最強の1年1組、理不尽スキル「椅子召喚」で異世界無双する。微妙なスキルしか無い担任の私は「気持ち悪っ!」連発しながら子供たちを守り抜きます!

加藤伊織

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2 「椅子=最強」の図式はおかしいって思ってないんだよね

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 その日、私たちは遠足で学校から数駅離れた丘陵地帯に来ていた。ちょっとした森があって、丘の麓には大きな公園が広がっている、この辺での有名遠足スポットだ。
 その帰り道で、先頭を歩いていたのはベテラン教員が担任をしている2組。その次が新米の私が率いる1組。校長は全体に指示をするために最後尾を歩いていた。

「あれ、霧が急に出てきた……ちょっと校長先生に確認するから待っててね」
 霧が出てきたなーと思ったら、視界は見る間に白く濁って、私は子供たちをその場に待機させて電話を架けた。このまま歩いていいものか、少し落ち着くまで待った方がいいのかを訊くために。
 
 なにしろ、事前の確認でも「濃霧による視界不良」は可能性として検討されていなかったんだから。
 朝からすっきりと晴れていたし、霧が出るなんて予想できるわけがない。林の中の道だから視界が悪くなったのを無理に歩いて迷ったりしたら大変だ。
 
「繋がらない……おかしいなあ」
 最初はツーツーという音が聞こえていたけど、それも何故か聞こえなくなった。
 私は妙な寒気にぶるりと体を震わせて、子供たちを集めて人数を確認する。視界は恐ろしく悪くて、並んでいる子供たちの3人目までしか見えない有様だった。
 男子18人、女子16人。無事に全員がいることを確認し、霧が薄くなるまで動かないようにねと言い含めて、時間を潰すために今日の楽しかったことをみんなで言い合いっこしたりした。

 霧が晴れてきたのは、5分ほど経った頃だろうか。山の天気は変わりやすいって言うけど、言うほどここは山じゃないし、辺りがやっと見えるようになってきて私はほっと胸を撫で下ろした。
 あー、下手に動かないで待機で正解だった。よかったー。
 
 ……なんて思ったのは、一変した風景を見るまでだった。


 さっきまで林の中にいたのに、私たちがいたのは草原のまっただ中だった。
 灌木はあるけど大きな木はあまり見当たらず、足元に道はあるけども舗装もされていない、踏み固められて出来た道だった。
「ええっ……」
「先生、なに、ここ」
「山がなーい!」
 口々に驚く子供たち。中には、動揺のあまりに泣き出してしまった子もいる。ひとりが泣き始めると連鎖が起こって、5人ほどが泣いてしまった。
 その子たちをなだめているうちに、「先生、何か来る!」と誰かの切羽詰まったような叫びが響いた。

「なんだ、あれ! オオカミ?」
「違う、モンスターだよ! 尻尾の生えたモンスター!」
「こっち来る!」 
 子供たちの騒ぎが大きくなって、その「モンスター」も興奮したのかもしれない。
 振り向いた私が見たのは、手から伸びた爪を振りかざしてこちらへと走ってくる、灰色の毛皮を纏って二足歩行しているモンスターだった。

 ――どうしよう。

 咄嗟に判断ができずに固まっていると、泣いている子供たちと私を守るように数人の児童が向かってくるモンスターとの間に入ってくる。
 友仁ともひとくん、かえでちゃん、紫苑しおんくん、月姫るなちゃん、雄汰ゆうたくん――うちのクラスの武闘派、もとい、特に活発な子供たち。その顔ぶれを見て、若干嫌な思い出が蘇った。
 
 やばい! あの子たち臨戦態勢だ!
 私が焦っているまさにその時、友仁くんが頭をお腹に付けるほどの勢いで叫んだ。

 
「ちくしょー! 椅子があればいいのにー!」

「椅子、しょーかーん!」
「椅子召喚ー!!」

 
 子供たちの叫びに応えたのか、次の瞬間彼らの手には、学校で使っている椅子が現れていた……。


 呆然としている私の前で、5人はオオカミ系モンスター――今はコボルトと呼んでいる――に次々と椅子を投げつけ、瞬く間に制圧した。
 
「すげー! やっぱり椅子最強だよな!」
「うん、椅子ってすごいね!」
 目をキラキラとさせる友仁くんと月姫ちゃん。いや、別に椅子は最強じゃないと思うんだ……君らのその戦い方が普通じゃないだけでさ……。


