていた。
「残念だが、ここで終わりのようだ!」
ゲゾウは二人に向けて刀を突き放つ。
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