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怪異13『凪』
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僕は、ドラコニス大陸の南東部・シュヴァンツブルグ王国の王都シュヴァンツブルグから南、イーリス平原にある中規模の街・グラナトシュタットにいた。
グラナトシュタットは、人口6000人と中規模の街だが、ベルンシュタイン商業都市連合の中では、王都シュヴァンツブルグから一番近いため、交易が盛んで情報も集まる場所だった。
酒場クライノートで、僕は商船の船長であるカサンドラに出会った。
彼女は、女ばかりで営む商船を率いて、シュヴァンツブルグ王国を中心に、小麦粉の交易で稼いでいるらしく、初対面の僕の語る怪談を聞いて、怖がったり笑ったりした上に、チップも弾んでくれて、最高のお客であった。
そんな彼女が、自分にも一つだけ体験談があるからと語りだした。
「教えてもらう場合、僕が奢ることになっているんですよ」
と告げると、
「じゃぁ、この店で一番安い酒をあなたに奢ってもらうから、あなたが飲んでちょうだい」
と、安酒であるエールを一杯だけ自腹で飲むこととなった。
そんな姿を、彼女は、そこそこの値段をするワインを飲み干しながら笑った。
「それで体験談というのは?」
「怖いというよりも、不思議な話って感じだけど、聞いてくれる?」
そう言うと、彼女は静かに語りだした。
----------
それは私が船長になったばかりの頃だったわ……。
その頃の私は、シュヴァンツブルグの海運利権に食い込もうと、無理な仕事でもなんでも引き受けてた。
その時は、何故か依頼が余っていたのよ。
後で聞けば、簡単な事なんだけど、その季節は、シュヴァンツブルグ沖に、凪が訪れる時期で、船が立ち往生することが多発すらしいのよ。
そんなことも知らずに、仕事受けちゃったもんだから……本当に大海原のど真ん中で、凪に遭遇して大変だったわ……。
帆船なんて、風がなければ、ただ海に浮かぶ木の塊だもの……。
一週間以上、まったく風が吹かなくて、私も船員達も生きた心地がしなかったわ。
そんな中、事件が起こったのよ。
一人の船員が、マストの上から、周囲を見回していた私を呼んで叫んだの。
「船長! 大変です! 船長の部屋に、怪しい男がいます!」
私の船は、女しかいない女所帯でしょ?
男を連れ込んだら、男女ともに海に放り込むっていう、掟があるくらい厳しくしてきたから、もう船に男がいるだけで大問題なのよ。
ましてや、自分の部屋でしょ? もしも私が男を連れ込んだなんてことになれば、海に放り込まれるハメになるんだから、たまったもんじゃないわけ。
だから急いで武装した船員達と共に、私の部屋に急いだわ。
窓の無い部屋だから、船員の一人がドアを抑えていて、中に人がいるなら、出られないように見張っていたらしいのよ。
私の到着を待って、武装した船員達と共に、私室に飛び込んだ。
でも、誰もいなかったわ……。
ただ、不思議な事に、私が書いた記憶の無いメモが一枚落ちていたのよね……。
そこには、ただ一言『西に迎え』とだけ書かれていたわ。
その翌日。
いきなり風が吹いたのよ。
東から西に向かう東風がね……。
そんなに信心深い方じゃないけど、船員達は、もしかしたら水の神・ジャラ様が現れて、お告げなのかもしれないって言いだしたから、とりあえず、一日はお告げ通り、西に向かって進んだわ。
すると、一艘の小船が、波に流されているのを見つけて、船員達と共に乗り込んだの。
そこにはルベルンダで奴隷にされていたという父母子の3人が乗っていたのよ。
でも、母と幼い娘は、衰弱しているものの、生きていたんだけど、父親は、すでに息絶えていたわ……。
そしたら船員が叫んだのよ。
「この人……船長の部屋に入って行った男ですよ!」
って……。
生きていた母親に話を聞くと、男は「大丈夫だ。もうすぐ助けが来る」そう言うと、今朝がた息を引き取ったっていうのよね……。
----------
「どう? 不思議な話でしょ?」
そう言ってワインを飲みほした。
「その後、そのお母さんと娘さんはどうなったんですか?」
と僕が聞くと、
「今、二人とも私の船で働いてるわ。父親に守られてるんですもの……いい船乗りになるわよ」
