脳筋転生者はその勇まし過ぎる拳で世界にケンカを売ります。

きゅりおす

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第109話 寒空の下

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 グリーディが放った魔石、それから生じた光のゲート。
 そのゲートから一人の女性が現れる。

 彼女は白い着物を身に着け、目元に白い布を当てた。彼女の黒く長い髪は月明かりを美しく反射し、周囲の雪も相まって息を吞む程の美しい姿だった。

「ほ、本当に……お前さんなのか」
 ダイゲンは彼女に語り掛ける、だが返答はない。

「さあ、行けアルタ・モリスあの者を殺すんだ!」
 グリーディが命令をするとアルタ・モリスと呼ばれる女性は声を上げる、非常に苦しそうな声だ。

 すると彼女の足元から黒紫の煙が立ち込め彼女を完全に包み込む。

 次に煙から現れた彼女は先ほどの美しい着物を着た女性から一変し、奇妙な甲冑に身を包んだ異形の姿の者だった。

「ははは!貴様らはもうおしまいだ!みろこのアルタ・モリスの新たな姿を!美しい!さぁ、後悔と絶望の内に死ねェッ!」

 高笑いするグリーディ、ダイゲンは歯を食いしばっていた。

「テメェ等……よくもッ!!」
 彼の声はかつてない怒りによって震えていた。

 異形となったアルタ・モリスは悲痛の叫びのような咆哮を上げた。



 ダイゲンが戦いを繰り広げている場所から離れた土地、そこでは黒馬のいななきが響いていた。

 その馬に首は無く、ただ黒い煙がそこから立ち込めている。では声はどこからするのかと言うと何処からかは分からない。

「ちょっとアルバちゃん!どうしたんですか?」
 雪の中を進むウェルズはアルバと言う首無しの黒馬をなだめようとしていた。

「落ち着いてください、私が乗った時でさえも無感情に振り落とそうとしてくるぐらいにクールなアルバちゃん!」
 手綱を握るウェルズはアルバに振り回されていた。

「珍しいですねぇ、アナタがこんなに感情を露にするなんて……ってあーれー」
 ウェルズはアルバに蹴り飛ばされてしまい、雪の積もった場所に突き刺さる。

「余程嬉しい事があったのか、それとも悲しいことがあったのでしょうか……ともかく、アルバちゃーん待ってー。うーっここら辺は冷えるので白い息が出ちゃいそうですね。でもファイトだ私!アルバちゃんのために!」
 雪の中から這い出たウェルズは近くに落ちていた自分の鞄を拾い、走り始めた。



 雪山に響き渡る悲痛の叫びのような咆哮。

 アルタ・モリスは異形の姿となっていた。
 異常に長く伸びた腕の先には刀のような爪が生えており、その胴体には無数の刃のようなものが突き出ていた。

 彼女は大きく伸びた刃の爪でダイゲンに襲い掛かる。

「っぐ!」
 攻撃を躱すダイゲン。彼は攻撃できずにいた。

 モリスの攻撃の手は止まず、獣のような獰猛さを見せつける連撃。ダイゲンは思考が鈍っている事もあり、本来は回避する事ができる攻撃も食らってしまう。

(何迷ってんだ、オイラは!もうここはやるしかねぇんだよ!)
 彼は自分に言い聞かせ、相手の爪に斬りつけた。

 相手の爪を切り落とすダイゲン。相手は煙に包まれ再び姿を変える。

 彼女の外見は先ほどの異形な姿から最初の姿に近づいており、和風の甲冑を着て、薙刀を持っていた。

 甲冑には無数の刃が連なっているような見た目をしていた。
 薙刀で地面をなぞり円を描くと今度は黒い馬が出現した。

「ん?なんだよ、こうなっちまうのか」

「はは!とうとうモリスが本気を出すのか!さあそいつを殺せ!」
 グリーディが後ろで声を上げる。

 モリスは黒馬に乗り、ダイゲン目掛け突撃。

 馬の勢いをのせ薙刀を振り上げる、彼はそれを避けるがすぐに相手は方向転換し再び突撃をしてきた。

「そんな単調な動きじゃあオイラは捉えらんねぇぞ」
 彼はかいくぐりながら攻撃の隙を探す、そして彼女の突撃に合わせ馬の足を斬る。

 足を斬りつけられた馬はそのまま倒れ煙となって消える、乗っていた彼女は飛び降り彼に斬りかかった。

 一撃を受け止めるダイゲン、相手は即座にダイゲンの腕を掴み体勢を崩し、蹴りを食らわせた。

 飛ばされた彼はすぐに体勢を立て直すもののモリスの追撃を受けてしまう。

「ぐっ!」
 斬られた彼はすぐに後退する、傷は深くないが出血していた。

「馬から降ろしたのは失敗だったな」
 自身の血の温度を感じながらダイゲンは昔を思い出していた。


 ダイゲンはかつて盗賊ギルドのギルドマスターとして活動していた。

 彼は以前から何かと珍しい物に出会う事が多く、この仕事は彼には合っていたのだろう、実力もあった彼はギルドに所属して瞬く間にその実績を積み上げギルドマスターの地位へと登り詰めた。

