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「陽菜です。禊ぎ終わりました」
「陽菜さん、さっきはごめんなさいね! 私も慌てて瑞樹を行かせちゃって」
インターフォンを押して告げると、恵美の声で慌てて陽菜に謝罪が入った。その後にバタバタという音が続いて、玄関のドアが開く。
「どうぞ、またココア飲んでいって」
「いただきます。はー、寒かった!」
恵美に勧められるままに陽菜は家に上がり、昨日と同じく小さなダイニングに通される。 あらかじめお湯が沸かされていたのか、ココアはすぐに出されて陽菜はまずカップに手を添えて温かさを堪能した。
「僕もココア」
「あら、珍しいじゃない」
昨日まち子が座っていた場所にやってきたのは瑞樹だ。恵美は瑞樹のカップにも粉末のココアを入れるとお湯を注いでかき混ぜている。
「そういえば、学校の宿題やらないといけなくて、Wi-Fiが通ってたら使わせてもらえませんか」
陽菜はまた機会を逃さないようにと昨日聞けなかったことを真っ先に尋ね、恵美はすぐに了承してくれた。
「パソコンここに持ってきたらいいわ。パスワードとかは瑞樹に教えてもらって。私そういうのは疎くて、全部瑞樹に設定してもらってるの」
「僕がいるときならいいけど、いないときどうしてるのか不安になるよ。うわ、ココア甘いな……こんなに甘かったっけ」
自分でココアと言っておきながら、瑞樹はそれを飲んで驚いていた。
「この子ねえ、普段は市部にある高校に通ってるの。うちからだと通えないからひとり暮らししてて、夏休みだから戻ってきてるんだけど」
「夏休みだからじゃなくて、祭があるから帰ってこいって言われたんだけど。あっちにいた方が便利だから僕は戻ってこなくても良かったのに」
瑞樹は皮肉めいた言い方をした。どうもこれが彼の素らしく、元々素直ではない性格に見える。
「へー、ひとり暮らししてるんだ。いいなー」
「別に……市部っていっても田舎だし、遊ぶところもほとんどないよ。パソコン持ってきたらWi-Fiのパスワード渡すから持っておいでよ」
「じゃあ、午後――あ、お札集めがあるんだ。いったん帰ったら、またすぐ来ます」
「お札集めってさ、変に疲れない?」
甘いと言いつつココアを飲みながら、瑞樹が陽菜に尋ねた。陽菜は瑞樹の言葉にぴくりと身を震わせる。昨日の札に感じた異様な感じを思い出し、せっかく禊ぎをしてすっきりとしたのにまた体が重くなりそうだった。
「すっごい疲れて昨日は早く寝たけど……普段歩かないような距離も歩いたし」
遠回しに、「札のせいとは限らない」と陽菜はごまかした。正確には、自分がそう思いたくないのだ。
「辰年生まれの友姫がいないから、辰年生まれだってことで僕が代わりに3年に一度お札集めだけやってたんだけど……小さい頃は終わると熱を出したりしたよ。異様に疲れて」
瑞樹の眼鏡の奥の切れ長の目が、陽菜を探るように見つめている。自分が感じていることを話すべきかどうか陽菜は迷った。さっき謝ってくれたとはいえ、あまり瑞樹の印象は良くない。
悩んでいる様子の陽菜を見かねたのか、瑞樹は軽くため息をついた。
「僕は普段村にいないしさ、自分の中では半分しか村の人間じゃないと思ってる。だから、この村の、特に祭のことを変だって思ってるよ。そういう意味では君の味方」
「そ、そういうこと言って平気なの?」
「大丈夫よ、陽菜さん。お義父さんはお仕事で朝早くから市部に行ってるし、夫は東京で働いてるから祭の直前にならないと帰ってこないわ。……私も、ずっと東京にいたからこの村には馴染みきれなくて。風習もお祭りも、理解できないの」
村長に万が一聞かれたら、と慌てる陽菜に恵美が穏やかな声で応える。声は穏やかだったが彼女の目は暗く、陽菜はまた寒気が背筋を這い上るのを感じていた。
一度帰宅してからノートパソコンを持ち、陽菜は再び中里家を訪れた。
立派なテーブルがどんと据えられた居間に最初は通されたが、あまりに落ち着かないので、ココアを飲んだダイニングにお邪魔させてもらうことにした。
「遠慮しなくていいのよ?」
不思議そうに恵美が尋ねてくるので、陽菜は思わずぶるぶると首を振る。あんな広い部屋でひとりで宿題とか無理だ。畳に正座でパソコンも無理だし、足を崩しているのもなんだか落ち着かないだろう。
「椅子の方が良くて……」
「ああ、わかるわ。私も夫と私の部屋があるけど和室であまり落ち着かないから、普段はここにいるの」
クッションフロアが敷かれた小さなダイニングは、確かにこの家の中では数少ない洋風の場所かもしれなかった。
「陽菜さん、さっきはごめんなさいね! 私も慌てて瑞樹を行かせちゃって」
インターフォンを押して告げると、恵美の声で慌てて陽菜に謝罪が入った。その後にバタバタという音が続いて、玄関のドアが開く。
「どうぞ、またココア飲んでいって」
「いただきます。はー、寒かった!」
恵美に勧められるままに陽菜は家に上がり、昨日と同じく小さなダイニングに通される。 あらかじめお湯が沸かされていたのか、ココアはすぐに出されて陽菜はまずカップに手を添えて温かさを堪能した。
「僕もココア」
「あら、珍しいじゃない」
昨日まち子が座っていた場所にやってきたのは瑞樹だ。恵美は瑞樹のカップにも粉末のココアを入れるとお湯を注いでかき混ぜている。
「そういえば、学校の宿題やらないといけなくて、Wi-Fiが通ってたら使わせてもらえませんか」
陽菜はまた機会を逃さないようにと昨日聞けなかったことを真っ先に尋ね、恵美はすぐに了承してくれた。
「パソコンここに持ってきたらいいわ。パスワードとかは瑞樹に教えてもらって。私そういうのは疎くて、全部瑞樹に設定してもらってるの」
「僕がいるときならいいけど、いないときどうしてるのか不安になるよ。うわ、ココア甘いな……こんなに甘かったっけ」
自分でココアと言っておきながら、瑞樹はそれを飲んで驚いていた。
「この子ねえ、普段は市部にある高校に通ってるの。うちからだと通えないからひとり暮らししてて、夏休みだから戻ってきてるんだけど」
「夏休みだからじゃなくて、祭があるから帰ってこいって言われたんだけど。あっちにいた方が便利だから僕は戻ってこなくても良かったのに」
瑞樹は皮肉めいた言い方をした。どうもこれが彼の素らしく、元々素直ではない性格に見える。
「へー、ひとり暮らししてるんだ。いいなー」
「別に……市部っていっても田舎だし、遊ぶところもほとんどないよ。パソコン持ってきたらWi-Fiのパスワード渡すから持っておいでよ」
「じゃあ、午後――あ、お札集めがあるんだ。いったん帰ったら、またすぐ来ます」
「お札集めってさ、変に疲れない?」
甘いと言いつつココアを飲みながら、瑞樹が陽菜に尋ねた。陽菜は瑞樹の言葉にぴくりと身を震わせる。昨日の札に感じた異様な感じを思い出し、せっかく禊ぎをしてすっきりとしたのにまた体が重くなりそうだった。
「すっごい疲れて昨日は早く寝たけど……普段歩かないような距離も歩いたし」
遠回しに、「札のせいとは限らない」と陽菜はごまかした。正確には、自分がそう思いたくないのだ。
「辰年生まれの友姫がいないから、辰年生まれだってことで僕が代わりに3年に一度お札集めだけやってたんだけど……小さい頃は終わると熱を出したりしたよ。異様に疲れて」
瑞樹の眼鏡の奥の切れ長の目が、陽菜を探るように見つめている。自分が感じていることを話すべきかどうか陽菜は迷った。さっき謝ってくれたとはいえ、あまり瑞樹の印象は良くない。
悩んでいる様子の陽菜を見かねたのか、瑞樹は軽くため息をついた。
「僕は普段村にいないしさ、自分の中では半分しか村の人間じゃないと思ってる。だから、この村の、特に祭のことを変だって思ってるよ。そういう意味では君の味方」
「そ、そういうこと言って平気なの?」
「大丈夫よ、陽菜さん。お義父さんはお仕事で朝早くから市部に行ってるし、夫は東京で働いてるから祭の直前にならないと帰ってこないわ。……私も、ずっと東京にいたからこの村には馴染みきれなくて。風習もお祭りも、理解できないの」
村長に万が一聞かれたら、と慌てる陽菜に恵美が穏やかな声で応える。声は穏やかだったが彼女の目は暗く、陽菜はまた寒気が背筋を這い上るのを感じていた。
一度帰宅してからノートパソコンを持ち、陽菜は再び中里家を訪れた。
立派なテーブルがどんと据えられた居間に最初は通されたが、あまりに落ち着かないので、ココアを飲んだダイニングにお邪魔させてもらうことにした。
「遠慮しなくていいのよ?」
不思議そうに恵美が尋ねてくるので、陽菜は思わずぶるぶると首を振る。あんな広い部屋でひとりで宿題とか無理だ。畳に正座でパソコンも無理だし、足を崩しているのもなんだか落ち着かないだろう。
「椅子の方が良くて……」
「ああ、わかるわ。私も夫と私の部屋があるけど和室であまり落ち着かないから、普段はここにいるの」
クッションフロアが敷かれた小さなダイニングは、確かにこの家の中では数少ない洋風の場所かもしれなかった。
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