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12 豆だぬきの依頼
④
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その夜、彼らが何時ごろ仕事を終えて帰ってきたのかを私は知らない。
茶の間で豆太くんの荷物を抱えたまま、途方に暮れた私は、どうやら眠ってしまったらしく、気が付くと翌日の朝だった。
「――――!」
初日の夜に続き、自分に割り当ててもらった部屋に帰らず居間で寝てしまったことに焦って飛び起きたが、今回は服装が変わっていることもなかった。
そよかぜ宅配便の制服のままだ。
「ああ……着替えさせてもどうせまた、その服に着替えなくちゃならないだろうと思ってほっといた」
涼しい顔で厭味を言うクロは、朝からきっちりと髪形も決まっている。
自分が作った朝食をさっさと食べ終わると、スーツ姿にネクタイをびしっと締めたビジネスマンスタイルになって、早々に家を出ていく。
「シロ……今日は何限からだ?」
「昼からだよ」
「弁当の残りのおかずがそこにあるから、昼に瑞穂と食べろ。定時には帰れるはずだから、買い物は俺がしてくる」
「はーい」
シロにだけ言いたいことを言うと、さっさと行ってしまった。
今日はのんびり朝ご飯を食べていていいらしいシロと、私はクロが作ってくれたご飯をいただく。
「今日も美味しいね」
「うん……」
ぽりぽりときゅうりの漬物を噛んでいる私に、シロが視線を向けた。
「瑞穂ちゃんさ……豆太の荷物、どうやって運ぶつもり?」
昨晩ぼんやりと考えた答えを、私はシロに話す。
「私の車で……しかないよね。シロくんやクロさんみたいに空は飛べないし……」
「いや、そうじゃなくて……」
シロは私が脇に置いている豆太くんの荷物を箸で指さした。
「届け先、わからないでしょ?」
「え?」
言われて、まじまじとそのニ十センチ四方の荷物を見直して、初めて気が付く。
一般的な宅配便の伝票替わりであろう木簡には、確かに宛先の名前しか書かれていない。
私は昨日、豆太くんにそれしか聞かなかったし、それしか木簡に書かなった。
住所を書く欄などなかったからだ。
「しまった! やっぱり住所も聞くんだった? でも書くところが……」
頭を抱える私を見て、シロくんは明るくはははと笑った。
「ううん、普通は名前だけでいいよ。あやかしからあやかし宛ての場合はね。俺たちは住所を頼りに配達に行くんじゃないから」
「そ、そうなんだ……」
だったらどうやって行くのだろうと訝りながらも、私はひとまず頷く。
「うん。でも昼間の宅配便は違うでしょ? 住所を書いてもらって、それに従って行くんだよね?」
「うん。どうしよう……」
茶碗と箸をいったん置いて、豆太くんの荷物を膝に抱え上げ、私は必死に知恵を絞った。
「幸い、山の上出張所で私の前に働いていた人みたいだから、お家を千代さんに教えてもらうか、多香子さんに教えてもらうか……わかるのかな?」
場合によっては雅司に連絡して、職員名簿を当たってもらうことになるかもしれないと思っていると、シロくんが卓袱台の向こうから身を乗り出して、私の顔を覗きこんだ。
「俺が一緒について行こうか?」
「え……?」
それで田中庄吉さんの住所がわかるのかと、私は疑問に思ったが、シロはもう決定したとばかりに自分の座布団に座り直し、食事を続ける。
「狭間の時間の宅配屋として行くんじゃないから、姿は変えられないし、空も飛べないけど、道案内くらいはできるよ」
自信たっぷりのその顔に、私は賭けてみることにした。
「じゃあ、お願いしようかな……」
「うん、任しといて!」
ひとまずクロが作ってくれた朝食を食べ、その後片付けをしてから、私たちは豆太くんの荷物を配達に出た。
茶の間で豆太くんの荷物を抱えたまま、途方に暮れた私は、どうやら眠ってしまったらしく、気が付くと翌日の朝だった。
「――――!」
初日の夜に続き、自分に割り当ててもらった部屋に帰らず居間で寝てしまったことに焦って飛び起きたが、今回は服装が変わっていることもなかった。
そよかぜ宅配便の制服のままだ。
「ああ……着替えさせてもどうせまた、その服に着替えなくちゃならないだろうと思ってほっといた」
涼しい顔で厭味を言うクロは、朝からきっちりと髪形も決まっている。
自分が作った朝食をさっさと食べ終わると、スーツ姿にネクタイをびしっと締めたビジネスマンスタイルになって、早々に家を出ていく。
「シロ……今日は何限からだ?」
「昼からだよ」
「弁当の残りのおかずがそこにあるから、昼に瑞穂と食べろ。定時には帰れるはずだから、買い物は俺がしてくる」
「はーい」
シロにだけ言いたいことを言うと、さっさと行ってしまった。
今日はのんびり朝ご飯を食べていていいらしいシロと、私はクロが作ってくれたご飯をいただく。
「今日も美味しいね」
「うん……」
ぽりぽりときゅうりの漬物を噛んでいる私に、シロが視線を向けた。
「瑞穂ちゃんさ……豆太の荷物、どうやって運ぶつもり?」
昨晩ぼんやりと考えた答えを、私はシロに話す。
「私の車で……しかないよね。シロくんやクロさんみたいに空は飛べないし……」
「いや、そうじゃなくて……」
シロは私が脇に置いている豆太くんの荷物を箸で指さした。
「届け先、わからないでしょ?」
「え?」
言われて、まじまじとそのニ十センチ四方の荷物を見直して、初めて気が付く。
一般的な宅配便の伝票替わりであろう木簡には、確かに宛先の名前しか書かれていない。
私は昨日、豆太くんにそれしか聞かなかったし、それしか木簡に書かなった。
住所を書く欄などなかったからだ。
「しまった! やっぱり住所も聞くんだった? でも書くところが……」
頭を抱える私を見て、シロくんは明るくはははと笑った。
「ううん、普通は名前だけでいいよ。あやかしからあやかし宛ての場合はね。俺たちは住所を頼りに配達に行くんじゃないから」
「そ、そうなんだ……」
だったらどうやって行くのだろうと訝りながらも、私はひとまず頷く。
「うん。でも昼間の宅配便は違うでしょ? 住所を書いてもらって、それに従って行くんだよね?」
「うん。どうしよう……」
茶碗と箸をいったん置いて、豆太くんの荷物を膝に抱え上げ、私は必死に知恵を絞った。
「幸い、山の上出張所で私の前に働いていた人みたいだから、お家を千代さんに教えてもらうか、多香子さんに教えてもらうか……わかるのかな?」
場合によっては雅司に連絡して、職員名簿を当たってもらうことになるかもしれないと思っていると、シロくんが卓袱台の向こうから身を乗り出して、私の顔を覗きこんだ。
「俺が一緒について行こうか?」
「え……?」
それで田中庄吉さんの住所がわかるのかと、私は疑問に思ったが、シロはもう決定したとばかりに自分の座布団に座り直し、食事を続ける。
「狭間の時間の宅配屋として行くんじゃないから、姿は変えられないし、空も飛べないけど、道案内くらいはできるよ」
自信たっぷりのその顔に、私は賭けてみることにした。
「じゃあ、お願いしようかな……」
「うん、任しといて!」
ひとまずクロが作ってくれた朝食を食べ、その後片付けをしてから、私たちは豆太くんの荷物を配達に出た。
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