王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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第一部  第四章   現在

4  閑話  まったく油断も隙もない!!  アナベル視点

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「あっ、アナベルっっ!?」

 そう何時もの可愛らしいお声で呼んで下さるのは、この私が何を置いても大切だと思う存在――――私のエヴァ様。
 そして何故ここにこうしておられるのか……理由わけも全てわかっています。
 あぁそこの馬の骨……いえ、正体はわかっていますよ、何の為にエヴァ様の護衛が付いていると思っています?
 ちゃーんと私の耳にはエヴァ様の行動の全てを逐一ちくいち報告されているのです。
 そして私にとっては馬の骨と同様ですが、はルガート王国の重臣の1人であるルートレッジ侯爵、ジェフリー・トーマス・サザートンという男です。
 あの陛下の腰巾着……いえ、側近であるチャーリー卿がを光らせている人物とも言いますね。
 兎角色々な意味で噂の絶えないルートレッジ侯爵家は、何かとあの忌まわしいシャロンと深い関係のあるお家柄。
 私の大切な、命をしてもお守りしたいエヴァ様の心と身体を脅かすなんて許せないっっ!!
 そして今一番許せないのはなのですっっ!!

 大体ですね、あの先程の不埒者……アレだとて本来あの様に汚く穢れた者がエヴァ様にほんの少し触れるのも如何いかんともしがたかったのですが、それも態態わざわざ護衛の手まで止めて様子を見させたのは、エヴァ様の護身術がどの程度上達したのかを見極める為のモノであって、最終的には私がエヴァ様を颯爽と回収……いえお助けする目的であったのにっっ!!

 トンビに油揚げ――――とはまさにこの事でしたわっっ!!

 まさかあの様な場にあの男――――ルートレッジ侯爵がエヴァ様の前に白馬の王子様然としてしゃしゃり出てきたお陰でエヴァ様のあの様に蕩けたあのお表情かおっっ!?
 得体の知れない男の胸に大切なお身体を預けて如何どうするのですっ、エヴァ様っっ!!
 その男は……世の中男というモノは危険な存在なのですよっっ!!
 私はエヴァ様を見つめながら心の中で思いっきり悲鳴に近い状態で叫びましたけれども、どうにもエヴァ様には届いていない様子です。

「さぁ、お嬢さんお降ろし致しましょう」
「ええ、有難う御座います」

 そう言って侯爵は私がエヴァ様の家族と認識した様で、軽やかに馬から降りるとエヴァ様を馬上よりお降ろししようと貴公子然として、優雅な仕草でエヴァ様へ手を出すのです!!
 またエヴァ様も少し頬をあかくお染になり、それがまた可愛らしい事この上ない程にやんわりとはにかんだ御姿がまた愛らしく、自信なさ気に手をあのいわくつき侯爵へ差し出されるのですっっ!!

 ええ、ええ、変われるもの、出来る事ならば私がっ、この手でっ、エヴァ様をお降ろしして差し上げたかったですわっっ!!
 ですが物事には悲しいかな……というモノがあるのです。
 私もエヴァ様も女性の中でも小柄な方なのです、よって私はその甘甘あまあまピンク色オーラ全開の中で1人苛々と歯噛みしてじっと耐え忍んでいました!!
 その時の私の胸の内……いえ、はらわた煮えくり返ってあまりの熱さで内臓がけてしまいそうでしたわっっ。
 なのにっ、それでもエヴァ様は私のこの想いを気付かれる事もなく、暫くお互いを熱い視線で見つめ合われていたのです!!
 だからっ、ですから私は――――っっ!?

「……フィオ、もう暗くなります、そろそろ……」

 ついお邪魔虫をしてしまいました。」
 でもこれもそれも愛すべきエヴァ様の御身を護る為です。
 私は間違ってはおりませんものっっ!!
 シャロンによってエヴァ様の人生は大きく狂わされてしまったのです。
 そのシャロンに所縁ゆかりのある者を断じてエヴァ様へ近づけさせる事等到底私は容認出来ません。
 なのにお邪魔をしたというのに、それでもエヴァ様達は別れ難そうです。

「――――フィオ?」

 だから再度私はお声を掛けさせて頂きました。
 するとエヴァ様も流石にこれ以上は……と思われたのでしょう、一度私を見て――――!?

「あっ、あのっ、先程は誠にありがとう御座いましたっっ」

 お可愛らしい上に何やらつややかな女性らしさもかすかにまとわせながらエヴァ様は頬を更に朱く染めて侯爵へ礼を述べられました。
 すると侯爵は貴公子然と膝を折り跪いて優雅な仕草で――――えっ、エヴァ様の手へ素早くキスを落としたのですっっ!!

「お嬢さんはフィオ嬢とおっしゃられるのですね、実に可愛らしい御名前です」

 そう言ってエヴァ様にと言わんばかりに優しい笑みを向けてから軽やかに馬へと跨りましたわっっ。
 これでやっと立ち去るかと思いきや、今度はエヴァ様が侯爵の元へと近づかれるではありませんかっっ!?
 そして震える様にか細い御声で――――。

「あっ、貴方の、貴方様のお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「――――ジェフリー、ジェフリー・トーマス・サザートンと申します、フィオ嬢」
「ジェフリー様……ですね」
「ええ、フィオ嬢、もし貴女が宜しければジェフと呼んで下さいませんか?」

 宜しい訳ないでしょうっ、このすっとこどっこいっっ!!

「はい、ジェ……ジェフ様」

 そんな蕩ける様なお表情かおで呼ばないで下さい、エヴァ様っっ!!

「では、いずれまた……」

 如何どうでもいいですっ、さっさとこの場より立ち去って下さいっっ!!

「はい、ジェフ様……」

 あぁ、もうエヴァ様っ、しっかりなさって下さいっっ!!

 そうして私が傍でこれでもかと葛藤し悶絶している事約30分してからようやく侯爵は帰って行きました!!
 もう本当に身体に穴が開いてしまうかと真剣に思いましたわね。
 それから私はややふわふわされているエヴァ様を離宮へとお連れしました。
 夕食も入浴もエヴァ様は気もそぞろ状態で、あぁ今はご自身の寝室で休まれておられます。
 きっとまだエヴァ様は、エヴァ様が抱かなくてもよいお気持ちの正体を御存じありません。
 そして私も態態わざわざ言う心算つもりもありません。
 出来ればあの侯爵とはもうこれっきりにして欲しいのです。
 何がきっかけでシャロンに、またエヴァ様の御心がさいなまれるかわかりませんからね。
 それにしても今後の事もありますのでまた報告と対策を練らなくてはいけませんわね。
 立場上エヴァ様はこのルガートの王妃陛下なのです。
 臣下と恋に落ちる事は許されません。
 ですが……それもシャロンが片付くまでの事。
 全てが終わればエヴァ様を無事にライアーンへお連れ申し上げるのが私の役目。
 まぁその様な事、口が滑っても陛下達には申しませんけれども……ね。

 因みにエヴァ様が盗まれた1000ルトとエヴァ様の御鞄は、ちゃんと後続にいた護衛によって取り返したのは言うまでもありません。
 あぁそれとあの不埒者と言うゴミもしっかり落とし前はつけさせて頂きました。
 それにしてもあの様に治安の悪い所を何時までも改善出来ないとは、陛下の政治力を疑ってしまいますわね。
 まぁ私には如何でもいい事なのです。
 最愛のエヴァ様がお幸せになられる事だけが私の望みでもあるのですから……。

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