王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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第一部  第四章   現在

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 翌朝エヴァはアナベルより昨日の一件についてこってりと絞られた。
 危機管理意識が低すぎると……。
 言われるまでもなくエヴァは自身の立場や狙われている事実を思い出す。
 そう、マックスの所で働き始めてから毎日が楽しくて幸せな日々を送り過ぎていたのかもしれない。
 この3年間は今まで生きてきた中でとても幸せだったのだ、自身の置かれている現実より目を背けてしまう程に……。
 王族というしがらみも何もない一個人として自由でいられる素晴らしさに我を忘れてしまっていたエヴァは、恐らくこの国で誰よりも自分を心より心配し、そう今目の前で彼女を怒りつつもその澄んだ水色の瞳に薄っすらと涙を浮かばせているアナベルを見て、彼女は酷く猛省する。

「ごめんなさい、もうこれからはこんな無謀な行動はしないから、だからもう泣かないでアナベル」

 そう言ってエヴァはアナベルをそっと抱き締め、もう二度と大切な彼女を悲しませる様な行動はするまいとエヴァは固く誓った。
 一方エヴァ命の脳筋令嬢アナベルは心酔してやまないエヴァに抱き締められ、至福の時を味わうと共に形の良い唇は三日月の様に弧を描き、その左手に小指大くらいの小瓶が彼女に知られない様にしっかりと握りしめられていた

 勿論その小瓶の正体は――――!!
 
 そうですよ私の大切なエヴァ様、貴女を護る為でしたら私はどんなに姑息で卑怯だと言われようが手段は選びません。
 でも、この様子でしたらまだそのお美しいお心の中にあの馬の骨は存在を主張していないでしょう、いえ、ほんの一時でも存在する等この私が認めませんよ。
 ですからエヴァ様、このままどうかをお忘れ下さいませ……ですがっ、あぁ、今の私は何と幸せなのでしょう、あぁお願いですからエヴァ様、どうかもう暫くだけ私を抱きしめて下さいませっっ!!


 そんな残念な脳筋令嬢もとい脳筋侍女の雄叫びともとれる願いより早3ヶ月が経過した。
 あれからアナベルの監視はより一層厳しくなり、エヴァの勤務の日には必ず彼女が番犬宜しく診療所の前でエヴァを待ち、毎回一緒に買い物をして帰っている。
 勿論自分の勤務日にはフィオを一切外出はさせない。
 何か足りないものがあれば帰りにアナベルが超特急で買い物をし帰宅をし、当然護衛の警戒レベルもアナベルが言う前にラファエルの指示にて上げられた。
 ラファエルに出し抜かれた形となった事にアナベルは多少苛ついたのは言うまでもない。
 
 本当はあの夜フィオを、エヴァンジェリンを離宮に閉じ込めた方がより安全ではないかという意見もあった。
 元々なのだ。
 ラファエル自身もこれ以上あの煌めくエメラルドグリーンの瞳に自分以外の男をうつして欲しくはないと心の中では強く思っていたのだけれども、それは意外にもマックスではなくアナベルの一言によって封じられてしまった。

「エヴァ様が診療所で働く事を今の生甲斐とされています。もし何もお知らせもせず離宮へ押し込めてしまえばまた心の病が顔を出すかも知れません」

 それにはラファエルもそして後の2人もこれ以上強く押す事は出来なかった。
 特にマックスは何時も傍近くで彼女の生き生きとした表情かおを見ているのだ。
 そう、あの明るい表情かおより笑顔を消す事は誰にも出来ない……とはいってもこのまま何もしなければ彼女とルートレッジ侯爵を認めた事にもなりかねない。

 彼女にとって初恋?かもしれないが、ルートレッジ侯爵自身もイケメン眼鏡男子で将来有望なのにこれと言って婚約者もいまだおらず、浮いた噂の一つも聞かないのだ。
 仕事好きな文官として密かに令嬢達より人気はあるのだが、如何いかんせん本人に言わせると色恋より仕事の方が何百倍も楽しいと言っているらしい。
 だからこそラファエルもつい目を掛けてしまったのかもしれない。
 しかし現在は微妙な恋敵ライバル関係でもあるのだ。
 まぁ幾ら憎い恋敵だからと言って仕事を倍増するとかオーバーワーク等させたりはしない。
 ラファエルもそこまで子供ではない。
 幾らなんでも公私は別。
 ただ、彼を快く思っていないチャーリーは更に一層目を光らせているには間違いない。
 本当に裏でシャロンの馬鹿王太子アーロンと繋がっているのならば、ラファエルは勿論彼の王妃であるエヴァンジェリンにもその身に危険が及ぶのは想像に難くない。
 だが何時も証拠が掴めない。
 先王の一件やラファエルの襲撃にもルートレッジ侯爵が何か噛んでいるのは間違いないが、一応彼も由緒正しい侯爵家の当主でありこのルガート王国の重臣の1人でもあるのだ。

 彼を追い詰めるのには確実な証拠が何としても必要となる。

 この国を、ラファエルとエヴァンジェリンを護る為、チャーリーは例え憎まれ者になろうとも何かを仕掛けなければ、証拠を掴まなければ近い将来全てを脅かされる何かが起ころうとしているのではないかと思ってしまう。

 そう、手遅れになる前にこちらより仕掛けなければならない!!

 もうシャロンは事実上この大陸には存在しない。
 あるのはかつてのシャロン再興を願う亡霊のみ……。
 日の光に照らされているルガートには悪しき闇の住人である亡霊は必要ない。

 そう、我が命を懸けてでも大切な親友であり主君を護る為ならば……。
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