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2.このドキドキは、何?
1.
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「それにしても……まほちゃんは、本当にすごいわね。あんな有名ブランドのモデルだし、千翔がすっごく受験勉強苦労した高校に、あっさりと転入しちゃうし……」
母さんがニコニコしながら、白いご飯が山のように盛られた茶碗を、俺の隣に座るまほへ差し出す。
その光景に焦りを覚えながら、俺は自分の茶碗に残ったご飯を、とりあえず口の中に押し込む。
母さんが何か聞き捨てならないことを言ったような気もするが、今はいったん無視だ。
それどころではない。
「そんなことないですよ。モデルの仕事だって始めたばかりだし、転入は……海外からってことで、少し多めに見てもらえたんじゃないかな」
「いやいや」
母さんが眩しそうに目を細めるのも当然な、輝くような笑顔を母さんへ向けるまほは、これが二度目のお代わりで、俺も負けじと自分の茶碗を頭上に掲げる。
「母さん、お代わり」
まほとの身長差を考えると、ここで頑張っておかなければますます差が開いてしまうと思ってのことだったのに、母さんはあっさりと却下する。
「千翔はもうやめときな」
「は? どうして?」
「ほんとは限界でしょ? 無理するとこの間みたいに……」
「わー! わー! わー!」
先日、限界を超えて飲んだ牛乳のせいで(もちろん身長を伸ばすために)、しばらくトイレから出てこられなくなった失態を、まほの前で晒されそうになり、俺は慌てて自分の大声で母さんの声をかき消す。
(何言おうとしてくれちゃってんの! ただでさえ身長とか、その他にもいろいろと……年上としての威厳が、どんどん無くなっていくばかりなのに……)
それでもまほには、出来れば年上らしく頼りになるところを見せたいという気持ちが大きい。
「まほ、耳を貸すな。早く食べて俺の部屋でゲームするぞ」
「うん」
俺の誘いににっこりと向けられるまほの笑顔が、素直で可愛いと形容するより大人の余裕を感じさせるものだということは、俺にもすでにわかってはいた。
日本で仕事をすることになったというまほのお父さんが、こちらへやってくるのは半月ほど先の話で、実はそれまで一人暮らしなのだとまほから聞いたのは、彼を学校まで案内した初日の放課後だった。
『え? じゃあ家事とか自分でやってんの?』
『うん。これまでもそうだったし』
『あ……』
まほのお母さんは俺たちがまだ小さい頃に亡くなったことを思い出し、俺は急いで頭を下げる。
『ごめん』
『なんで謝るの』
まほは笑いながら俺の肩を叩いた。
『俺の料理、父さんに好評なんだ……よかったら千翔ちゃんも食べにくる?』
『う……』
即座に「うん」と言いかけて、かろうじて踏みとどまった。
(まてまてまて……これじゃ、どっちが年上かわからない)
家事も自分でこなしてしまうまほと、料理どころか掃除も洗濯も、母さんがやってくれて当たり前だと思っていた俺。
(これからは俺も、できるだけ母さんを手伝おう……いつだって独り立ちのできる男になろう)
その決意は、今後の抱負として心の片隅に置いておくとして、とりあえず今は、日本へ来たばかりのまほをどうにか年上らしく接待する方が先だ。
とは言え、俺に何ができるのか――。
(…………)
考えた末に、やはり母さんの力を借りることにした。
(仕方ない……俺が一人で出来ることなんて今はない……今はね)
その思いを胸に深く刻んで、まほを我が家へ招待したのだった。
『まほがうちへ来いよ。母さんも喜ぶし』
『うん』
そうして、まほと一緒に母さんが作ってくれた夕飯を食べることになった。
母さんがニコニコしながら、白いご飯が山のように盛られた茶碗を、俺の隣に座るまほへ差し出す。
その光景に焦りを覚えながら、俺は自分の茶碗に残ったご飯を、とりあえず口の中に押し込む。
母さんが何か聞き捨てならないことを言ったような気もするが、今はいったん無視だ。
それどころではない。
「そんなことないですよ。モデルの仕事だって始めたばかりだし、転入は……海外からってことで、少し多めに見てもらえたんじゃないかな」
「いやいや」
母さんが眩しそうに目を細めるのも当然な、輝くような笑顔を母さんへ向けるまほは、これが二度目のお代わりで、俺も負けじと自分の茶碗を頭上に掲げる。
「母さん、お代わり」
まほとの身長差を考えると、ここで頑張っておかなければますます差が開いてしまうと思ってのことだったのに、母さんはあっさりと却下する。
「千翔はもうやめときな」
「は? どうして?」
「ほんとは限界でしょ? 無理するとこの間みたいに……」
「わー! わー! わー!」
先日、限界を超えて飲んだ牛乳のせいで(もちろん身長を伸ばすために)、しばらくトイレから出てこられなくなった失態を、まほの前で晒されそうになり、俺は慌てて自分の大声で母さんの声をかき消す。
(何言おうとしてくれちゃってんの! ただでさえ身長とか、その他にもいろいろと……年上としての威厳が、どんどん無くなっていくばかりなのに……)
それでもまほには、出来れば年上らしく頼りになるところを見せたいという気持ちが大きい。
「まほ、耳を貸すな。早く食べて俺の部屋でゲームするぞ」
「うん」
俺の誘いににっこりと向けられるまほの笑顔が、素直で可愛いと形容するより大人の余裕を感じさせるものだということは、俺にもすでにわかってはいた。
日本で仕事をすることになったというまほのお父さんが、こちらへやってくるのは半月ほど先の話で、実はそれまで一人暮らしなのだとまほから聞いたのは、彼を学校まで案内した初日の放課後だった。
『え? じゃあ家事とか自分でやってんの?』
『うん。これまでもそうだったし』
『あ……』
まほのお母さんは俺たちがまだ小さい頃に亡くなったことを思い出し、俺は急いで頭を下げる。
『ごめん』
『なんで謝るの』
まほは笑いながら俺の肩を叩いた。
『俺の料理、父さんに好評なんだ……よかったら千翔ちゃんも食べにくる?』
『う……』
即座に「うん」と言いかけて、かろうじて踏みとどまった。
(まてまてまて……これじゃ、どっちが年上かわからない)
家事も自分でこなしてしまうまほと、料理どころか掃除も洗濯も、母さんがやってくれて当たり前だと思っていた俺。
(これからは俺も、できるだけ母さんを手伝おう……いつだって独り立ちのできる男になろう)
その決意は、今後の抱負として心の片隅に置いておくとして、とりあえず今は、日本へ来たばかりのまほをどうにか年上らしく接待する方が先だ。
とは言え、俺に何ができるのか――。
(…………)
考えた末に、やはり母さんの力を借りることにした。
(仕方ない……俺が一人で出来ることなんて今はない……今はね)
その思いを胸に深く刻んで、まほを我が家へ招待したのだった。
『まほがうちへ来いよ。母さんも喜ぶし』
『うん』
そうして、まほと一緒に母さんが作ってくれた夕飯を食べることになった。
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