5分で読めるブラックユーモア

夜寝乃もぬけ

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ブラック絵本読み聞かせ

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今日は、この幼稚園で絵本の読み聞かせが行なわれる。

ボランティアの人が来てくれるらしいのだが、この人が子供達にとても人気があるらしい。
自作の絵本を読んでくれるらしいのだが、他の先生達の間では賛否がある。

その理由は内容が実に【ブラック】らしい。

果たして……どんな読み聞かせが行われるのか。

「よろしくお願いします」

子供達は一斉に立ち上がり、大きな声でボランティアのおばさんに挨拶をする。

髪は茶髪のショートてゆるいパーマ。顔には大きめのレンズの眼鏡をかけており、光に反射し時折、紫色に輝く。服は派手なトラ柄の服を着ている。

「はい。よろしく」

ボランティアのおばさんは素気なく言うと椅子に腰掛けた。

大丈夫かしら。真っ先にそう思った。でも、子供達は目を輝かせている。

おばさんはショルダーバッグから真っ黒の背表紙の絵本を取り出し、子供達に見やすいように少し上で広げて見せる。

「弱者を喰らう」

おばさんはページをめくりタイトルを読む。

弱者は喰らう!?

タイトルからしてやばそうだけど大丈夫かしら。
そう思うが、子供達は目を輝かせている。おばさんはページをめくる。

「あるところに雀の雛達の学校がありました」

本には色鮮やかな色彩で学校と雀が書かれている。
デフォルメされた優しいタッチの雀達はとても可愛い。

背表紙とタイトルからは想像がつかないほど綺麗じゃない。
絵本のクオリティはかなり高いわね。
子供達の目も輝いているし。

私は先ほどの懸念点が払拭される。

「チュン子もこの学校に通う雀の雛です。雛達は学校で飛ぶ訓練を受けています」

「毎日、毎日、飛ぶ練習」

「でも、チュン子はなかなかうまく飛べません」

「チュン子はお母さんに言いました。もう、飛ぶ練習はしたくないよ」

「お母さんはチュン子に答えます。何を言ってるの。あんた飛べないと、死ぬわよ!」

おばさんは最初の素気ない返事とは打って変わって、よく通る声で喋り、声色も使い分け、ページをすらすらめくっていく。

すごいわね。流石プロって感じだわ。思わず引き込まれちゃう。子供達も目を輝かせているわ。

「チュン子をお母さんに飛び方を教わりながら、必死に飛ぶ練習を行いました」

「来る日も来る日も、飛ぶ事を諦めた雀達を尻目に練習しました」

「なんとかコツを掴み。飛べるようになったチュン子」

「先生見て、やったよ。チュン子を嬉しそうに言います」

「そこに頭上を覆う大きな黒い影が現れました」

「それは3羽のカラスでした」

「カラスは雀の雛をクチバシでパクリ」


えっ?食べた!!


「みんなが一斉に逃げます」

「カラスは追いかけてパクリ、もう1羽のカラスもパクリ、最後の1羽もパクリ」

「グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、ゴクリ」

「グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、ゴクリ」

「グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、ゴクリ」

絵本には雀の首が千切れ、目ん玉をおいしそうに食べるカラスの描写が赤と黒の色彩でおどろおどろしく描かれている。

ぎゃああーー! 優しい世界からの地獄絵図! これ完全にアウトだわ。子供達に見せられない。

たが、子供達はそれに魅せられるように目を輝かせている。

……ならOKね。それよりチュン子はどうしたの。凄く気になるわ。

「チュン子は無事でした」

「必死に飛ぶ練習をしていたので、逃げ切れたのです」

「食べられたのは、飛ぶ練習を怠り、上手く飛べなかった雛達でした」

「チュン子はお母さんが言っていたことが今、身に染みて分かったのです」

「そして、月日は流れ。チュン子は大人になり子供を産みました」

「子供はチュン子に言います。もう飛ぶ練習はしたくないよ」

「チュン子は子供に言いました。あんた飛べないと、死ぬわよ!」

「チュン子は子供に飛び方を教えます。子供も必死に飛ぶ練習をします」

「そしてなんとか、上手く飛べるようになった子供とチュン子は電線に留まりました」

「お母さん、上手く飛べるようになったよ。子供は言います」

「よかったわね。チュン子は言いました」

あら、なんだかんだでハッピーエンド。親子の愛ってやつね。いい話しじゃない。子供達の目も輝いているし。

あら、まだ続きがある。

おばさんはページをめくる。

「チュン子達の目線の先に、一軒の家があります。その窓から人間が見えます」

「人間は自分の親を刺し殺していました」

「グサッ、グサッ、グサッ、おらくそばばぁあ!」

「グサッ、グサッ、グサッ、死に晒せやぁぁ!」

そこには自分の母親に跨り、狂気に満ちた顔で、包丁を何度も突き立てている絵が書かれている。

「グサッ、グサッ、グサッ、全部お前のせいなんだよ!」

今日、1番の迫真の演技! 子供に悪影響なのは分かっているが、止めるのは無理だわ。止めたら、私も刺し殺されるような、凄みがある!

子供達もその凄みに目を輝かせている!

「これが30年間、引きこもりで甘やかされて育った大人の末路でした」

「チュン子達は思いました。『人間って楽勝』と」

「そして、飛び去っていきました」

「おしまい」

おばさんは余韻なく絵本をぱたんと閉じると、バッグにしまい、立ち上がった。
子供達は全員立ち上がり、「ありがとうございました」と声を揃えてお辞儀をする。

おばさんは気に留める様子もなく、そそくさと帰る態勢に入る。

私は「あっ、ありがとうございました」と、既に教室のドアで背中を向けていた、おばさんに向かってお辞儀をした。
おばさんは、最後に振り返って力強くこう言った。

「あんたたち逞しく生きな」

ドアが勢いよく、締められた。
なんだかよくわからない感情が私には渦巻いていたが、子供達は目を輝かせていた。
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