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序章
1 一般的に知られているシンデレラと言う童話
しおりを挟む昔々ある所に黄金色に輝く髪と澄んだ青い瞳を持つ、それはとても美しい乙女がおりました。
彼女の名前はシンデレラ。
彼女は美しい容姿だけでなく内に秘められたる心もまた美しく心根の優しい乙女でした。
幼いシンデレラは優しい両親と使用人達より沢山の愛情を注がれ、彼女はすくすくと幸せに育っていく予定でしたがしかし――――彼女がまだ10歳にも満たない頃でした。
シンデレラと彼女の父親にとって悲しくも最初の不幸が二人の許へ訪れたのです。
それはシンデレラを聡明な大人へ成長させた様な美しくも優しい母親の早過ぎる死。
眠る様に息を引き取った母はまるで生きている時と同様に美しく、天国へ召された後もシンデレラと父親の胸の中でずっと生き続けました。
そうして時は流れシンデレラが16歳になる頃、一つの出来事がありました。
そう、父親の再婚です。
シンデレラにとって母親と言う存在は今も昔も変わらず、彼女の胸の中で優しげに微笑んでいる女性だけ。
しかしシンデレラは自身の想いよりも、新しい母親となる女性を想い愛する幸せそうな父親の気持ちを優先しました。
そう、シンデレラにとって愛する父親が幸せならば彼女もまた幸せであり、そして新しい母となる女性を心より受け入れようと思ったのです。
それから間もなく父親は新しい母となる女性と結婚式を挙げ、シンデレラの住む屋敷へ義母と二人の義姉を迎え入れます。
新しい義母はとても美しく魅力的な女性でした。
ですが美しい義母はシンデレラの母とはとても対照的でもありました。
亡くなったシンデレラの母が春の陽だまりの様な美しさであるのに対し、義母は凍える様な真冬に輝く月の様な、静かに見つめられれば心までも凍ってしまいそうになるくらい冷たい印象を持つ女性だったのです。
それでもシンデレラは彼女達を受け入れようと思いました。
そして最初の頃は本当に幸せ……だったのです。
でもその幸せも結局長くは続きませんでした。
何故なら更なる大きな不幸が次々とシンデレラを襲ってくるからです。
その最も大きな不幸がシンデレラの父親の死――――でした。
大きな取引があると言って遠方へ出掛け、必ずお土産を片手に無事帰ってくると笑って旅立った父親は、道中で事故に遭い、そのまま回復する事無くシンデレラの母の許へと永遠に旅立ったのです。
しかし悲しみに暮れるシンデレラへ更に不幸は追い打ちを掛けてきます。
それは事故とは言え、取引先へに多大な負債を抱えてしまったからなのです。
先ず最初に裕福だったシンデレラの家からは、沢山いたであろう使用人全てがあっという間にいなくなりました。
何と言っても莫大な借金を抱える屋敷に、使用人なんて雇える訳がないですものね。
でもその直後未亡人となった義母より、妻であった彼女がその借金を肩代わりしたとシンデレラは教えられました。
それを聞きシンデレラは束の間ほっとする事も許されず、また新たな不幸が彼女へ押し寄せます。
「ねぇ私の愛する娘達が困った事にね、今使っている部屋が狭いと毎日喧嘩ばかりするの。でもね、この屋敷で私の部屋以外で広い部屋と言えば……」
「……あの、私の部屋で良ろしければ、どうぞお使いになって下さいませんか」
「あら、悪いわね。ではあなたは今日よりこちらの部屋を使いなさい」
「――――っっ!?」
そうして示されたのは物置として使っていただろう埃塗れの屋根裏部屋。
「ああそうそう、今日からはそのようなドレスも必要ないわ」
「お……義母さま、それは何故……?」
戸惑うシンデレラの前に差し出されたのは、一着のそれも大分昔に使用人が身につけていたであろう古い黒のお仕着せ。
「それはね、たった今よりあなたが生涯身につけるものよ」
「で、でもこれは使用人が――――!?」
「まぁ本当にまだわからないのね。私は頭の悪い子は嫌いなのよ。今日からお前は使用人として私達に生涯仕えるのです。ほら理解したのならば……」
「お義母さまっっ!!」
「お義母さま? 何を巫山戯た事を言うのかと思えば……今も昔も私に娘は二人だけ。お前等最初から娘と思ってはいませんっっ。いい事、今よりお前はただの使用人。いいえ、父親の借金を私に肩代わりされた哀れな使用人。ほほほ、今お前はこの家より一刻も早く逃げ出したいと思っているでしょうがそれは許されなくてよ。形だけとはいえお前は私の義理の娘。まして成人もしていない娘一人が無事に生きていける程この世の中は甘くはないのです。まあお前の様な娘でも生きていく方法は無きにしも非ずだけれども聞きたい? ほほほ……私がちゃんと頭の悪い教えてあげるわ。そう、お前の様な娘はね、この屋敷より一歩でも外へ出ようものならば、下卑た男達が群がる汚らわしい娼館へ身包み剥がされた上で売り飛ばされ、毎日毎晩どの様に泣き叫ぼうとも薄汚い男達の玩具になるしかないのよ。ねぇ、よ~くわかったかしら、この私の寛大さを……ね。さあ理解が出来たのならばさっさと着替えて仕事をなさい!!」
「は、はいお義母……」
「あぁそれから……たった今より私の事はトレメイン夫人とお呼びなさい。ほらっ、理解出来たのならばちゃんと返事をなさいっっ」
「わかり……ました、トレメイン夫人」
「宜しい、では下がりなさい」
「はい、失礼します」
その日を境にシンデレラは朝は誰よりも早く目覚めれば直ぐに朝食の用意に掃除洗濯、近くの市場で買い物を済ませ、仕事の合間に義母や二人の義姉達の世話に謂れのない陰湿な苛めを沢山受けていました。
でもトレメイン夫人の言う通りシンデレラにはこの屋敷以外何処も行く場所がなかったのです。
また街の者達もシンデレラを哀れとは思いつつも、彼女を助ける事等出来ませんでした。
それでもシンデレラが笑顔でいられたのは、亡き母の言葉通り何時も笑顔で……と言う言葉のお陰でした。
どの様に苦しくとも笑顔でさえいれば、何時か幸せがあなたの許へ訪れるのよ……と言っていた母の言葉と、屋敷に住まう鼠や小鳥達の癒しがあったからです。
動物達は優しいシンデレラの歌がとても好きでした。
掃除や洗濯をしながらシンデレラは歌います。
何故なら歌っていると少しでも現状の辛さを忘れられるから……。
でも身体は毎日くたくたに疲れるのです。
彼女の部屋である屋根裏部屋へ戻る事も出来ず暖炉の前で疲れ果て、身体を小さくして蹲る様に眠ってしまう事もしばしばありました。
そしてそんな翌日の朝の彼女は灰塗れになっていました。
「とても似合っていてよエラ。灰塗れのエラ、そうね、お前は今日より灰塗れのエラと名乗りなさい。今のお前にピッタリな名前だ事」
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