5分で読めるブラックユーモア

夜寝乃もぬけ

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私は花になりたい

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「好き」と「愛してる」の違いについてブッダはこう答えたそうだ。

----------------------------------------
“花が好きと言う場合、ただ花を摘むだろう。
だが花を愛していれば、世話をし毎日水をやるだろう”
----------------------------------------

私は合鍵を使い彼の家に上がりこんだ。
この時間、彼が家にいないのは確認済み。

今日、彼の家で私は死ぬ。

私にはあの人が全てだったのに。
なのに突然、別れを告げられるなんて。
もう、生きていくのが嫌。
これは、彼に対する復讐心。

ぶら下げたロープで首を吊る。

頸動脈が自重で圧迫され、勝手に足がバタつく。
薄れていく意識の中で私が最後に見たのは、私があの人にプレゼントしたドライフラワーだった。


もし・・・今度・・・生まれ変われるなら・・・綺麗な花になりたいな。


そんな事を思いながら、私は一生を終えた。

……。
…………。
………………。
……暗い。
……ここは……どこ……。
……どこでもいいや……。


……。
……眩しい……。
……光……。

……花。花、花……。

沢山の花が咲き乱れている。

ここは、もしかして天国?

体が……動かない。
どうなっているの私の体?

突然、私の目の前に大きな人が現れた。

巨人!? なに? 大きい女の人。

「うわー。芽が出てる。嬉しい。もっとすくすく育ってね」

その女の巨人は大きなじょうろで上空から雨を降らしてくる。

ひっ! 冷たい! なんなの!あっ、でも気持ちいい。もっとかけてほしい。
巨人の女はしばらく、水をかけるとその場を去っていった。

……もしかして私が小さい。というよりも、この感じ……私は花になったの!?

私は花に生まれ変わっていた。

死ぬ瞬間に願った事が叶ったのだ。

第二の人生は花か。いいじゃない。
置かれた場所で咲いてやろうじゃないの。

私は花として生きていくことに決めた。


「すくすく育っていますね。もう蕾ができています」

私に水をやっている女の人。

この人の名前は、りん。誰かがそう呼んでいるのを聞いた。
そして、りんは花屋さんで働いている。
つまり、私は花屋で咲く花だ。

野原や野道に咲く花でなくてよかったと本当に思う。
犬におしっこをかけられたり、無邪気な子供にむしられたり、虫に喰われる危険性なんてないんだから。
ここにはそんな心配はない。温室でぬくぬくと生きられるわ。

あと、ここだと退屈もしないわ。りんが毎日、話しかけてくれるもの。
まあ、彼氏の話しがほとんどなんだけどね。

「今日は、たかしと動物園に行ってきたんだよ」
「たかしにご飯を作ったら、喜んでくれたんだ」
「たかしと喧嘩しちゃったけど、すぐ仲直りしたよ」

などなど。
ずっとニコニコ話しかけてくるのよね。
順調に愛を育んでいるようで、なによりって感じかしら。


「ああー。花が咲いてる。キレイ」

りんは朝早く私を見てそう言った。

ぬくぬくと育った私は何の弊害もなく花を咲かせた。

「やっと花が咲いた。咲いてくれてありがとう。花が咲いたら彼氏にプレゼントしようと思っていました」

りんはニコニコ笑いながら私に話しかける。

おおっ。私はりんのお気に入りだったのね。
私は嬉しくなった。
彼氏にプレゼントね。喜んでもらえるかしら。
いいえ。ここまでりんが私を大切に育ててくれたんだもの。
きっと喜んでくれるわよね。

「こっちの植木鉢に引っ越しです」

りんはそう言うと、私を綺麗な鉢に植え替えてくれた。
その日、いつもよりニコニコと上機嫌の様子。
そして、仕事が終わり、綺麗に梱包された私を持って店を出ていった。


「ねえねえ。今日はなんとプレゼントがあります」

「おお、嬉しい。なになに」

男の人の声。
きっと彼氏のたかしって人ね。

「開けてみて」

私を覆っていた箱が開けられる。

「うわー。綺麗な白い花だ。ありがとう。花をプレゼントされたの初めてだよ」

りんの彼氏は私を見て、笑顔で喜んでくれている。
爽やかで優しそうな人。顔もイケメンね。やるじゃない、りん。

「喜んでくれて良かった」
りんがニコニコと笑う。

微笑ましい。
幸せそうな二人を見て、私はあの人の事を思い出していた。
……この二人なら大丈夫ね。
私が見守ってあげる。
それが私にできる恩返し。って感じかしら。

「そういえば、花の名前はなんていうの?」
「ガマズミっていうんだよ」
「きいたことない」
「珍しい花だからね。種から大切に育てていたんだよ。ねえ、ガマズミの花言葉。なんだと思う?」
「なんだろう。うーん。わからないな。なに、教えてよ」
「花言葉はね『無視したら私は死にます』なんだよ。だから枯らさずにちゃんと水をあげてね」

りんはニコニコ笑って言った。
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