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9 昨日までとは違う日々
③
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「よし、もういいぞ。そろそろ目を開けてみろ、瑞穂」
偉そうな言い方に少しひっかかりを覚えながらも、私は緊張で固く閉じていた目を、いったい何事だろうと開いてみる。
すると、足もとに宝石箱をひっくり返したような夜景が広がっており、今度こそ声を大にして叫ぶ。
「ぎゃあああああ」
「うるさいっ!」
本気で叫び返したクロは、眉をしかめて顔を背けはしても、私を抱きしめる手は緩めない。
そうでなければ飛行機並みのこの高さ、とても正視してなどいられない。
慌てて彼の首にしがみつきながら、私はクロが鳥型になっていることを改めて確認した。
といっても彼の場合、シロと違い、背中に羽が生えてほぼ全身が黒い装束に覆われてしまっている以外は、人型の時とあまり変わりがない。
だからこそ、全力でしがみついていることがどこか恥ずかしい気持ちも捨てきれない。
(でもこれは、命に係わることだから! この高さから落ちたら、本当に死ぬから!)
必死に自分に言い聞かせながら、私は足もとに広がる夜景にもう一度視線を落とした。
家々の灯りと、車のライトの列。帯状になったり、点々と瞬いたり、色とりどりの光の群れがどこまでも広がるさまは、ため息が出るほど美しい。
「綺麗……」
思わず呟いた私に、クロがかすかに笑った気配がした。
「この街に住むどんな人間よりも、お前は今、高い場所にいる」
「え?」
見上げたクロの瞳は、これまで見たどの時より、優しい色をしているように見える。
「見ろ。他のどんな人間も、全部お前の下だ」
「うん……」
ずいぶんわかりにくい表現ではあるが、どうやら彼なりに私を元気づけようとしてくれているらしい。
しばらくそうして上空から夜景を眺めていると、本当に気持ちが落ち着いてきた。
「ありがとう」
お礼を言うと、それには答えず、クロは降下を始める。
「降りるぞ」
今度は宣言してからゆっくりと高度を下げてくれたので、光の海の中に降り立つ感覚も体験できた。
一つ一つの光が、それぞれ違う輪郭を持って、次第に見慣れた風景になっていくさまは、シロがどこからか宅配の荷物をとり出す瞬間にも似ているように感じる。
(確かにこんな経験、誰でもできるものじゃない……)
そう思うと、悔しさや悲しさも少し薄らいだように思うから不思議だ。
(もともと、夕方からずっと驚くことばっかりで、夢の中にいるかのようなんだもの……)
偶然垣間見たリアルな光景のせいで、一瞬胸の痛みを思い出してしまった私に、白い着物を着た、この世のものとは思えない美青年が、問いかける。
「帰りはどっちと帰るー? やっぱり俺ー?」
「そ、そうだね」
悪びれない笑顔のシロに私が頷くと、それを見守っていた黒い着物の美青年は、買いもの袋を提げてさっさと大股で歩きだす。
「余計な荷物が増えなくて、こっちは願ったりだ……あとから着いたほうが、明日の掃除係な」
クロは言いながら歩みを駆け足に変え、ばさっと黒い翼を広げて、夜空に高く舞い上がってしまった。
「え? は? ちょっと! 勝手に決めるなよ!」
シロは大慌てで獣型になり、金色の瞳を私に向ける。
「瑞穂ちゃん、全力疾走するから、落っこちないようにしっかり掴まってて!」
言うが早いか、山へ向かって駆け出す。
「ひぇえええええ」
言われたとおり、全力でその背中にしがみつきながら、住み慣れた街がうしろに遠ざかっていくことに、私は寂しさのようなものは感じなかった。
逆に、これから更にどんな驚きの日々が私を待ち受けているのか、どこかわくわくするような気持ちのほうが、ずっとずっと大きかった――。
偉そうな言い方に少しひっかかりを覚えながらも、私は緊張で固く閉じていた目を、いったい何事だろうと開いてみる。
すると、足もとに宝石箱をひっくり返したような夜景が広がっており、今度こそ声を大にして叫ぶ。
「ぎゃあああああ」
「うるさいっ!」
本気で叫び返したクロは、眉をしかめて顔を背けはしても、私を抱きしめる手は緩めない。
そうでなければ飛行機並みのこの高さ、とても正視してなどいられない。
慌てて彼の首にしがみつきながら、私はクロが鳥型になっていることを改めて確認した。
といっても彼の場合、シロと違い、背中に羽が生えてほぼ全身が黒い装束に覆われてしまっている以外は、人型の時とあまり変わりがない。
だからこそ、全力でしがみついていることがどこか恥ずかしい気持ちも捨てきれない。
(でもこれは、命に係わることだから! この高さから落ちたら、本当に死ぬから!)
必死に自分に言い聞かせながら、私は足もとに広がる夜景にもう一度視線を落とした。
家々の灯りと、車のライトの列。帯状になったり、点々と瞬いたり、色とりどりの光の群れがどこまでも広がるさまは、ため息が出るほど美しい。
「綺麗……」
思わず呟いた私に、クロがかすかに笑った気配がした。
「この街に住むどんな人間よりも、お前は今、高い場所にいる」
「え?」
見上げたクロの瞳は、これまで見たどの時より、優しい色をしているように見える。
「見ろ。他のどんな人間も、全部お前の下だ」
「うん……」
ずいぶんわかりにくい表現ではあるが、どうやら彼なりに私を元気づけようとしてくれているらしい。
しばらくそうして上空から夜景を眺めていると、本当に気持ちが落ち着いてきた。
「ありがとう」
お礼を言うと、それには答えず、クロは降下を始める。
「降りるぞ」
今度は宣言してからゆっくりと高度を下げてくれたので、光の海の中に降り立つ感覚も体験できた。
一つ一つの光が、それぞれ違う輪郭を持って、次第に見慣れた風景になっていくさまは、シロがどこからか宅配の荷物をとり出す瞬間にも似ているように感じる。
(確かにこんな経験、誰でもできるものじゃない……)
そう思うと、悔しさや悲しさも少し薄らいだように思うから不思議だ。
(もともと、夕方からずっと驚くことばっかりで、夢の中にいるかのようなんだもの……)
偶然垣間見たリアルな光景のせいで、一瞬胸の痛みを思い出してしまった私に、白い着物を着た、この世のものとは思えない美青年が、問いかける。
「帰りはどっちと帰るー? やっぱり俺ー?」
「そ、そうだね」
悪びれない笑顔のシロに私が頷くと、それを見守っていた黒い着物の美青年は、買いもの袋を提げてさっさと大股で歩きだす。
「余計な荷物が増えなくて、こっちは願ったりだ……あとから着いたほうが、明日の掃除係な」
クロは言いながら歩みを駆け足に変え、ばさっと黒い翼を広げて、夜空に高く舞い上がってしまった。
「え? は? ちょっと! 勝手に決めるなよ!」
シロは大慌てで獣型になり、金色の瞳を私に向ける。
「瑞穂ちゃん、全力疾走するから、落っこちないようにしっかり掴まってて!」
言うが早いか、山へ向かって駆け出す。
「ひぇえええええ」
言われたとおり、全力でその背中にしがみつきながら、住み慣れた街がうしろに遠ざかっていくことに、私は寂しさのようなものは感じなかった。
逆に、これから更にどんな驚きの日々が私を待ち受けているのか、どこかわくわくするような気持ちのほうが、ずっとずっと大きかった――。
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