王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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第二部  第一章  新しい出会いと新たな嵐の予感

7  アイザック爆弾宣言???

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 そうして暫くの間皆と一緒にエヴァの焼いたクロワッサンと紅茶を堪能したアイザックは軽く溜息ためいきくと、魅惑的な彼の髪の色と同じ少し銀色交じりの焦げ茶色をした瞳をエヴァへ向ける。

「エヴァンジェリン様、私はこう見えましても私設の諜報機関を持っていましてね、その諜報機関の司令官トップが何を隠そうここにいるヨルムなのです」
「はい?」

 エヴァは最初アイザックが何を言わんとしているのかが全く分からなかった。
 そしてその様子をマックスは何も言わず隣で静かに耳を傾けていた。

「彼はね、執事としてとても有能な男なのですが間諜スパイとしては多分この国……いえきっと大陸でも右に出る者は恐らくまだいないでしょう。ですからね私はラファエル陛下よりも常に多くの情報を持っているのですよ」
「はあ……」

 エヴァは本当に彼が何を言いたいのかが分からない。
 そうこのルガートでのエヴァの立ち位置は今も昔も変わらず、なのだ。
 まあそれについてはもう理由も理解もエヴァ自身しっかりわかっているから問題はない。
 ただ現実にはエヴァの事を知っている者は殆どいない訳であり、きっと国中多くの者へ問いかけたとしても、きっと皆口を揃えて言うのだろう。

 ルガート王ラファエル我が王いまだ独身である――――と。

 それに関してはエヴァ自身特に気分を害している訳ではない。
 むしろ現時点ではラファエル達に感謝しているくらいなのだ。
 確かに一国の姫でありどの様な経緯であれ一旦王妃と迎えたのにも拘らず、この十年もの間寂れた離宮へ放り込まれたのだ。

 しかもその待遇は最悪と言ってもいいだろう。
 だが天然でポジティブな性格でもあるエヴァにしてみれば、どの様な形であれ、結果としてこの十年と言う時間は実に幸せだったのである。
 普通にライアーンの王女として生きていればきっと体験しなかったであろう素晴らしい日々は、エヴァの心の中で思い出と言う名の宝物なのだ。

 一人の人間として生きてきたそんなエヴァに与えられた僅かな自由と引き換えに、彼女が本来得ていたであろうルガート王妃としての権力や様々な力は当然ながら今のエヴァには――――ない。

 それだからこそエヴァにはアイザックの意図するものに皆目見当がつかない。
 何の力もない小娘へ一体アイザックは何を求めたいのか。
 またエヴァの目の前にいるアイザックは困惑するエヴァとは対照的にまるで小さな悪戯っ子が、自分の秘密を早く見つけて欲しくて欲しくて堪らないという体で、魅惑的な瞳をキラキラと輝かせているのである。

 しかし見つけて欲しいその秘密とは一体……エヴァは彼の放つ言葉の裏を何とか探ろうと試みるも、やはり答えは見つからない。

 でもエヴァは何処までも天然でポジティブなのだ。
 そう答えが全く分からないのであればもう少しアイザックの言葉へ耳を傾け、彼の秘密となるものをじっくり時間を掛けてでも探すまでの事。
 そうしてエヴァの相手の話を聞く姿勢にアイザックは、至極愉しげな様相で続きを話し始めた。
 勿論その様子をアナベルが歯噛みし、必死に理性と本能の間で葛藤をしているのは言うまでもない。


「ふふ、流石はエヴァンジェリン様ですね。ええ我がミドルトン公爵家は元々情報にけた家でしてね、その時々の情勢によってシャロンやルガート……たまにはその他の国へ情報を操作したり、または売ったりしたりと、兎に角我が家は実に変わった家なのですよ。そして今、私にとって最も関心があるのは――――」
「い、いい加減になさいませっ、エヴァ様は貴方の玩具では――――っっ!!」

 またしてもエヴァが狙われると察したアナベルは、心の葛藤を一旦中止すると同時にエヴァを庇う様にアイザックの会話に割って入ったのだが――――っっ!?

「私はね、に一番関心があるのですよ、アナベル・ルチアナ・ベイントン伯爵令嬢?」
「は、はいぃぃぃぃ――――っっ!?」

 何とも素っ頓狂なアナベルの声がマックスの自宅内いっぱい……いやきっと周辺の家々にも聞こえているだろう程の悲鳴にも似た叫び声と同時に、彼女の口より当然の事ながら暴言もしっかりと吐き出された。

「ふっ、ふざけるなあああぁぁぁ――――っっ!!」
「いやだなぁ、私は一度もふざけて等いませんよ。本当にアナベル嬢は愉快なお嬢さんだね。ね、そう思いませんかエヴァンジェリン様?」
「は、はあ……」

 そう笑い交じりに告げられるとたちまちヒステリー状態+般若と化したアナベルと、彼女の様子を見て心より愉しんでいるアイザックの両名をちらちらと視線を彷徨わせながらエヴァは何と言っていいものか思案に暮れつつ曖昧に返事をする。

 そしてマックスはと言えば「……」と彼もまた事の成り行きを、戦々恐々とした心持ちで見守っていた。
 何故ならこの状態へ安易に介入すれば、折角完治したばかりの身体にまたしてもアナベルの鉄拳を食らう事になりかねないからである。
 ――――とは言っても『本当に物好きだなぁ』とマックスは、アイザックに対して感心せざるを得なかったのは紛れもない事実であったりする。
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