大鳥居横あやかし宅配便~ワケアリ荷物お届けします~

シェリンカ

文字の大きさ
30 / 77
10 新しい朝

しおりを挟む
 目を閉じて必死に瞑想する私以外の二人が、立ち上がる気配があった。

(え……?)

 目を開いてみると、私のぶんまでさっさと食べ終わった食器を台所へ運び、手早く二人で洗い終わって、各々何かの支度を始める。

「どこか行くの?」

 何げなく聞いてみた私に、クロが鋭い視線を向けた。

「もちろん仕事だ。完全に週三日しか働かない誰かさんと違って、こっちは、昼間は毎日普通に働いてるんだ」
「えーーーーっ!」

 確か昨夜、シロからちらりとそういう話を聞いた気もしたが、ぴしっとスーツを着て、ネクタイを締めるクロの姿を、私は驚きの思いで見つめる。
 シロも寝癖のついた髪を直して、カラフルなヘアピンでサイドを留め、赤い眼鏡をかけて洗面所から帰ってきた。

「俺も今日は一限から授業―」

 軽やかに玄関へ向かう背中に、私は慌てて問いかける。

「昨夜も遅くまで宅配便の仕事だったし、あまり寝てないんじゃ? ……大丈夫?」
「うん、ありがと」

 シロは曖昧に笑ってごまかすだけだが、その彼を追い越して先に玄関に着き、革靴を履いているクロが、ふり返らずに答える。

「瑞穂。お前……あやかしが寝ると思ってるのか?」
「え?」

 瞳を瞬かせた私からそっと目を逸らし、シロは逃げるように家を出ていく。

「じ、じゃあ俺、行ってきまーす」

 その背中をぽかんと見送り、私は我に返った。

(寝なくてもいいんなら、昨夜シロくんが私の隣で寝てたのはなんで? ねえ、なんでなの!?)

 今にも叫び出しそうな私の気配を察したらしく、クロが付け足すように呟く。

「シロはまあ……ちょっと特殊だから……」

 このタイミングでそんなことを言われても、とっさのごまかしだとしか思えない。
 怒りでぶるぶる震える私をさすがに放っては出勤できないらしく、クロが困ったように問いかけた。

「瑞穂……お前、今夜は何が食べたい?」
「え……?」

 不意を突かれて見たクロの顔は、照れたようにかすかに赤くなっているようにも見える。
 私は慌てて、顔を伏せた。

「鍋……」

 焦りのあまり適当に口にした、まるで季節違いのリクエストを、クロの声は少し嬉しそうにくり返す。

「鍋な、わかった」

 がらがらっと扉を開けて出ていく背中を見送り、朝からいろんな意味ですっかり疲れきった私は、へなへなと廊下に座りこんだ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが愛人を作るのなら

あんど もあ
ファンタジー
結婚して八年の夫が、愛人を作った。それも私の推しの女優を! 「君と違って彼女には才能がある」と言う。ならば、私も才能のある愛人を持つ事にいたしましょう。愛人の才能を花開かせる事が出来るのはどちら?

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...