152 / 154
おまけSS 彼女の髪が短い理由
しおりを挟む
時系列的に本編114・115話辺りの話です。
__________
その日、カモミールはふと気がついてしまった。
自分の周りには髪が短い女性が多い、と。
まず、故人ではあるがロクサーヌ。彼女は錬金術師らしく新しい流行などが好きで、出会った頃は長い髪だったがカモミールが15歳で弟子入りした頃には短髪になっていた。
そしてエミリア。彼女も錬金術師だ。話を聞いたところ、癖毛なこともあり、短くしてみたら収まりが良かったのでそれから切り続けているそうだ。
調合や石けん作りをするときには頭を覆うヘッドスカーフを着けており、髪が混入しないように気を付けている。
最後は、キャリーだ。錬金術師ではないのに、彼女は髪が短い。
「気がついたのよ。この工房にいる人の中で、髪が長いの私だけだわ」
「俺も長いぞ?」
「テオは別枠」
腰より下まである青い髪をさらりと流してテオが混じってきたので、カモミールは彼を追い出した。
エミリアと一緒に風呂に行ったのだが、短髪は洗ってもすぐに乾くのが羨ましかった。カモミールの長い髪は嵩も多く、そんなに簡単には洗えない。
「私も切ろうかな。キャリーさんとエミリアさんを見てると凄い楽そうなんだもん」
女性の短髪がこんなに多いのは工房の中だけだ。だが、3人のうちふたりが短いと、なんだか仲間はずれのように感じてしまう。
「寝癖……付きますよ、凄く。短いとごまかすのが大変です」
キャリーが心底嫌そうに呟いた。それがカモミールには意外だ。彼女は錬金術師ではないが、並の錬金術師より錬金術師らしい合理的思考の持ち主である。
彼女と出会ったときから髪が短かったので、それは何らかの合理的な理由であるとカモミールは思っていたのだが、口振りからするとそうではないようだ。
「寝癖がごまかせないのは大変そうね。待って、キャリーさんはなんで髪を短くしてるの?」
「売ったんです。カモミールさんに出会うちょっと前ですね」
売った、と言われるとなるほどと思う。お金が絡んでいる辺り、非常にキャリーらしい理由とも言えた。
「キャリーちゃん、そんなにお金に困ってたのかい?」
エミリアも興味深そうにキャリーを見る。キャリーは軽く肩をすくめ、簡単に言った。
「まあ、贅沢しなければ困りませんけど。街を歩いていたら、貴族家の執事をしているという人に声を掛けられまして。
その家のお嬢様が病気で髪が抜けてしまったそうで、よく似た髪色の私の髪を買わせてくれないかと言われたんですよ。要は、かつらを作るためですね。その頃はテオさんより長かったので、アップにするのも面倒だなーと思っていたところで、渡りに船と売っちゃいました。
……まあ、その直後から、寝癖を直すために毎朝奮闘することになって、ここまで短くしなきゃ良かったなと思いましたけど」
やはり非常に合理的な理由だった。ある意味納得である。
「じゃあ、これからまた伸ばすのね」
「そうですね、面倒なのでしばらく放っておきますよ。うちの母、あまり手先が器用じゃなくて、前髪を切ってもらってもギザギザになりがちなんですよね。とはいえ、理髪店に行くほどのことでもない気がしますし」
おそらく髪が伸びすぎたのも同じ理由なのだろう。
「髪の毛、切ります? 私が切ってあげましょうか?」
はさみを手にしたキャリーが何でもないことのように言ってきたので、カモミールは思わず身震いした。キャリーは手先が器用だ。それは重々知っているが、彼女の毎朝の苦労を聞いた今となっては切りたいと思えなかった。
__________
その日、カモミールはふと気がついてしまった。
自分の周りには髪が短い女性が多い、と。
まず、故人ではあるがロクサーヌ。彼女は錬金術師らしく新しい流行などが好きで、出会った頃は長い髪だったがカモミールが15歳で弟子入りした頃には短髪になっていた。
