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14 神車のお札
①
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翌日の出張所で、開店時間と同時にがらがらと台車を押してやってきた多香子さんは、私の顔を見た瞬間に、昨夜のシロと同じことを言った。
「あら、瑞穂ちゃんすごい顔……何? 失恋でもした?」
「そんな相手いません」
昨夜シロにしたのと同じ返事をして、私は田中さんが都会の息子さんのところへ行くことになったと説明する。
「なるほどね……でも寂しいけど、そのほうがいいわよ。やっぱり一人じゃ心配だもの」
「そうですよね」
私も頭ではわかっているのだ。
だがここしばらく一日おきに会っていたせいで、どうしても寂しい気持ちのほうが勝る。
豆太くんはなおさらだろう。
(いったいどう説明したらいいんだろう……)
昼からもかなり落ちこんで、いつもより千代さんとの会話も弾まないでいると、珍しくみやちゃんが自分から口を開いた。
「瑞穂は、本当はどうしたい?」
「え……」
普段は、私と千代さんの会話に耳を傾けているだけ、たまに問いかけられたら返事をするくらいのみやちゃんが、逆に質問してきたことに驚いて、私はなるべく丁寧に答えなければと思った。
昨日から、何度も心の中で思い描いていたことを思いきって言葉にしてみる。
「そうだな……もし私が、一瞬で山も越えるような特別な力を持っていたら、遠くの街に行っちゃった田中さんにも、これまでと同じように豆太くんの荷物を届けに行けるのにな……とは思うよ」
尋常ではない速さで空を駆ける能力を持つシロやクロをうらやましく思う気持ち半分、小さなみやちゃんになら、とても実現できそうにない願望も、夢として語れるという気持ち半分で言ってみたのだったが、みやちゃんは「わかった」と言って頷いた。
「え?」
驚く私の前で、小さな着物の袂から一枚の紙を取り出す。
「これを瑞穂に」
それは短冊形の紙で、私にはとても読めない達筆で、何か文字が記してあった。
「ええっと……これは?」
裏返してみると、裏にも何か書いてある。
黒文字の上に被せるように赤い印が押された仕様は、最近流行りの御朱印にも似ている。
「お札……かな?」
形から推測して訊ねてみると、みやちゃんはこっくりと頷いた。
「おやまあ、みや様……神車のお札を下賜されますの?」
みやちゃんは、訊ねた千代さんに黙っていろとばかりに、小さな人差し指を唇に当ててみせる。
「しーっ」
「しーっですね」
千代さんはふふふと笑いながら、私に説明してくれる。
「御橋神社のお札だから、車に貼っておいたらいいね。本当に助けが欲しい時、瑞穂ちゃんが本気で願ったら、きっと助けてくださるよ」
「あ……はい」
みやちゃんは神社の子だったと思い出し、元気のない私を励ますために、お札をくれたのだと理解した。
それも、車に関してご利益がありそうな札を――。
「みやちゃん、ありがとう!」
お礼を言うと、ほんのりと頬を染めて、はにかむように笑われる。
その様子は、もういつも通りのみやちゃんで、私は何の疑いも持たず、彼女がくれたお札を、すぐに車のダッシュボードの裏に貼りに行った。
「あら、瑞穂ちゃんすごい顔……何? 失恋でもした?」
「そんな相手いません」
昨夜シロにしたのと同じ返事をして、私は田中さんが都会の息子さんのところへ行くことになったと説明する。
「なるほどね……でも寂しいけど、そのほうがいいわよ。やっぱり一人じゃ心配だもの」
「そうですよね」
私も頭ではわかっているのだ。
だがここしばらく一日おきに会っていたせいで、どうしても寂しい気持ちのほうが勝る。
豆太くんはなおさらだろう。
(いったいどう説明したらいいんだろう……)
昼からもかなり落ちこんで、いつもより千代さんとの会話も弾まないでいると、珍しくみやちゃんが自分から口を開いた。
「瑞穂は、本当はどうしたい?」
「え……」
普段は、私と千代さんの会話に耳を傾けているだけ、たまに問いかけられたら返事をするくらいのみやちゃんが、逆に質問してきたことに驚いて、私はなるべく丁寧に答えなければと思った。
昨日から、何度も心の中で思い描いていたことを思いきって言葉にしてみる。
「そうだな……もし私が、一瞬で山も越えるような特別な力を持っていたら、遠くの街に行っちゃった田中さんにも、これまでと同じように豆太くんの荷物を届けに行けるのにな……とは思うよ」
尋常ではない速さで空を駆ける能力を持つシロやクロをうらやましく思う気持ち半分、小さなみやちゃんになら、とても実現できそうにない願望も、夢として語れるという気持ち半分で言ってみたのだったが、みやちゃんは「わかった」と言って頷いた。
「え?」
驚く私の前で、小さな着物の袂から一枚の紙を取り出す。
「これを瑞穂に」
それは短冊形の紙で、私にはとても読めない達筆で、何か文字が記してあった。
「ええっと……これは?」
裏返してみると、裏にも何か書いてある。
黒文字の上に被せるように赤い印が押された仕様は、最近流行りの御朱印にも似ている。
「お札……かな?」
形から推測して訊ねてみると、みやちゃんはこっくりと頷いた。
「おやまあ、みや様……神車のお札を下賜されますの?」
みやちゃんは、訊ねた千代さんに黙っていろとばかりに、小さな人差し指を唇に当ててみせる。
「しーっ」
「しーっですね」
千代さんはふふふと笑いながら、私に説明してくれる。
「御橋神社のお札だから、車に貼っておいたらいいね。本当に助けが欲しい時、瑞穂ちゃんが本気で願ったら、きっと助けてくださるよ」
「あ……はい」
みやちゃんは神社の子だったと思い出し、元気のない私を励ますために、お札をくれたのだと理解した。
それも、車に関してご利益がありそうな札を――。
「みやちゃん、ありがとう!」
お礼を言うと、ほんのりと頬を染めて、はにかむように笑われる。
その様子は、もういつも通りのみやちゃんで、私は何の疑いも持たず、彼女がくれたお札を、すぐに車のダッシュボードの裏に貼りに行った。
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