最強の1年1組、理不尽スキル「椅子召喚」で異世界無双する。微妙なスキルしか無い担任の私は「気持ち悪っ!」連発しながら子供たちを守り抜きます!

加藤伊織

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32 強ぇ奴と戦いてぇぞ!

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 辺境騎士団の砦での生活は、久々に穏やかな時間を私たちにくれた。
 騎士たちが既に子供たちに馴染んでいたし、レティシアさんも子供と仲良くしてくれたから、砦の他の人たちも私たちにできる限り親切にしてくれた。

 ここには人の営みがあって、モンスターを倒せば得られる食べ物ごと歓迎される。それは子供たちにとっては確実にいい影響を与えていて、やっと俊弥しゆんやくんとあおいちゃんも以前のように大人に対して振る舞える様になったのだ。

 お風呂屋さんを始めてから二日目、椅子風呂は出したら出しっぱなしにできるので、外で待機の時には陽斗はるとくんと杏子あんずちゃんは別の子と店長を交代している。
 ああ、これ結構いいかも。社会勉強的にお金も稼げるし、子供たちと住人との会話も増えるし――。
 なんて私が思っていたところに、思わぬ言葉が降ってきた。


「せんせー、ここの敵弱いよ。もっと強いのと戦いたい」

「えっ」
 ……これが太一たいちくんとか友仁ともひとくんだったら、驚かなかった。
 私が固まったのは、それが雪綺せあらちゃんから言われたからだ。

 待て待て、月姫るなちゃんだったらなんとなくわかる。あの子いきなり椅子投げしてたし、攻撃的という意味で手が早いし。
 雪綺せあらちゃんは「凄く行動的」な子には私の中では分類されてない。
 新白梅幼稚園出身だけど、そんなに脳筋なタイプでもない。ステータスも何かが飛び抜けていると言うわけではなくて、平均的な数値が並んだ子だ。
 学校でも凄く手を焼いたりした記憶は、ない。

「強い敵と戦わないとLVが上がらないじゃん。昨日も今日も上がってないし。だから、もっと敵が強いところへ行こうよ」
 いきなり物騒なこと言ったなあと思ったら、動機は至極真っ当なものだった。
 そうだよ。LV99にならないと帰れないんだから、「ここは子供たちにとって安心」とか言ってる場合じゃなかった。

 まず、「みんなで帰る」という目的に向かって全力で動かないと!

「私、早くおうちに帰りたい!」
 雪綺せあらちゃんの悲痛な叫びが私の耳を打った。それは私に活を入れるには十分すぎて。
「そうだよ、そうだよね! うん、雪綺せあらちゃんの言ってることの方が正しいよ。オーガもトロルもガンガン倒せるところに行って早くおうちに帰ろう!」
「うん! 早く、エビのお寿司が食べたいよぉー!」
 エビのお寿司発作の方か……。そういえば、えびせんが出たときにそんなこと言ってたなあ。
 うっ、深く考えちゃいけない! 私まで「トロサーモン食べたい」とか考えてしまう!
 考えちゃいけないのに、「焼き鯖寿司食べたい」とか「中トロ」とか考えてしまうよ!!


優安ゆあんちゃんー! 先生ね、お寿司が食べたいよー!」
「どしたの? 先生」
 あのシステム管理者が、ドロップ品で欲しいものがあったらパスを繋いだ優安ちゃんに言えと言っていたので、私は思わず優安ちゃんに泣きついてしまった。
「お寿司が食べたい」
「うん、ゆあんも食べたいな」
「ワサビ抜きでいいから、みんなの分たくさん出ないかな」
「えへへ、出るといいねー」

 優安ちゃんは訳もわからない様子でにこにこしていたけど、ちゃんとお昼にはお寿司がドロップした!!
 助六とかじゃなくて、にぎり寿司のパックが! たくさん!
 マグロとサーモンは2巻ずつ、後はアナゴ、イクラ、エビ、ハマチ、イカ、玉子。
 そのパックとは別に、コーン軍艦やサラダ軍艦が入ったパックもある! 焼き鯖棒寿司もある! 最高! 今だけはあのいけ好かないシステム管理者に感謝する!

「やったー!!」
「お寿司だ!」
 未だかつてドロップ品で子供たちがこんなに喜んだことがあっただろうか? いや、ない! 私も凄く嬉しい!

「それじゃ、日直さんお願いします」
「はいっ、みなさん、手を合わせて下さい!」
「いただきまーす!!」
 日直のかえでちゃんと六三四むさしくんがもう前のめりだった。六三四くんのいただきますの後に、とても元気な声がたくさん続く。 
  
「エビー、エビいらない人いたら交換するよー」
「うう、イクラ欲しいけどエビも好き……」
「俺、イカいらない」

 賑やかな光景を見ながら、私は2パックのお寿司をペロリと平らげ、子供たちがあまり箸を伸ばさない焼き鯖棒寿司も半パック食べ、つかの間の幸せに浸っていた。
 脂がのった鯖を焼き上げて、程良く酢の利いたシャリとの間に甘みを感じるガリを挟んだ棒寿司は絶品だった……。口の中に鯖の脂がうま味と一緒に広がっていくのに、ガリのおかげでさっぱりする。白ごまが入っていたのもポイント高い。バッテラもいいけど、焼き鯖もやっぱりいいなあ。
 
「先生、イカあげる」
 最初にそう言って私のパックの中に置いていったのはいつきくんだったけど、気がついたら空っぽにした私のパックは、みっちりとイカに占拠されていた。

「ちょっ……先生もこんなに食べられないよ!?」
 コーン軍艦とかも綺麗に売り切れているけども、「カッパ巻きがなかった」って宗久むねひさくんはしょんぼりしてるし、ハマチとイカの残りっぷりといったら!
 