そしてエミリア。彼女も錬金術師だ。話を聞いたところ、癖毛なこともあり、短くしてみたら収まりが良かったのでそれから切り続けているそうだ。
調合や石けん作りをするときには頭を覆うヘッドスカーフを着けており、髪が混入しないように気を付けている。
最後は、キャリーだ。錬金術師ではないのに、彼女は髪が短い。
「気がついたのよ。この工房にいる人の中で、髪が長いの私だけだわ」
「俺も長いぞ?」
「テオは別枠」
腰より下まである青い髪をさらりと流してテオが混じってきたので、カモミールは彼を追い出した。
エミリアと一緒に風呂に行ったのだが、短髪は洗ってもすぐに乾くのが羨ましかった。カモミールの長い髪は嵩も多く、そんなに簡単には洗えない。
「私も切ろうかな。キャリーさんとエミリアさんを見てると凄い楽そうなんだもん」
女性の短髪がこんなに多いのは工房の中だけだ。だが、3人のうちふたりが短いと、なんだか仲間はずれのように感じてしまう。
「寝癖……付きますよ、凄く。短いとごまかすのが大変です」
キャリーが心底嫌そうに呟いた。それがカモミールには意外だ。彼女は錬金術師ではないが、並の錬金術師より錬金術師らしい合理的思考の持ち主である。
彼女と出会ったときから髪が短かったので、それは何らかの合理的な理由であるとカモミールは思っていたのだが、口振りからするとそうではないようだ。
「寝癖がごまかせないのは大変そうね。待って、キャリーさんはなんで髪を短くしてるの?」
「売ったんです。カモミールさんに出会うちょっと前ですね」
売った、と言われるとなるほどと思う。お金が絡んでいる辺り、非常にキャリーらしい理由とも言えた。
「キャリーちゃん、そんなにお金に困ってたのかい?」
エミリアも興味深そうにキャリーを見る。キャリーは軽く肩をすくめ、簡単に言った。
「まあ、贅沢しなければ困りませんけど。街を歩いていたら、貴族家の執事をしているという人に声を掛けられまして。
その家のお嬢様が病気で髪が抜けてしまったそうで、よく似た髪色の私の髪を買わせてくれないかと言われたんですよ。要は、かつらを作るためですね。その頃はテオさんより長かったので、アップにするのも面倒だなーと思っていたところで、渡りに船と売っちゃいました。
……まあ、その直後から、寝癖を直すために毎朝奮闘することになって、ここまで短くしなきゃ良かったなと思いましたけど」
やはり非常に合理的な理由だった。ある意味納得である。
「じゃあ、これからまた伸ばすのね」
「そうですね、面倒なのでしばらく放っておきますよ。うちの母、あまり手先が器用じゃなくて、前髪を切ってもらってもギザギザになりがちなんですよね。とはいえ、理髪店に行くほどのことでもない気がしますし」
おそらく髪が伸びすぎたのも同じ理由なのだろう。
「髪の毛、切ります? 私が切ってあげましょうか?」
はさみを手にしたキャリーが何でもないことのように言ってきたので、カモミールは思わず身震いした。キャリーは手先が器用だ。それは重々知っているが、彼女の毎朝の苦労を聞いた今となっては切りたいと思えなかった。
96
あなたにおすすめの小説
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
平民令嬢、異世界で追放されたけど、妖精契約で元貴族を見返します
タマ マコト
ファンタジー
平民令嬢セリア・アルノートは、聖女召喚の儀式に巻き込まれ異世界へと呼ばれる。
しかし魔力ゼロと判定された彼女は、元婚約者にも見捨てられ、理由も告げられぬまま夜の森へ追放された。
行き場を失った境界の森で、セリアは妖精ルゥシェと出会い、「生きたいか」という問いに答えた瞬間、対等な妖精契約を結ぶ。
人間に捨てられた少女は、妖精に選ばれたことで、世界の均衡を揺るがす存在となっていく。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる