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4 扉の向こう
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扉を潜り抜ける瞬間、何か膜のようなもので体を包まれたような、おかしな感覚があった。
思わず目を瞑る。
すぐにその感覚も薄れたので目を開けてみたが、今度は驚きのあまり大きな声を上げてしまった。
「えええっ!?」
そこには、今まで私が立っていた出張所を、ちょうど鏡に映したかのような光景が広がっていた。
十畳ほどの空間をカウンターで仕切り、重そうなガラス扉を開けて入って来れる店舗部分と、カウンターの向こうの作業場所とに分けられているのはまったく同じ。
ただ出張所の壁は白いコンクート製で、床もビニール製なのに、そこは壁も床も濃い色の板張りだった。
そのせいか、雰囲気はまったく異なる。
ちょっとレトロで、どこか懐かしい感じ――。
「え? え?」
いったいどういうことだろうと、今入って来たばかりの扉をふり返ってみたが、そこには扉などなかった。
部屋の他の部分と同じように、木製の壁があるばかりだ。
「えええっ?」
焦る私を、ガラス扉から次々と入ってくる利用客は誰も気にしない。
さまざまな形の荷物を、出張所では計りが置かれていた場所に据えられた天秤に乗せ、分銅を使って重さを測り、カウンター越しに申告している。
どうやら宅配便の店舗であることには変わりないようだが、預けようとしている荷物同様、彼らがさまざまな形相をしていることに、気がついた。
頭から角が生えている者、目が一つしかない者、逆に無数の目がある者。
一見普通に見える者でも、よく見れば尾が生えていたり、歩いたあとに水たまりができていたり――。
(なにこれ!? なにこれーーーーっ!!)
うっかり悲鳴を上げて彼らの注目を集めないよう、必死に両手で口を覆った私に、鋭い声がかかった。
「おいお前! どこから入ってきた?」
カウンターの向こうから私に厳しい視線を向けてくるのは、黒髪で背の高い若い男だ。
鼻筋の通ったとても整った顔をしているが、三白眼ぎみの目つきが怖い。
まるで犯罪者でも見つけたかのように、睨んでくる。
「私? 私は、あの……!」
確かに扉があったはずの背後の壁を、焦って撫でまわしても木の壁の感触しかない。
「ここに扉があってですね……それで……!」
懸命に説明しようとする私を、胡乱な目で見ている黒髪の男よりずっと手前で、カウンター越しに来店客の相手をしていた人物が、バッと顔を上げた。
「ひょっとして、あっちの世界から入ってきちゃった? うわー、何十年ぶりだろ、ね、クロ?」
満面の笑顔で背後の男をふり返るその人も、若い男だ。
こちらは少しクセのある白い髪をしている。
赤いフレームの眼鏡を鼻の先に乗せて、上目遣いに私を見てくる大きな目は、金色がかった薄い色に見えた。
(純粋な日本人じゃないよね……ハーフ?)