 コボルトが消えた後にはシュークリームが出てきて、警戒して私が食べてみたけどもどう見てもモン○ールの美味しいシュークリームだったし、泣いていた子たちもそれを食べると少し落ち着いた。
 
 事態は全く訳がわからないけど、ひとつだけわかったことがある。
 子供たちが「椅子召喚」と言うと、椅子が出てくる。
 それだけ。

 他の物も召喚してみようとしたけど出てこなかった。本当に椅子だけ。全くもって意味不明。
 そして、この椅子は普通に使えるだけじゃなくて、投げつけて戦うと煙幕が出る。ある意味、子供に残虐シーンを見せなくて済むのはありがたい。
 更に――私だけが「椅子召喚」できなかったのだ。

 現状に混乱しつつも、私はひとつの仮説を立てていた。
 椅子が召喚できるのは、きっとそれが子供たちにとって「一番の武器」だからだろう。刀とかピストルとかじゃなくて、椅子。
 それはうちの小学校の児童の約半数が通っていた新白梅幼稚園の教育方針にルーツがある。

 新白梅幼稚園は、市内に第一から第五まであるというビッグな幼稚園だ。その教育方針は、徹底して「健康第一」。市内に6000平米の山を持ち、子供たちは休日はそこで自由に遊ぶことが出来る。斜面を利用して作られた長いローラー滑り台とかもあって、遊んでいるうちに鍛えられるという具合だ。滑っていったら登ってこないとまた滑れないからね。
 それと、合気道が年中で月1回、年長で週1回必修。合気道教室も併設してて、うちのクラスにも合気道をやっている子がふたりいる。それが友仁くんと月姫ちゃんだ。

 そして、一番重要なのが、「不審者対応訓練」。

 普通、園児は先生が刺股さすまたで不審者を取り押さえている間、机の下とかに隠れている物なんだけど、新白梅幼稚園のやり方は違う。

 不審者が入ってきたら、園児も先生も手近な物を不審者に投げつける。それこそ、クレヨンから椅子まで。そして先生は椅子の脚を不審者に向けて突撃。
 もちろん生身の人間に向かってやったら危ないので、訓練はマネキンに向かって行われる。

 ……まあ、ね。
 思いますよ、私だって。刺股なんか簡単に使えるか! って。
 あれで確保しろって言われたら、多分振りかぶってぶん殴っちゃうと思うし。

 だからってさあ、「不審者に椅子を投げつけろ」を実践してる幼稚園どうなの?
 そして、それを身につけた結果、小学校に上がってから不審者を椅子で取り押さえてしまったのもどうなの!?

 そう、我が1年1組は、「椅子で不審者を撃退した」実績のあるクラスなのだ。

 悲劇は――ああ、不審者にとっての悲劇、だけど――体育館連絡通路から1年1組が一番近かったということから始まった。
 度々子供たちの声がうるさいとクレームを入れていた近隣男性が、とうとうキレて包丁を持って学校に侵入してきたのだ。
 フェンスを乗り越え、移動のために施錠されていなかった連絡通路から侵入し、一番手近な1年1組の教室に包丁をかざして入り込み……まあ、後は言わなくてもお察しかもしれないけど、新白梅幼稚園出身軍団に椅子を投げつけられてあっという間に無力化された。
 
 警察からも表彰されたけど、誇らしいやら恥ずかしいやら……。もらった表彰状を見せながら、「でも本当に危ないとき以外は、椅子は投げちゃ駄目だよ」と私は念押しする羽目になった。

 まさか、思わないでしょ。「本当に危ないとき」がまたくるなんて。
 モンスターが出てくる異世界としか思えない場所で、子供たちは実戦を積んで椅子を投げつける精度がガンガン上がっている。
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