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怪異12『失われた手』
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僕が奢った鳥串を平らげると、オリバーは「おかわりいいかい?」と聞いてきた。
「それじゃ、別の話をしてくれたら」と持ち掛けると、オリバーは、僕の顔を指さしながらニヤリとほほ笑んだ。
「いいだろう! こいつは船医のガブリエルから聞いた話だ……」
そういって、オリバーは再び語り始めた。
----------
船大工のペーターは、ゴブリンの軍船との戦いで左腕の手首から先を失ったドジな奴さ。
ホブゴブリンの首根っこを押さえつけて、斧で切りつけた時に、間違えて自分の手首を切りつけちまったんだ。
半分もげかけの手首なんて、もはや治療不能さ。
海賊船に白魔法を使える治療師なんて乗ってねぇしな。
ペーターが「船大工の仕事は釘打ちだ」って言うから義手はハンマーにしてやったそうだ。
楽に釘が打てるって喜んでいたね。
とはいえ、船乗りで五体満足な奴なんざ、本物の海賊とは言えねぇ。
船の上じゃ、まともな薬も包帯もありゃしねぇんだ。
専属の治癒魔法が使える治癒師でもいなけりゃ、怪我をしたらすぐに破傷風で死んじまう。
だから、そうなる前に怪我した場所を切っちまうのさ。
切った場所は、たいまつで焼いて血を止め、最後に、蒸留酒で消毒すればいっちょ上がり。
簡単なもんだろ?
海賊船の船医の仕事なんて、船大工よりものこぎりの扱いがうまいって影口叩かれることさ。
どんな屈強な海賊も、切り落とすときは金切り声を上げて大騒ぎだ。
だが、ペーターは、ジッと黙って自分の手首が切り落とされるのを見ていたよ。
あいつはドジだが凄い奴だ。
本物の海賊だよ。
手足を失った奴には、よくあることだが、失った部分に、感覚が残ってるって言うのさ。
無いはずの手足が、疼いたり、痒かったり、痛みが走ったり……。
欠損した部位の感覚、学者さんたちは幻肢って呼んでるらしいが、ペーターの幻肢は、ちょっと変わっていた。
女が手を撫でるっていうんだよ。
無いはずの左手をね。
「なんで女だってわかるんだい?」って聞くと、細くてやわらかい指だって言うんだよ。
はっきりとわかるってね。
「ありゃ、高貴な女の指だ」とペーターは笑っていたけどね。
まぁ、幻肢ってのは個人差あるもんだから、そんなこともあるのかねぇって程度に聞いていたんだ。
ある日の朝、ペーターが言ったんだ。
「今日は戦いになる」って。
ここ数日、凪が続いて船はおろか、流木すら見ていないのに、戦いがある?
なんで、そんなことがわかるんだ? って聞くと、例の女の指が教えてくれるんだそうだ。
これまでも、女の指が撫でて来た翌日は、海沿いの村を襲ったり、商船と戦い略奪をしたりと、決まって戦いがあったんだと言う。
「しかも、今回は撫でるだけじゃなねぇ。俺の手を握ってきたんだ。ただの手つなぎじゃねぇ、恋人繋ぎだぜ」とニヤニヤしやがる。
「彼女は今もずっと握ってる。細くて柔らかい手の感触をずっと感じてるんだ」
その時、敵船を発見を告げるラッパがとどろいた。
「ほら、いった通りだろ?」
その途端、風が吹き始め、俺たちはすぐに表れた船に接近した。
またしても、ゴブリンの軍船だった。
そして、ペーターの言う通り戦いになったよ。
俺達は戦い、そして勝った。
だが、ペーターは帰ってこなかった。
敵船に乗り込んで死んだのさ……。
海賊が戦いで死ぬなんて、珍しいことじゃない。
ただ、不可解なのは奴の死因さ。
奴は、頭を潰されて死んでいた。
だが……どう見ても、
「奴の頭を潰したのは、奴の左手のハンマーだったんだ……」
----------
ペーターの左手を握りしめていた女って……一体、何者だったんだろうね。
おかわりの鳥串をほおばりながら、オリバーは首を傾げた。
