滝壺の花嫁御寮

加藤伊織

文字の大きさ
12 / 37

11

しおりを挟む
 日傘を差して、陽菜はまち子と村のメインストリートであるバス通りを歩く。陽炎の立つ道路は広く、黒いアスファルトがそこだけ妙に新しく見えた。

「今日はかど滝分たきわけ佐吉さきちかあ。滝分だけ方向が逆だな」
「佐吉って名字? 人の名前?」
「これも屋号だ。滝分は滝の分家ってことで、佐吉はどっかの分家で初代の名前が佐吉だったんだとさ」
「ひえー、ややこしい」

 田舎ならではの話を聞きながら祖母と歩くのは、陽菜にとっては楽しい時間でもあった。
 高い建物など何もないのどかな風景、耳が痛くなるほどの蝉の声。時間は都会とは流れる早さが違うように感じ、案外こんな田舎も悪くないと思った。

 祖母が「佐吉」と呼んだ家は古びた表札に竹内と書かれていた。祖母と同じ名字だしどこかの分家だという話だったので、案外血縁関係にあるのかも知れないと陽菜は思う。

たえちゃん、まち子だ。入るよ」

 インターフォンがあるのにそれを鳴らしもせずに玄関をガラリと開けた祖母に、陽菜は声も出ないほど驚いていた。そもそも玄関に鍵が掛かっていないことにも驚いた。
 まち子の呼びかけに、奥から「ご苦労さん」と声がしてすぐに祖母と同じ年頃の老女が顔を出す。

「こんにちは、友姫をやる岩崎陽菜です」
「孫の陽菜だ。今日はお札集めに来たわ」
「あらー、べっぴんさんになってえ! ばあちゃんのこと覚えてるか? 覚えてないよなあ、すっかり大きくなったなあ。もう16歳か」

 彼女の言葉で、この妙という老女に幼い頃にも会ったことがあるのだと知る。村人にとっては「将来友姫役をやる、東京に住んでる竹内の孫」は印象深いかも知れないが、陽菜にとっては全く記憶がない。

 曖昧な笑みを浮かべて陽菜がごまかしていると、玄関脇に置かれていた白い紙の包みを妙が手に取った。

「陽菜ちゃん、友姫様をよろしく頼むなあ。はい、これお札」

 妙は陽菜を拝むようにして札を捧げ持つ。陽菜は一度頭を下げてからその札を受け取った。

 ――途端に、背筋がぞわりとした。手で触れたはずなのに、背骨を中心として全身へ総毛立つ感覚が広がっていく。

 妙にひんやりとした、とげとげとしたもので肌を軽くこすられたようななんとも言えない不快感が走り、気がつけば陽菜は札から手を放してしまっていた。

 思わず大事な札を取り落とした陽菜に、妙とまち子が怪訝そうな顔を向けた。

「あ……ごめんなさい、落としちゃって。もう一回やり直しした方がいい?」
「いや、そういう話しは聞いたことがないから、大丈夫だと思うわあ」
「陽菜、こっちに早く入れな」
「う、うん」

 落ちている札に向かって陽菜は指を伸ばす。触れようとしたときまたあの嫌な感触がしたらと思うと僅かに躊躇してしまったが、ふたりがいる手前気持ち悪いとは言えない。
 おそるおそる触った札は、今度は何も起きなかった。ひっそりと安堵の息を吐きながら札を拾い、祖母の持つ文箱に入れる。

「おかげさんです」

 札が文箱に収められたのを確認し、妙が頭を下げる。
 奇妙な挨拶だと思ったが、田舎のしきたりは陽菜にはわからないことだらけだ。適当に合わせるように陽菜もお辞儀をすると、妙はくしゃりと笑ってふたりを家の中へ手招いた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

夜にも奇妙な怖い話2

野花マリオ
ホラー
作品のホラーの中で好評である続編であります。 作者が体験した奇妙な怖い体験や日常的に潜む怪異や不条理を語ります。 あなたはその話を読んでどう感じるかはお任せいたします。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/20:『ものおと』の章を追加。2026/1/27の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/19:『みずのおと』の章を追加。2026/1/26の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/18:『あまなつ』の章を追加。2026/1/25の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...