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7 もう一度『初めまして』から始めよう

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「だけど実際、これからもっと暑い日があるかもしれないことを考えると、いくら山の中でも、扇風機だけっていうのは、少し心配だよね……」

 私と父の間で、懸命に首を振り続けている扇風機のことを見ながら言うと、父も頷く。

「ああ……それにも関連して、一つ提案があるんだが……」
「何?」

 ご飯をほおばりながら視線を上向けた私に、父は少しいたずらっぽくにやりと笑った。

「これからも俺とこの家で暮らすなら、自分の部屋がほしくないか? 和奏」
「ほしい! それはもちろんほしいよ!」

 私は猛烈な勢いで父の話に食いついた。
 古い日本家屋によくある造りの、縁側に面した六畳二間と、その北側に寝室と台所と水回りが集中するこの家は、襖で仕切ればそれぞれが独立した部屋になるとはいえ、普段はそれを開けたままの、実質2DKだ。

 しかもそのうち寝室は、もともと父が自分の部屋として使っていたので、私は床の間のある部屋に布団を敷いて、毎日それを上げ下ろししている。
 どうしてもベッドがいいわけではないが、せめて自分の荷物を置いておける私室はほしかった。

「どうするの? お家を建て替えるの?」

 夢に胸を膨らます私に、父はため息を吐く。

「そこまでのお金はないよ」
「そうよね……」

 父の仕事がどれだけの収入になっているのか、実際のところを私は知らないが、あまりお金を使わず、質素倹約を心がけていることは確かだ。
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