最強の1年1組、理不尽スキル「椅子召喚」で異世界無双する。微妙なスキルしか無い担任の私は「気持ち悪っ!」連発しながら子供たちを守り抜きます!

加藤伊織

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14 人攫いの村・4

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「だからこそ、私は絶対に許さない!!」
 

 私の断罪の声が響く。最初に子供たちを家に入れてくれた子が外の喧噪に様子を窺っていたけども、雷のような私の声に身をすくませてドアを閉めた。

 重傷を負わされ、更にそれを治療されたビニーさんは私の言葉にうつむいている。ただ怪我を負わされたなら自業自得だったけれども、それを癒やされたらさぞ複雑な気持ちだろう。
 そして、私のほぼ自己満足の正義感での言葉に、この世界の現実が突きつけられた。
  
「俺たちの村は貧しい。ここ数年は魔物が増えて昔よりずっと苦しくなってるんだ。そこへ身なりの良い金になりそうな子供たちが飛び込んできた――利用しようと思って何が悪い!」
「残りの子供たちだって今頃魔物に食われているさ! 売られた方がまだ生きられる。子供たちのためでもあるんだぞ!?」
 村人たちの言葉に私は絶句した。倫理観が、完全に食い違ってる。
 
「……自分たちの子が攫われて売られたらどう思うの?」
 なんとか言葉を絞り出すと、何を言っているんだというような嘲りの表情が向けられた。
「これだから金のある人間は。子供たちとあんただけで旅ができたなんて、余程いい装備でも持ってるんだろう? 攫われるまでもなく、収穫が少なく冬を越せないときには子を売らなきゃいけないときもあるのさ。好きで自分の子を売るもんか。それでもそうしなけりゃいけないときがある」

 吐き捨てるように言った村人の言葉に私は唇を噛みしめた。
 これが、この世界の現実!
 思っていたよりも、ずっと悪い状況だ。そして、私にできることは何もない。
 
 
「……戻ろう」
 子供たちに向かって言うと、村人の内の何人かはあからさまに安堵の表情を浮かべた。それが心の傷をちくちくと刺してきて、私は大声ではないけども通る声で言い放つ。
 
「あなたたちを無用に怯えさせるのは悪いと思って言わないでいましたが、私と子供たちは襲ってきた魔物を全て倒して旅をしてきました」

 自分で自分の顔は見えないけれど、私は今とんでもなく冷たい顔をしているだろう。
 私の言葉で、村人が目を見開き、化け物を見るような怯えた顔でこちらを見ている。
「追わないでくださいね。――次の手加減はありません」
 怒りのあまりに凍ってしまった声でそう脅すと、私はまだ泣きじゃくる楓ちゃんを抱き直して村人たちに背を向けた。

「みんなのところへ行こう、これ以上ここにいても仕方ないから」
 重いと思っていた門は、子供たちの力で開けることができた。
 けれどそこから出ようとした時、「待ってくれ!」と聞き覚えのある声が追いすがってきた。
 
「待ってくれ! すまない……村長とビニーたちがこんな惨いことを考えていたなんて気づけなかった……」
「マックスさん……」

 私たちを最初に見つけた村の見張り役は、地面に座り込んで頭を叩きつけるような勢いで土下座をした。
 そうか、この人はずっと私たちを見張っていた。村長のところへ行ったのはビニーさんで、マックスさんは子供たちを捕まえて売り払うという計画は聞かされる余裕がなかったんだろう。

「これを、持って行ってくれ。おばば様が作った熱冷ましの薬だ。うちの子が熱を出したときに譲ってもらった」
「受け取れません。……だって、毒かもしれないでしょう?」
 地を這うような私の低い声に、マックスさんが驚いて顔を上げた。その目に浮かぶ色は彼が傷ついている事を示していて、けれどこの村の人たちを信じられなくなっている私は彼の謝罪とおそらくは純粋な厚意を受け止めることができない。

「その薬が本物だったらごめんなさい。でも、私はもうこの村の人たちを信じられないんです」
 本当はこんな態度良くないに決まってる、と私の頭の冷静な部分が呟く。子供たちの前で見せるべき姿じゃない。
 だけど、私は怒りを収めることができなかった。7割は村人への怒り、そして残りの3割は、自分への怒り。それを全て村人へぶつけるのは間違っているだろうけど。


 そのまま私は無言で門をくぐった。子供たちは私の周りにぴったりとくっついてくる。
 今、モンスターが出てきたら子供たちは戦えないかもしれない。真澄ますみちゃんが鋼メンタルだったのは意外だけども、子供たちは大なり小なり心に傷を負った。
 
