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シェリンカ

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15 河童の恋

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 黙ったままクロと共に車まで帰り、乗りこんで扉を閉めてから、私は一気に問いかけた。

「いったいどういうこと? 河太郎さんからは、この間喧嘩別れした恋人に、仲直りのきっかけとして贈り物を届けてほしいって依頼されたんだけど……彼女には、もう別の彼氏ができたってこと? そもそも表札の名前が『後藤』じゃなくて『田辺』だったんだけど……新しい恋人どころか、結婚したってこと???」

 私が大きな声でまくし立てるのを、クロは好きではなく、よく「うるさい」と言い放たれるのだが、今日はとりあえず我慢してくれているらしい。
 こめかみをぴくぴくさせながらも、かろうじて返事をしてくれる。

「まあ、そういうことだろうな」
「ちょっと早すぎないですか?」

 思わずクロに詰め寄ってしまう私を、手で押し返しながら、クロは迷惑そうな顔をする。

「瑞穂……あの陰気男は、別れてどれぐらいだって言ってた?」
「確か……二週間ぐらい?」

 それで別の男と結婚というのは、まさか河太郎さんとつきあっていた頃から、あの男性ともつきあっていたのではないだろうかと、優しそうな印象に反した女性のしたたかさに、思わず身震いする私を、クロが腕組みしながらたしなめる。

「いや、そうじゃない。あちらの世界と、こちらの世界では時間の流れ方がまったく違うんだ……河太郎にとって二週間なら、彼女にとっては四、五年ってところか……」
「四、五年!?」

 思っていた以上の時差に、思わず大きな声が出てしまった。
 クロはますます眉間の皺を深くする。

「ああ……それだけ音沙汰なかったら、新しい恋人が出来たり、結婚したりするのも当然だろ」
「そうか……そうですよね」

 説明をされて理解はしたが、納得は出来ない。
 山の上出張所に赴任して、あやかしと関わるようになってから、こういうことが増えた。
 彼らにとっての常識は、私にとっては常識ではない。
 その違いに出会うたびに、私は何度も、こうして納得できない思いを重ねていくのだろう。

(だって……あんなに必死だったのに……)

 私に彼女宛ての荷物を頼んだ時の河太郎さんの、わらにもすがるような表情をよく覚えている。
 本当に大切で、絶対に幸せにしたいと思っていた彼女なのに、些細ささいいさかいで別れてしまった。だからどうにかして、もう一度自分の気持ちを伝えたいのだと涙ながらに訴えられて、その手伝いを出来ることが、私は誇らしくさえあった。

 しかしクロの言うように、その河太郎さんとの別れから、彼女の中では四、五年もの時が経っているのなら、心変わりも責められない。

(だって……あんなに幸せそうなんだもの……)

 夫となった人と、楽しそうに手を繋いでいた彼女の姿を見てしまったので、彼女の今の幸せも否定できない。
 そこへ行き着くまでに、河太郎さんとの別れの辛さや苦しさを乗り越えて、ようやくたどり着いた新しい幸せなのかもしれないのだから――。

「…………」

 二つの感情が心の中でせめぎあい、河太郎さんから預かった荷物を膝に抱えたまま、何も言えない私の車から、突然クロが降りた。

「え……?」

 驚いて彼に目を向けた私に、クロはスーツの上着を脱いで後部座席に投げながら命じる。

「瑞穂……今からちょっと俺につきあえ」

 それだけ言うと、車の扉を閉めて、さっさとどこかへ行ってしまう広い背中を、私も慌てて車から降りて追う。

「どこへ行くんですか?」

 クロの返事はない。
 私をふり返りもしない。
 その姿が、誰かの姿と重なる――。

(……?)

 不思議な残像は、瞬きする間に消えてしまったが、それと一緒にクロまで消えてしまいそうなおかしな焦燥に駆られ、私は必死に叫ぶ。

「ちょっと待って!」

 その声にはかろうじて足を止めてくれたので、半身だけふり返ったクロに向かい、私は全速力で駆け寄った。
 彼をどこへも逃がさないために――。
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