いずれにせよ、とんでもなく美形なことは確かだ。
「あっちの世界って……?」
おそるおそる訊ねる私に、にっこり笑う笑顔が愛くるしい。
「今は忙しいんで、説明はあとでいいかな?」
そう言いながら、カウンターの中に入って来いと私を手招きする。
「宅配便のプロでしょ? ちょっと手伝ってもらっていい?」
「あ、はい……」
人好きのする笑顔につられて、私がカウンターの中に入ると、黒髪のほうの男が不満げな声を上げた。
「おい、シロ!」
『シロ』と呼ばれた白髪の男は、黒髪の男を笑顔で制する。
「いいじゃん、いいじゃん、いつもよりお客さんが多いんだし……このままだと残業になるよ? クロだって早く帰れるほうがいいでしょ?」
「…………」
『クロ』と呼ばれた黒髪の男は、私を睨みながらも、受け付けた荷物をカウンターの奥に積むという作業に戻った。
『シロ』という男の隣に呼ばれ、私もカウンター越しに宅配便を受け付けることになる。
しかし――。
思わず目を瞑る。
すぐにその感覚も薄れたので目を開けてみたが、今度は驚きのあまり大きな声を上げてしまった。
「えええっ!?」
そこには、今まで私が立っていた出張所を、ちょうど鏡に映したかのような光景が広がっていた。
十畳ほどの空間をカウンターで仕切り、重そうなガラス扉を開けて入って来れる店舗部分と、カウンターの向こうの作業場所とに分けられているのはまったく同じ。
ただ出張所の壁は白いコンクート製で、床もビニール製なのに、そこは壁も床も濃い色の板張りだった。
そのせいか、雰囲気はまったく異なる。
ちょっとレトロで、どこか懐かしい感じ――。
「え? え?」
いったいどういうことだろうと、今入って来たばかりの扉をふり返ってみたが、そこには扉などなかった。
部屋の他の部分と同じように、木製の壁があるばかりだ。
「えええっ?」
焦る私を、ガラス扉から次々と入ってくる利用客は誰も気にしない。
さまざまな形の荷物を、出張所では計りが置かれていた場所に据えられた天秤に乗せ、分銅を使って重さを測り、カウンター越しに申告している。
どうやら宅配便の店舗であることには変わりないようだが、預けようとしている荷物同様、彼らがさまざまな形相をしていることに、気がついた。
頭から角が生えている者、目が一つしかない者、逆に無数の目がある者。
一見普通に見える者でも、よく見れば尾が生えていたり、歩いたあとに水たまりができていたり――。
(なにこれ!? なにこれーーーーっ!!)
うっかり悲鳴を上げて彼らの注目を集めないよう、必死に両手で口を覆った私に、鋭い声がかかった。
「おいお前! どこから入ってきた?」
カウンターの向こうから私に厳しい視線を向けてくるのは、黒髪で背の高い若い男だ。
鼻筋の通ったとても整った顔をしているが、三白眼ぎみの目つきが怖い。
まるで犯罪者でも見つけたかのように、睨んでくる。
「私? 私は、あの……!」
確かに扉があったはずの背後の壁を、焦って撫でまわしても木の壁の感触しかない。
「ここに扉があってですね……それで……!」
懸命に説明しようとする私を、胡乱な目で見ている黒髪の男よりずっと手前で、カウンター越しに来店客の相手をしていた人物が、バッと顔を上げた。
「ひょっとして、あっちの世界から入ってきちゃった? うわー、何十年ぶりだろ、ね、クロ?」
満面の笑顔で背後の男をふり返るその人も、若い男だ。
こちらは少しクセのある白い髪をしている。
赤いフレームの眼鏡を鼻の先に乗せて、上目遣いに私を見てくる大きな目は、金色がかった薄い色に見えた。
(純粋な日本人じゃないよね……ハーフ?)
いずれにせよ、とんでもなく美形なことは確かだ。
「あっちの世界って……?」
おそるおそる訊ねる私に、にっこり笑う笑顔が愛くるしい。
「今は忙しいんで、説明はあとでいいかな?」
そう言いながら、カウンターの中に入って来いと私を手招きする。
「宅配便のプロでしょ? ちょっと手伝ってもらっていい?」
「あ、はい……」
人好きのする笑顔につられて、私がカウンターの中に入ると、黒髪のほうの男が不満げな声を上げた。
「おい、シロ!」
『シロ』と呼ばれた白髪の男は、黒髪の男を笑顔で制する。
「いいじゃん、いいじゃん、いつもよりお客さんが多いんだし……このままだと残業になるよ? クロだって早く帰れるほうがいいでしょ?」
「…………」
『クロ』と呼ばれた黒髪の男は、私を睨みながらも、受け付けた荷物をカウンターの奥に積むという作業に戻った。
『シロ』という男の隣に呼ばれ、私もカウンター越しに宅配便を受け付けることになる。
しかし――。
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