「誰か! クリスさん呼んできて!」
 
 そして好き嫌いを言わないクリスさんが、「変わった食べ物ですね」と言いながらイカとハマチのにぎりを合計30巻ほど全て食べてくれた。
 私はイカを咀嚼しすぎて、少し顎が痛くなった……。


 お寿司を食べて精神的に満たされたところで、私はクリスさんと一緒にミカル団長の執務室に向かっていた。クリスさんが私に呼ばれたとき、一緒に戻ってくるようにと言われていたらしい。

「今日の昼飯はなんだったかね?」
 人の顔を見るなり開口一番ミカル団長が拗ね気味の口調で言った。全く、この人は……。クリスさんだけが呼ばれて食べたのをちょっと羨ましがっているらしい。 
「今日の昼食は、私たちの国の食べ物で『スシ』というものです。炊いたコメに酢を掛けたものを一口大に握って、上に魚を主とした色々なものを乗せて食べます。これが嫌いという人はあまりいないので、子供たちが大喜びでした」
 
「そうか、嫌いという人はあまりいないものか……さぞうまいのだろうなあ」
「つ、次に出たらミカルさんも呼びますね」
「生の魚を食べたのは初めてでしたが、不思議な食感で美味しかったですよ」
 外国の人がまず躊躇するという生魚に関しても、クリスさんは全く気にしなかった。一方、生魚と聞いてミカル団長の方が驚いている。
 
「コホン、とにかく、そのスシのことは置いておいて、だな。ミカコさんたちの事について、国王陛下への文を用意した。魔物退治は国にとっての重要事項。このエガリアナ辺境騎士団も他国への防衛ではなく魔物対策で設立された騎士団だ。国の保護が辺境であろうとも行き渡っているという『大義名分』のためにな。
 クリスの第2分隊は少人数で行動したため壊滅寸前の危機に陥ったが、今後は偵察であろうとも運用人数を小隊単位に引き上げることを決定した。そして、エガリアの森周辺のいくつかの集落からは、ごく最近になって急激に魔物が減ったと報告が上がっている」

「それってもしかして……」
 私が控えめに言葉の先を促すと、ミカル団長は力強く頷いた。
「ミカコさんたちがほぼ片付けてしまったと思うのが妥当だろう。今日も随分魔物を倒しているし、今後はこの近辺に限って言うならそうそう人里近くには出てくるまい」
「でも、私たちが近くにいる限り、魔物はこちらへ向かってくるのですが」
 
「それが問題でもあり、この国王陛下への文に書いた最も重要な部分だ。――あなたたちは元の世界に戻りたい。その為には多くの魔物を倒さなければいけない。ならば、一カ所に留まらず、魔物を倒しながら旅をするのがいいだろう」
 
 魔物を倒しながら旅をする――。それは、この砦に辿り着く前と何も変わらない。変わらないのに、それが一番だと自分の頭でもわかっているのに、少しでも落ち着く場所を見つけてしまった今、私にとっては奇妙に寂しく感じた。なんとなく、突き放されたような寂しさも感じる。

「そう、ですね。実は今日子供からも言われたのです。早く家に帰りたいから、もっと強い魔物がいるところへ行こう、と」

「それについて、だ。国王陛下から自由な移動を認め、便宜を図るようにという勅諚ちよくじようを出していただければあなたたちの安全度は上がり、我々の国も魔物が一気に減って双方に利がある。
 これを持って王都へ向かい、陛下に謁見するといいだろう。陛下はまだお若いながらも手堅い統治をなされている御方だ。あなたたちは魔物被害に関する最強の剣であり盾。それをよく説明しておいた」
 
「あ、ありがとうございます」
 私は筒状に丸められて封蝋がされたものを受け取って感動していた。
 これって羊皮紙!? 本物!? 凄い! 羊皮紙風という紙は触ったことあるけど、本物は初めて見たよ!
 
「王都まではクリスの分隊に案内させよう。ちょうどレティシア様をお送りせねばならないしな」
「ミカコさん、また旅の間よろしくお願いします」
 恭しくクリスさんが私に向かって礼をする。それに慌てて頭を下げながら、ミカルさんの厚意に改めて感謝していた。

「ミカルさん、いろいろありがとうございます。私、その、なんと言ったらいいか……。最初に行った村で子供たちが攫われそうになってから、心が荒んでいたんです。この騎士団の方々は、異世界から来たという得体の知れない私たちを受け入れ、とても良くして下さいました。本当に感謝しています」
 
「最初に助けられたのは我々の方だ。本来魔物を倒し民を守るのが我ら辺境騎士団の役目であるというのに、太刀打ちできない魔物が出てしまって手をこまねいていたところだった。あなた方に助けられた私の部下と、民に代わって御礼を申し上げる。そして、その恩故にあなた方を力の限りお守りすると約束しよう。騎士の誇りに誓って」

 腰に下げていた剣を胸に掲げ、ミカルさんが礼を取る。
 今までちょっと愉快なおじさんだと思っていたけれども、ミカルさんのその姿は紛うことなき「騎士」で、私は胸が熱くなるのと一緒に目に涙が滲むのを感じていた。
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