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15 河童の恋
④
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長い時間車の運転をする時、密室に長時間同席にすることになるのだから、同乗者との関係性はかなり重大だ。
田中さんの家を初めて訪れた際、山を登ったり下ったりと、往復四時間も走ったが、道を捜しながらだったのと、助手席に座っていたのがシロだったため、沈黙を辛く感じることはなかった。
(だってシロくん、放っておいたって次から次へといろんな話題を出してくるんだもん……)
豆太くんと街まで往復した時も、気にもしなかった。
(途中で豆太くんが寝ちゃったのもあるけど、起きてる時も田中さんの話や、山のどこに綺麗な葉っぱがあって、いいどんぐりが落ちているのかなんて話……楽しかったな……)
しかし隣に座っているのが、クロとなるとそうはいかない。
一つの会話もない中、お気に入りの曲を流すというわけにもいかず、眠けと疲労と戦いながら、私は必死に車のハンドルを握っている。
(何か……何か話してよ……)
クロには期待できないので、私はなんとか、今日の荷物の依頼主についての質問をひっぱり出した。
「河太郎さんのこと……クロさんはよく知ってるんですか?」
返事がないので、無視されたのかと虚しくなりかけたが、大きなため息を吐いてから、クロは話し始めてくれた。
「直接関わりを持ったことはないが、聞こえてくる悪評を耳にしているという点ではそうだな」
「悪評……」
「その贈り物の相手との関係だ」
「あ……」
そういえばクロは、あやかしと人間が深く関わることをよく思っていないのだったと、私は今更ながらに思い出した。
「どうしてクロさんは反対なんですか? その……」
なんと訊ねたらいいのか言葉に迷い、語尾を濁す私を、クロが助手席からじっと見つめる。
彼は背が高く、肩幅も広いので、自然と隣に座る私との距離も近くなり、そういう距離感で男の人を隣に乗せたことのない私は、妙に緊張してしまう。
(あまりこっちを見ないでほしい……)
私の心の声が聞こえたわけでもないのだろうが、クロが腕組みをして窓の外へ顔を向けた。
射るほどに鋭い視線から解放されて、私はほっとする。
「もともとの生きる世界が違うんだ……虚しいだけだ……」
クロは窓の外を見ながらぽつりと、私の質問への答えらしいことを呟いた。
しかしその時ちょうど、車が大きなトラックとすれ違ったところで、私はその返答をうまく聞き取れなかった。
「え? なんですか? 何か言いました?」
クロは、体ごと窓の外へ向き直り、怒りに肩を震わせながら、低い声で唸る。
「なんでもない。何も気にせずお前は運転に集中していろ!」
「…………はい」
それ以上食い下がると、ますます不興を買ってしまいそうだったので、私は本当にそれきり口を噤むことにした。
実際は、うっすらとは言葉を聞き取れていたのだが、それに関してもう触れてほしくなさそうな雰囲気だったので、自分のその勘に従うことにしたのだった。
田中さんの家を初めて訪れた際、山を登ったり下ったりと、往復四時間も走ったが、道を捜しながらだったのと、助手席に座っていたのがシロだったため、沈黙を辛く感じることはなかった。
(だってシロくん、放っておいたって次から次へといろんな話題を出してくるんだもん……)
豆太くんと街まで往復した時も、気にもしなかった。
(途中で豆太くんが寝ちゃったのもあるけど、起きてる時も田中さんの話や、山のどこに綺麗な葉っぱがあって、いいどんぐりが落ちているのかなんて話……楽しかったな……)
しかし隣に座っているのが、クロとなるとそうはいかない。
一つの会話もない中、お気に入りの曲を流すというわけにもいかず、眠けと疲労と戦いながら、私は必死に車のハンドルを握っている。
(何か……何か話してよ……)
クロには期待できないので、私はなんとか、今日の荷物の依頼主についての質問をひっぱり出した。
「河太郎さんのこと……クロさんはよく知ってるんですか?」
返事がないので、無視されたのかと虚しくなりかけたが、大きなため息を吐いてから、クロは話し始めてくれた。
「直接関わりを持ったことはないが、聞こえてくる悪評を耳にしているという点ではそうだな」
「悪評……」
「その贈り物の相手との関係だ」
「あ……」
そういえばクロは、あやかしと人間が深く関わることをよく思っていないのだったと、私は今更ながらに思い出した。
「どうしてクロさんは反対なんですか? その……」
なんと訊ねたらいいのか言葉に迷い、語尾を濁す私を、クロが助手席からじっと見つめる。
彼は背が高く、肩幅も広いので、自然と隣に座る私との距離も近くなり、そういう距離感で男の人を隣に乗せたことのない私は、妙に緊張してしまう。
(あまりこっちを見ないでほしい……)
私の心の声が聞こえたわけでもないのだろうが、クロが腕組みをして窓の外へ顔を向けた。
射るほどに鋭い視線から解放されて、私はほっとする。
「もともとの生きる世界が違うんだ……虚しいだけだ……」
クロは窓の外を見ながらぽつりと、私の質問への答えらしいことを呟いた。
しかしその時ちょうど、車が大きなトラックとすれ違ったところで、私はその返答をうまく聞き取れなかった。
「え? なんですか? 何か言いました?」
クロは、体ごと窓の外へ向き直り、怒りに肩を震わせながら、低い声で唸る。
「なんでもない。何も気にせずお前は運転に集中していろ!」
「…………はい」
それ以上食い下がると、ますます不興を買ってしまいそうだったので、私は本当にそれきり口を噤むことにした。
実際は、うっすらとは言葉を聞き取れていたのだが、それに関してもう触れてほしくなさそうな雰囲気だったので、自分のその勘に従うことにしたのだった。
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