カサンドラは、僕を見てほほ笑んだ。
グラナトシュタットは、人口6000人と中規模の街だが、ベルンシュタイン商業都市連合の中では、王都シュヴァンツブルグから一番近いため、交易が盛んで情報も集まる場所だった。
酒場クライノートで、僕は商船の船長であるカサンドラに出会った。
彼女は、女ばかりで営む商船を率いて、シュヴァンツブルグ王国を中心に、小麦粉の交易で稼いでいるらしく、初対面の僕の語る怪談を聞いて、怖がったり笑ったりした上に、チップも弾んでくれて、最高のお客であった。
そんな彼女が、自分にも一つだけ体験談があるからと語りだした。
「教えてもらう場合、僕が奢ることになっているんですよ」
と告げると、
「じゃぁ、この店で一番安い酒をあなたに奢ってもらうから、あなたが飲んでちょうだい」
と、安酒であるエールを一杯だけ自腹で飲むこととなった。
そんな姿を、彼女は、そこそこの値段をするワインを飲み干しながら笑った。
「それで体験談というのは?」
「怖いというよりも、不思議な話って感じだけど、聞いてくれる?」
そう言うと、彼女は静かに語りだした。
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それは私が船長になったばかりの頃だったわ……。
その頃の私は、シュヴァンツブルグの海運利権に食い込もうと、無理な仕事でもなんでも引き受けてた。
その時は、何故か依頼が余っていたのよ。
後で聞けば、簡単な事なんだけど、その季節は、シュヴァンツブルグ沖に、凪が訪れる時期で、船が立ち往生することが多発すらしいのよ。
そんなことも知らずに、仕事受けちゃったもんだから……本当に大海原のど真ん中で、凪に遭遇して大変だったわ……。
帆船なんて、風がなければ、ただ海に浮かぶ木の塊だもの……。
一週間以上、まったく風が吹かなくて、私も船員達も生きた心地がしなかったわ。
そんな中、事件が起こったのよ。
一人の船員が、マストの上から、周囲を見回していた私を呼んで叫んだの。
「船長! 大変です! 船長の部屋に、怪しい男がいます!」
私の船は、女しかいない女所帯でしょ?
男を連れ込んだら、男女ともに海に放り込むっていう、掟があるくらい厳しくしてきたから、もう船に男がいるだけで大問題なのよ。
ましてや、自分の部屋でしょ? もしも私が男を連れ込んだなんてことになれば、海に放り込まれるハメになるんだから、たまったもんじゃないわけ。
だから急いで武装した船員達と共に、私の部屋に急いだわ。
窓の無い部屋だから、船員の一人がドアを抑えていて、中に人がいるなら、出られないように見張っていたらしいのよ。
私の到着を待って、武装した船員達と共に、私室に飛び込んだ。
でも、誰もいなかったわ……。
ただ、不思議な事に、私が書いた記憶の無いメモが一枚落ちていたのよね……。
そこには、ただ一言『西に迎え』とだけ書かれていたわ。
その翌日。
いきなり風が吹いたのよ。
東から西に向かう東風がね……。
そんなに信心深い方じゃないけど、船員達は、もしかしたら水の神・ジャラ様が現れて、お告げなのかもしれないって言いだしたから、とりあえず、一日はお告げ通り、西に向かって進んだわ。
すると、一艘の小船が、波に流されているのを見つけて、船員達と共に乗り込んだの。
そこにはルベルンダで奴隷にされていたという父母子の3人が乗っていたのよ。
でも、母と幼い娘は、衰弱しているものの、生きていたんだけど、父親は、すでに息絶えていたわ……。
そしたら船員が叫んだのよ。
「この人……船長の部屋に入って行った男ですよ!」
って……。
生きていた母親に話を聞くと、男は「大丈夫だ。もうすぐ助けが来る」そう言うと、今朝がた息を引き取ったっていうのよね……。
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「どう? 不思議な話でしょ?」
そう言ってワインを飲みほした。
「その後、そのお母さんと娘さんはどうなったんですか?」
と僕が聞くと、
「今、二人とも私の船で働いてるわ。父親に守られてるんですもの……いい船乗りになるわよ」
カサンドラは、僕を見てほほ笑んだ。
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