「先生、マックスさん、ずっと頭下げてるよ」
 後ろを振り返って俊弥しゆんやくんが私の服の裾を引いた。
「……あのね」
 頭と心の中を引っかき回して、私はマックスさんの行動を説明しようと探った。
 私はマックスさんじゃないから、彼の心の100%を説明することはできない。
 だけど、彼の行動の一部分は私にも理解できる。

「何かいけないことをしたとき、自分がいけないと思ったら謝った方が気持ちが楽になるよね。……だから、マックスさんは謝ってるの。でもそれは、私たちには関係ありません」
「相手が謝ったら許してあげなきゃいけないんじゃないの?」
 俊弥くんは親にそう教わっているんだろう。語尾に不安げな響きが滲んでいた。

「相手が謝っているからって、必ず許さなきゃいけないわけじゃありません」
 私はまだ声に厳しい響きを残しながらすっぱりと言い切る。私が言うことは、もしかしたら教育者としては間違っているかもしれない。だけど、人間が簡単に寛容になり、傷ついた自分の心を無視して相手を許せるとは到底私には思えない。
 
「相手が謝っても、謝らなくても、許せないと思ったら許さなくていい。自分の心は、自分だけのものです。『謝ってるんだから許してあげて』って簡単に言う人は、何かされた人の苦しみも悲しみも考えずに言ってることが多いんだから」
 そういう人間を私は何人も見てきた。昔はいろいろと我慢してきたけど、今の私は「自分の心を踏みつけにされたら怒る」ことを覚えたのだ。 

 だから、声を大にして言った。「だからこそ、私は絶対に許さない!!」と。
 それを私は後悔していない。
 

 私からビリビリとした空気を感じ取ったのか、子供たちはその後はずっと無言で歩き続けた。楓ちゃんは泣き疲れたのか私の肩に頭を預けて眠ってしまい、モンスターの襲撃を心配したけれども何故かそれはなかった。



「あーっ! 先生、お帰りなさい!」
「先生帰ってきたー! 智輝ともきー!」
 私たちの姿を見つけた友仁ともひとくんが飛び上がりながらこっちに手を振り、悠人はるとくんがテントの中に呼び掛ける。

「みんな無事? ごめんね、お医者さん見つけられなかった……」
「大丈夫だよ、先生」
 力ない私の言葉に、悠人くんが優しく答える。そして、テントから智輝くんがひょっこりと顔を出した。
「智輝くん! 熱は下がったの? 大丈夫!?」
 何事もなかったかのように元気になっている智輝くんに安堵しつつも、私はかなり驚いていた。だって、つい数時間前ここを離れる時はまだ熱を出していたんだから。

「ごめんね、先生。もう全然平気だよ!」
 私の前でジャンプしてみせる智輝くんは元気そのもので、正直私は狐につままれたような気持ちでいた。
 その私の疑問を解決してくれたのは、指揮官に指名した悠真ゆうまくんだ。
 
「あのね、もしかしたらLVが上がってステータスが上がったら疲れやすさも変わるかもしれないと思って、森からモンスターを連れてきて倒しまくってみたんだ。いつもの一日で戦う数くらいのモンスターを倒したよ」
「だから帰り道にモンスターが出なかったんだ! ええっ、じゃあ凄くレベル上がったの? ステータスオープン……うわっ」
 前に確認したのは三日前だったかな、智輝くんが寝込む前だ。
 それより10もLVが上がっている! 私ですらVITが10上がっているから、智輝くんはもっと上がってるだろう。

 
 悠真くんは完全に真顔で、私は天を仰いだ。
 脱帽。完全に脱帽。悠真くんは私が思ってるよりずっと賢かった。
 そうか、確かに「疲れやすさ」はVIT依存だった。それは私が移動初日に体感してる。だからって、「寝込んでいるならVITを上げれば治る」という発想は私にはなかった……。だって、熱を出したら薬を飲んで休むものというのが私の常識だから。

「今度から、移動するときはもっとゆっくりにしようね。あんまり疲れないように」
「うん、俺も気を付ける」
 自分が寝込んだことで周囲に迷惑を掛けたと感じているのだろう、智輝くんが神妙な顔で頷く。

 
 楓ちゃんはその日は同じテントで寝かせたけども、懸念が当たってしまってかなりうなされていた。夜中に突然飛び起きて泣き出す彼女を、私はその度に抱きしめて撫で続けた。

 智輝くんの発熱騒動は落ち着いたけども、幾人かの子供には大人不信の種を植え付けてしまった。
 苦い思いは、しばらく私を苦しめることになった。
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