「それじゃ、別の話をしてくれたら」と持ち掛けると、オリバーは、僕の顔を指さしながらニヤリとほほ笑んだ。
「いいだろう! こいつは船医のガブリエルから聞いた話だ……」
そういって、オリバーは再び語り始めた。
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船大工のペーターは、ゴブリンの軍船との戦いで左腕の手首から先を失ったドジな奴さ。
ホブゴブリンの首根っこを押さえつけて、斧で切りつけた時に、間違えて自分の手首を切りつけちまったんだ。
半分もげかけの手首なんて、もはや治療不能さ。
海賊船に白魔法を使える治療師なんて乗ってねぇしな。
ペーターが「船大工の仕事は釘打ちだ」って言うから義手はハンマーにしてやったそうだ。
楽に釘が打てるって喜んでいたね。
とはいえ、船乗りで五体満足な奴なんざ、本物の海賊とは言えねぇ。
船の上じゃ、まともな薬も包帯もありゃしねぇんだ。
専属の治癒魔法が使える治癒師でもいなけりゃ、怪我をしたらすぐに破傷風で死んじまう。
だから、そうなる前に怪我した場所を切っちまうのさ。
切った場所は、たいまつで焼いて血を止め、最後に、蒸留酒で消毒すればいっちょ上がり。
簡単なもんだろ?
海賊船の船医の仕事なんて、船大工よりものこぎりの扱いがうまいって影口叩かれることさ。
どんな屈強な海賊も、切り落とすときは金切り声を上げて大騒ぎだ。
だが、ペーターは、ジッと黙って自分の手首が切り落とされるのを見ていたよ。
あいつはドジだが凄い奴だ。
本物の海賊だよ。
手足を失った奴には、よくあることだが、失った部分に、感覚が残ってるって言うのさ。
無いはずの手足が、疼いたり、痒かったり、痛みが走ったり……。
欠損した部位の感覚、学者さんたちは幻肢って呼んでるらしいが、ペーターの幻肢は、ちょっと変わっていた。
女が手を撫でるっていうんだよ。
無いはずの左手をね。
「なんで女だってわかるんだい?」って聞くと、細くてやわらかい指だって言うんだよ。
はっきりとわかるってね。
「ありゃ、高貴な女の指だ」とペーターは笑っていたけどね。
まぁ、幻肢ってのは個人差あるもんだから、そんなこともあるのかねぇって程度に聞いていたんだ。
ある日の朝、ペーターが言ったんだ。
「今日は戦いになる」って。
ここ数日、凪が続いて船はおろか、流木すら見ていないのに、戦いがある?
なんで、そんなことがわかるんだ? って聞くと、例の女の指が教えてくれるんだそうだ。
これまでも、女の指が撫でて来た翌日は、海沿いの村を襲ったり、商船と戦い略奪をしたりと、決まって戦いがあったんだと言う。
「しかも、今回は撫でるだけじゃなねぇ。俺の手を握ってきたんだ。ただの手つなぎじゃねぇ、恋人繋ぎだぜ」とニヤニヤしやがる。
「彼女は今もずっと握ってる。細くて柔らかい手の感触をずっと感じてるんだ」
その時、敵船を発見を告げるラッパがとどろいた。
「ほら、いった通りだろ?」
その途端、風が吹き始め、俺たちはすぐに表れた船に接近した。
またしても、ゴブリンの軍船だった。
そして、ペーターの言う通り戦いになったよ。
俺達は戦い、そして勝った。
だが、ペーターは帰ってこなかった。
敵船に乗り込んで死んだのさ……。
海賊が戦いで死ぬなんて、珍しいことじゃない。
ただ、不可解なのは奴の死因さ。
奴は、頭を潰されて死んでいた。
だが……どう見ても、
「奴の頭を潰したのは、奴の左手のハンマーだったんだ……」
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ペーターの左手を握りしめていた女って……一体、何者だったんだろうね。
おかわりの鳥串をほおばりながら、オリバーは首を傾げた。
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