73 / 77
19 狭間の場所
②
しおりを挟む
翌日の休日を、私は本当に半日寝て過ごした。
午後からも少しごろごろしていたが、さすがにそれで一日が終わってしまうのはもったいないので、周囲を散策してみる。
思い返せば山の上出張所へ赴任してから、仕事場と社宅以外の場所をうろついてみたことはまだなかった。
旅館やお土産物屋が並ぶ参道を歩いていると、昨夜あやかしが集まっていた光景を思い出し、背筋が寒くなったが、昼間は当然人間しかいない。
観光客が楽しそうに足湯に浸かったり、甘味処の店先で赤い毛氈が敷かれた腰かけに座り、お団子を食べたりしている。
観光地によくある風景だ。
お土産物屋の呼びこみや、観光客の楽しそうな話し声が賑やかな中、忙しそうに立ち回っている見慣れた着物姿の女性を見つけた。
(あ、多香子さんだ……)
宿泊客の見送りをしていたらしい多香子さんは、深々と下げた頭を上げて、私の姿を見つけると、いそいそと歩み寄ってくる。
着物姿なのに、いつもながらとても歩くのが速い。
「瑞穂ちゃん!」
大きく手を振られるので、私は会釈する。
「こんにちは」
「こんにちは。お散歩?」
「はい。他にすることもないので……」
「いいわねー。仕事が休みの日は、うちを手伝ってほしいくらいだわー」
言いながら『梅の屋』をふり返り、玄関前にタクシーが到着する様子を見ると、お客さんを迎えるためなのか、また急いで帰っていく。
去り際に耳もとで、「特に夕方以降はぜひ」と囁かれ、私は笑って見送ったのだが、よくよく考えてみると、少し笑えないような意味を含んでいる気がした。
(待って……まさか『夕方以降』って、狭間の時間からってこと……?)
シロとクロは昨夜私に、第二の鳥居から大鳥居までは狭間の場所だと教えてくれた。
人間とあやかしが入り混じって暮らしているとも――。
そこに住むあやかしたちが、シロとクロのように、昼間は普通の会社員や学生だったりするのならば、私にはもう誰が人間で誰があやかしかの見分けなどつかない。
(多香子さんは? 千代さんは? みやちゃん……は、そもそも神様だった!)
参道を行き来する誰もが妖しく見えて、私は急いで出張所裏の家へ帰った。
午後からも少しごろごろしていたが、さすがにそれで一日が終わってしまうのはもったいないので、周囲を散策してみる。
思い返せば山の上出張所へ赴任してから、仕事場と社宅以外の場所をうろついてみたことはまだなかった。
旅館やお土産物屋が並ぶ参道を歩いていると、昨夜あやかしが集まっていた光景を思い出し、背筋が寒くなったが、昼間は当然人間しかいない。
観光客が楽しそうに足湯に浸かったり、甘味処の店先で赤い毛氈が敷かれた腰かけに座り、お団子を食べたりしている。
観光地によくある風景だ。
お土産物屋の呼びこみや、観光客の楽しそうな話し声が賑やかな中、忙しそうに立ち回っている見慣れた着物姿の女性を見つけた。
(あ、多香子さんだ……)
宿泊客の見送りをしていたらしい多香子さんは、深々と下げた頭を上げて、私の姿を見つけると、いそいそと歩み寄ってくる。
着物姿なのに、いつもながらとても歩くのが速い。
「瑞穂ちゃん!」
大きく手を振られるので、私は会釈する。
「こんにちは」
「こんにちは。お散歩?」
「はい。他にすることもないので……」
「いいわねー。仕事が休みの日は、うちを手伝ってほしいくらいだわー」
言いながら『梅の屋』をふり返り、玄関前にタクシーが到着する様子を見ると、お客さんを迎えるためなのか、また急いで帰っていく。
去り際に耳もとで、「特に夕方以降はぜひ」と囁かれ、私は笑って見送ったのだが、よくよく考えてみると、少し笑えないような意味を含んでいる気がした。
(待って……まさか『夕方以降』って、狭間の時間からってこと……?)
シロとクロは昨夜私に、第二の鳥居から大鳥居までは狭間の場所だと教えてくれた。
人間とあやかしが入り混じって暮らしているとも――。
そこに住むあやかしたちが、シロとクロのように、昼間は普通の会社員や学生だったりするのならば、私にはもう誰が人間で誰があやかしかの見分けなどつかない。
(多香子さんは? 千代さんは? みやちゃん……は、そもそも神様だった!)
参道を行き来する誰もが妖しく見えて、私は急いで出張所裏の家へ帰った。
0
あなたにおすすめの小説
あなたが愛人を作るのなら
あんど もあ
ファンタジー
結婚して八年の夫が、愛人を作った。それも私の推しの女優を! 「君と違って彼女には才能がある」と言う。ならば、私も才能のある愛人を持つ事にいたしましょう。愛人の才能を花開かせる事が出来るのはどちら?
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
【完結】1王妃は、幸せになれる?
華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。
側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。
ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。
そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。
王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる