大鳥居横あやかし宅配便~ワケアリ荷物お届けします~

シェリンカ

文字の大きさ
29 / 77
10 新しい朝

しおりを挟む
「はい、瑞穂ちゃん。ご飯はお代わりもたくさんあるよー」

 シロが手渡してくれた茶碗を無言で受け取りながら、私は複雑な気持ちを拭えない。
 丸い卓袱台には、三人分の焼鮭と味噌汁と卵焼きと漬物。
 どれもほっぺたが落ちそうに美味しくて、隣でガツガツ食べているシロに負けない勢いで食べられる自信もあるが、私はあえて黙々と食べ続けた。

 私が何も話さないことをクロは特に気にしていないらしく、同じように黙して食事をしている。
しかしシロは、とても気になるらしい。
 ちらちらと様子をうかがい、何度か虚しく声をかけたあと、ついに私に向き直る。

「瑞穂ちゃん、ほんとゴメンって……そんなに怒ると思わなかったんだよー」

 殊勝に顔の前で手を合わせているが、あいかわらず言葉が軽すぎて、あまり謝られている気はしない。

「昨夜、帰る途中で疲れきって寝ちゃったから、とりあえずこの部屋で寝かせたってだけで、本当は一人で使ってくれていい部屋もあるし、なんなら鍵もかかるしー」

 鍵などはたして彼らに意味があるのだろうかと考えながら、私はひとまず口くらいは開いてあげることにした。
 食べ終わった茶碗と箸を置いて、シロのほうを向く。

「居間で寝ていた理由はわかった……でも、着替えは? どうやって私、パジャマに着替えたの?」
「それは……」

 いかにも言い難そうに言葉を切ったシロに、助けを求めるように目を向けられ、クロも手にしていた箸を置く。

「そんなの簡単なことだ。こうやって……」

 面倒そうに言いながら、私を見つめるクロの目が妖しく光り始めたところで、シロが慌てて割って入った。

「ストップ! ストーーーーップ!! 今やんなくていいから!」

 クロの瞳に吸い寄せられたように、意識が飛んでいた私は、シロの叫びではっと我に返った。

(なんだったの? 今の?)

 考えるのも恐ろしい。

 シロは困ったように、私に向かってまた手を合わせる。

「とにかく、俺たちが服装を変えるのと同じような方法だよ。誓って瑞穂ちゃんには指一本触れてません! 御橋神社に祀られている神さまに誓って!」

 ぱんぱんと柏手を打ってみせるシロを、私はそろそろ許してやることにした。

「わかった……もういい」

 もとはと言えば、昨晩帰る途中で寝落ちてしまった私が悪いのだ。
 眠る私を背中に乗せて帰ったシロは、落ちないように気を配るだけでも大変だったろうに、クロが勝手に始めた競争にも負けて、今日の掃除係になっている。

 本当は感謝こそすれ、非難することではないのかもしれないが、知らない間にパジャマに着替えさせられていたことと、実は直前までシロも隣で寝ていたとクロに聞かされて、すっかり頭に血が上ってしまった。

「もう気にしないことにする」

 見た目が若い男の子ということをいったん忘れて、大きな白狐が添い寝していたと思えばいい。
 むしろその背中に、昨晩はあんなに自分からしがみついていたのだから――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが愛人を作るのなら

あんど もあ
ファンタジー
結婚して八年の夫が、愛人を作った。それも私の推しの女優を! 「君と違って彼女には才能がある」と言う。ならば、私も才能のある愛人を持つ事にいたしましょう。愛人の才能を花開かせる事が出来るのはどちら?

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...