大鳥居横あやかし宅配便~ワケアリ荷物お届けします~

シェリンカ

文字の大きさ
34 / 77
11 ふしぎな女の子

しおりを挟む
 翌日、朝八時に営業所へ行き、配送車が運んできたこの近辺の荷物を受け取り、配達を済ませてから十時に営業所を開店させると、待ってましたとばかりにガラガラガラと台車を押して、多香子さんがやってきた。

「瑞穂ちゃん、こんにちは。お疲れ様。今日の荷物はこれだけよ。代金はこれ。前回の領収書をくれる?」

 他にお客もいないのだからゆっくりと順番に用を済ませればいいのに、多香子さんはせっせと台車から荷物を下ろし、カウンターの中の私に向かって右手をさし出す。

「ちょ、ちょっと待ってくださいね」

 一昨日準備しておいた領収書を、そよ風宅配便の名前が入った封筒に入れ、手渡すと、多香子さんはいそいそとカウンターに背を向けた。

「じゃあまた明後日ね。今日のぶんの領収書はその時に! ありがとう」

 ばたばたと営業所を出ていく多香子さんを見送るため、私も慌ててカウンターを出て、先に立って重たいガラス扉を押し開ける。

「ありがとうございました! またよろしくお願いします!」

 大きく手を振って帰っていく多香子さんが置き去りにした荷物を、それから仕分けしてカウンターの中へ運び入れ、数を確認して伝票を整理し、売上帳に記入して領収書を書いた。
 それらすべてを、街の営業所でやっていた時の三倍も時間をかけて、一つ一つ丁寧にやったのに、終わって壁に掛けられた時計を見てみたら、まだ十時半。

(三十分しか経ってないじゃない……)

 時間の進みがあまりにも遅いことに絶望しながら、仕方がないので、棚の書類の整理をして、営業所内の掃除までやった。

(でもこれって、本来は営業時間中にやることじゃないわよね)

 お昼になったのでお湯を沸かしてお茶を淹れ、クロが作ってくれたお弁当を食べる。

「いただきます」

 自分とシロのぶんを作るついでだからと、出がけに渡されたが、楕円形の竹製のお弁当箱の蓋を開いてみると、彩りの美しさと栄養バランスの見事さに感嘆せずにはいられない。

(鰤の照り焼きとほうれん草のお浸し、卵焼き、きんぴら、ミニトマト、ゆかりご飯……)

 ぴしっとスーツを着こなしたクロも、おしゃれな大学生のシロも、それぞれの昼の活動場所でこのお弁当を開いているのかと思うと笑いがこみ上げてくる。

(ぜったい料理男子って思われてるでしょ)

 自分だけは、この綺麗で美味しそうなお弁当を、見せる相手がいないことを少し寂しく思いながら、私は全て食べ終えて、奥の小さな流し台でお弁当箱を洗い、乾かすまでしておいた。

(休憩時間と仕事時間の線引きが難しいな……)

 することもないので、午後からも掃除を続け、そろそろやる場所もなくなったので屋外にまで手を伸ばそうかと思った頃、ようやくガラス扉の向こうに人影が映った。

「あ……」

 昨日麦わら帽子を貸してくれたお婆さんだと思い当たり、急いでカウンターを出て、扉を開いてやる。
 営業所内へ入って来たお婆さんは、今日は誰かへ送るための荷物は持参していなかったが、手提げ袋の中から大きな包みをとり出した。

「瑞穂ちゃん、これ。蒸しパンだけど、たくさん作ったからおすそ分け」

 ラップに包んだ丸い蒸しパンをさし出されて、思わず手を叩いて喜んでしまった。

「やったあ! ありがとうございます!」

 私に蒸しパンを手渡したお婆さんは、ニコニコしながら周囲を見まわしている。
 壁際に並べた順番待ち用の椅子に目を止めたように見えたので、私は急いでカウンターを出て、椅子をもっと部屋の真ん中に移動してあげた。

「よかったらお茶でもどうですか? 今淹れますから」

 流しの隣の棚に幾つもしまわれている湯呑みは、前任の田中さんもそういう使い方をしていたのだろうと勝手に解釈する。

「ありがとう」

 椅子にちょこんと座ったお婆さんは、背が低すぎてカウンターの向こうに見えなくなってしまったので、私もカウンターを出て、お婆さんの横に椅子を並べて座ることにした。
 ガラス扉越しに参道の風景を見ながら、のんびりと二人でお茶を飲む。

 午前中にガラスをピカピカに磨いておいてよかったと思った。
 参拝客が御橋神社へ向かって歩いている光景がよく見える。

「お参りの人、多いですね」
「有名なお宮じゃけえね」

 年配の団体客や着物姿の男女。制服姿の若い子たちは修学旅行だろうか。
 土産物屋や甘味処、食堂や足湯などは人で賑わっているが、参道沿いにあるというのに、宅配便の出張所はさっぱりだ。

「お客さん来ないな」

 思わず声に出して呟くと、お婆さんはふぉふぉふぉと笑った。

「庄吉さんもよくそう言っちょった」
「やっぱりですか?」

 思わず一緒に笑った時、ガラス扉の端から見たことのある顔がぬっと現れた。
 黒髪の女の子で、私と目があうと慌てておかっぱの頭が引っ込む。
 私は急いで椅子を立ち、扉に駆け寄って呼びかけた。

「みやちゃん!」

 慌てて建物の陰に隠れかけていた少女は、私が扉を開いて呼びかけると足を止める。
 うかがうような目でふり返るので、私はなるべく笑顔を心がけて、少女を手招きした。

「遊びに来たの? おいで、蒸しパンがあるよ」

 少女はぱあっと顔を輝かせて、ぱたぱたと足音をたてて駆け寄ってくる。
 腕に抱き上げて出張所の中へ連れて帰ると、お婆さんが目をまん丸に見開いていた。

「あれまあ……瑞穂ちゃん、みや様と知りあっちょったの……?」

 少女は私の腕の中で体を捻って、お婆さんに手を振る。

「千代!」

 それでお婆さんの名前は千代さんというのだと、初めて知った。

 少女をカウンターの中へ連れていって手を洗わせてから、私がさっきまで座っていた椅子に座らせる。
 千代さんから蒸しパンを受け取ったみやちゃんは、可愛らしいお口を大きく開けて噛みつき、とても嬉しそうだ。

 もう一つ椅子を出してきて、千代さんと私でみやちゃんを挟む並びになって、しばらく一緒にお茶を飲んだり蒸しパンを食べたり、参道を眺めたりした。

 千代さんが帰る時、みやちゃんも一緒に帰っていったのだが、みやちゃんの手を引きながら千代さんが、私にふり返って言った。

「みや様と仲良くなったんなら、瑞穂ちゃん。暇だと言ってられるのも今のうちだけじゃよ」
「え?」

 どういう意味だと聞き返すことはできなかった。
 私が返した麦わら帽子を片手に、反対の手にはみやちゃんの手を引いて、千代さんは神社のほうへ帰っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが愛人を作るのなら

あんど もあ
ファンタジー
結婚して八年の夫が、愛人を作った。それも私の推しの女優を! 「君と違って彼女には才能がある」と言う。ならば、私も才能のある愛人を持つ事にいたしましょう。愛人の才能を花開かせる事が出来るのはどちら?

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...