 ある日、とある建物に盗みに入った。

 そこは近所の住民から神様が住んでいると呼ばれる場所だった、何かお宝があると睨んだ彼は盗みに入る事に決めたのだ。

「ここが神様が住んでるっつーとこか、随分と変わった様式の見た目だな」

 この頃彼は目元を布で覆っておらず、一般の者と同じように物を見ていた。彼の目には鳥居がある建物が映っていた。

「えらく質素だがこういう所に意外と凄いもんがあったりするんだよなぁ、今夜は冷え込みそうだし、いっその事一晩の宿にでもさせてもらうか」
 彼は忍び込んだ。

(もう日はとっくに落ちてるのに灯り一つもついてねぇ、留守か?)

 建物の外にもそして建物の中にも灯りは無く、まるで人の気配がしない。その日はとても寒く雨も降っていた、暖を取る為に火ぐらいは起こしていそうなものだが。念のため彼は顔を隠すために布を口元に巻き付ける。

 床に畳が敷き詰められた部屋の中を漁る彼、だがそこには目ぼしいものはあまり無く、少しばかりの食糧程度しかなかった。その食料も質素なもので乾燥させたり塩漬けにされた野菜や粟などしかない。

(なんだよ、オイラの感が外れたか?)
 そんな事を考えながらも物色を続ける。

 めぼしいものが無いままに彼はある部屋の襖を開ける、そこは明かりが殆どささない部屋で、他の場所よりも広く、床も木材でつくられた場所だった。

(ん?あれは)

 こんな暗闇でも彼の目は効いていた。部屋の奥に何かが置かれていることに気付いたのだ。

 木箱だ、触れた感じから使用されている木材は耐久性に富んでおり、高級な箱であることが分かる。

(余程大事なもんが入ってるのか。どれ開けてみるか)
 彼は腰にある鍵開け道具に手を伸ばす。鍵がどこかを触って確かめるがどこにもそのような物が見当たらない。

(こんないい箱だっていうのに随分と不用心だな)

 少し不思議に思いながら彼が箱を開けるとそこには石っころ一つが入っていた。

「は?なんだこれ」
 思わず声に出してしまうダイゲン。


「んだよ、なんもねぇじゃねぇか」
 深いため息をつくダイゲン。

「こんな所に盗みに入るなんて、見る目ありませんね」
 彼の背後から女性の声が。

「ッ!!?」
 彼はすぐに短刀を構える。

(なんだ、見えねぇぞ、姿どころか魔力すらも)

 目を凝らし、魔力探知を行うも全く感じ取る事ができない。暗い部屋のみだ。

「こっちですよ」
 声が隣から聞こえる、それもすぐそばだ。
 相手はいつの間にか彼の隣にしゃがみこんでいた。

「くッ!」
 彼は跳び退く。

「随分と隙だらけの盗賊さんですね」
 彼女はそう言って笑う。

「なんだと!」
 すると彼は自分の顔を隠していた布が無くなっている事に気付く。その布は相手の手にあった。

「テメェっ!」

 ダイゲンは彼女に斬りかかった。相手は女であろうが関係ない、この顔をみられてしまったからには殺すしかないと考える。彼は盗賊ではあったが必要なら殺しもする、それが出来たからこそ彼は今日まで生き長らえる事が出来たのだ。

「はい」
 彼女がそう言うと、ダイゲンは宙を舞っていた。

(なんだ?!もしかして投げられたのか今?!)

 地面に倒れた彼はすぐに起き上がり、再び攻撃を仕掛けるがまたしても投げ飛ばされる。何度も大きな音をたて倒れる彼は、飛び道具を使ってけん制し、その隙を突こうとするもそれを完璧に避けられ腹部に反撃を食らう。

「がァっ……」
 彼の腹部の衣服に血がにじむ。前の仕事で怪我を負ったのか、彼は腹部を負傷していた。

「そんな怪我を負っているというのに、随分と仕事熱心なんですね」
「し、仕事が一番効く痛み止めでなぁ」
 そう言って彼は再び構え、彼女に斬りかかる。

「真っすぐなのは良い事ですが」
 そう呟くと彼女はダイゲン攻撃に合わせ掌底を繰り出す。

「……!」
 顎に掌底を受けた彼はそのまま意識を失う。

「おや、降ってきましたね」
 その女性はふと顔を外の方へ向け、部屋の外に通じる戸を開けた。

 外には白い雪が降り始め、それを透き通った月明かりが照らしている。

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