王妃様は真実の愛を探す

第一部 第二章 （2）三国の過去

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　15年前――――ライアーン王国の花の季節にまるでその季節を表すかの様な美しい姫が誕生した。
　姫の名前はエヴァンジェリン・シャーリーン・フィオナ・オブライアン。
　ライアーン王国の第一王女。
　赤毛交じりの金色ストロベリー・ブロンドの髪はこの国ではそんなに珍しくもなかったが、彼女の金色は中でも珍しく白金プラチナブロンドの様に光り輝き、瞳の色はライアーン王家に受け継がれる美しいエメラルドグリーンで、またその肌は白磁の様にきめ細かく吸いつく様に滑なめらかなもの。
　彼女の母親である王妃は艶やかに大輪の薔薇の様な美しさを持つ女性であったが為『ライアーンの薔薇』と称えられたが、その姫君は誰にもない凛とした清楚な美しさを秘めており、幼い頃から『ライアーンの百合』と称えられていた。
　ライアーンでは美しい女性を花に例える習慣があったが、中でも百合はある条件を満たす者にだけ与えられる花でもある。

　その姫を国王夫妻は事の他溺愛していた。　
　そうして姫の生誕100日目の祝賀に当時まだ勢いのあった隣国シャロン王国より縁談が持ちこまれたのだのだ。
　しかもかなり直接的に、通常ではありえない形だ。
　シャロン王国より祝賀の賓客として10歳になる第一王子をライアーンへ送り込み、姫と対面した時に彼自身の言葉で結婚を申し込んできたのだ。
　最初はライアーン王も王子はまだ10歳の子供という事でそんなに重く捉とらえていなかった――――いや、シャロンとの婚姻による同盟等全く考えてはいなかったという方が正しい。
　ライアーンは平和を重視する国であった為、各国と同盟は結んでも戦をしない永久中立国として知られていたのだから……。

　然しかも幾ら王族間の婚姻は早婚が多いと言うが姫はまだ生まれたばかりでおまけにライアーンの現時点での世継ぎの君なのだ。
　そんな世継ぎの姫をおいそれと他国の第一王子と婚約等「はい、そうですか」と認める訳にはいかない。
　第一王子と言えばゆくゆくは王太子として国を継ぐ可能性が高いのだ。
　長男長女同士の結婚等認められない、出来れば子供の戯言たわごとだとライアーン王はそう思いたかった。
　それに強しいて言えば相手が悪い……いや、悪過ぎる、最悪だと言ってもいい。
　あの隣国のシャロンなのだから……。

　だがシャロンの第一王子は姫の生誕100日の祝賀が終わっても一向に帰国する様子がない。
　祝賀が終わって1週間が経ち、1ヶ月経とうとも毎日の様に賓客塔より姫の元へと通い続け王や王妃に『姫は私の妻となる大切なる存在だ』と言ってくる始末……。
　全く冗談にしては笑えないくらい性質たちが悪過ぎだ。
　また王子は滞在中にその愛くるしい姿で王宮の侍従や侍女だけでなく、城外へ出歩けば国民達にも小さな貴公子然とした対応をし、見る間に人心を掌握していくのだ。
　誰もがシャロンという国を知っている筈なのに、国王夫妻と数人の側近以外の人間は次第に彼の虜となっていく。
　然も彼の国へ嫁いだ女性の末路――――というものを知っているだけにライアーン王は首を縦に振る事は出来ない。
　そして困った事に何時しか王子だけでなく自国の臣下達もが何を血迷ったのか彼との婚約を薦めてくるのだ。
　そんな苦悩する夫を傍で見ていた王妃は今日も姫への求婚をしに訪ねて来たシャロンの王子に、優しげな言葉を選んで彼を諭さとすように説明したのだ。

　王族とは本人同士の想いだけでは結婚が出来ない事と、国同士での話し合いも必要である事等を彼女なりに幼い王子へわかりやすく説明した――――筈だった!?
　そう、確かに王妃が説明した時は少なくとも王子は『自分の想いだけではダメなのだね、王族とは自由が利かないものなのか、やっと巡り合えたというのに……』とやや落ち込んだ様子であったが、その1週間後にやっと帰国してくれた時には夫婦で抱き合って喜んだのも束の間――――。
　しかし世の中そう甘いものではなかったのだ。

　1か月後――――シャロン王より正式に婚約の申し入れの使者がやってきたのだ。
　然も第一王子は帰国して直ぐに立太子の礼を執り行い、王太子となった……という事は今現在エヴァンジェリンしかいないライアーンにとって彼女をシャロンへ差し出せば、それは紛まぎれもなくライアーンはシャロンの軍門に下るという事を暗に提示されていたのだ。
　そしてシャロンのモノとなるという事はエヴァンジェリンだけでなく全ての国民の命をも危険に晒さらしてしまう。
　流石にライアーン王は娘が愛しいのは当然でも、しかし国民を犠牲にする事等出来よう筈はなかったのだ。
　そして答えは訊きかれなくとも彼の中で既に決まっていた。

　この婚約は承諾出来ない――――と!!
　王として国民を護る事もさながら、1人の父親としてまだ何も分からない娘を地獄の穴の中へ差し出す等出来る筈がない!!
　だが執拗に迫るシャロンに王は苦悩するが、兎に角外交力で以もって何とかこの縁組をなかったものにしたのだが、姑息で卑怯なシャロンは望むモノが手に入らぬのであれば生かして誰かのモノになるよりもいっその事、彼女の息の根を止めてしまえと言わんばかりに、エヴァンジェリンが1歳になる頃より彼女の身は何度となく危機に晒される身となってしまった。

　またエヴァが狙われるきっかけともなった生誕 100日の祝賀にはまだ王太子であったラファエルも招かれていたのだ。
　父王の代理として――――また次代の王としてライアーンとの絆を深める為に……。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　そして彼は目立たない様にエヴァンジェリンの元へ通うシャロンの王子を見て胸糞悪い思いを抱いていた。
　だがその時のラファエルにはこの3人の出会いが自分の将来に大きく係わるとは考えに至らなかった。
　まぁ普通に考えてもそうだろう、まだ生まれて100日の赤ん坊を巡って自身の人生が大きく絡んでくる事等当時14歳の若いラファエルは思いもしなかったのだから……。