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第二部 第一章 新しい出会いと新たな嵐の予感
13 アイザック、エヴァへ忠誠を誓う Ⅳ
しおりを挟むそれは今より三十年前もの昔へと遡る実際に起こった過去の出来事であり、またアイザックにしてみればこれは決して楽しい話ではなく、彼の身に降りかかった辛く悲しい悲劇だったのである。
事の始まりはアイザックがまだ16歳の頃に一人の少女と出逢い、彼にとって生まれて初めて真剣に恋をした相手でもあった。
だが当時のルガートは戦乱の時でもあり、愛し合う恋人達は戦によって引き離されてしまう事となる。
そして見事初陣を果たし意気揚々と凱旋をしたアイザックの元に届いた知らせは、愛する少女の失踪であったがしかし……不幸の連鎖はそれで終わる事はなかったのだ。
当然アイザックは失踪した少女の屋敷へと、疲れた身体に鞭を打ちつつ訪れれば、そこは誰もいないあばら屋敷となり果て、いやその屋敷内にはたった一人だけ存在していた。
その存在とはアイザックの良く見知った人物……少女の父親であったのだが、彼に発見されるまでにかなり時間を経過しただろう、哀れな躯と化したままその身を晒していたのだ。
その次に知った事は少女の叔父である伯爵が外患誘致の疑いを掛けられ、当時の宰相でもあり少女の実の祖父の手により、つまりは実の父の手によって伯爵は裁判に掛けられる事もなく死に至らしめられていた。
王命でもなく宰相の独断で――――だっっ!!
一体何が起こっているのか全く理解が追い付かない状態であるのにも拘わらず、愛しい少女を忘れられる事の出来ないアイザックは、少女とそして行方不明となっている女性達を己が身の寝食を忘れる程までに探し続けた。
宛てもなく時間ばかりが空しく経過していく中でアイザックの精神と共に肉体的に疲れ果てているところへ、少女の従姉妹でもあり彼の幼馴染である娘は、何故か必要以上に彼へと執着を示しそして彼の妻になろうと何が何でも彼の気を惹こうと躍起になるが、それは返って彼にとってその娘の存在は次第に煩わしいものへと変わっていく。
そうして愛しい少女を求めて十年の歳月が流れた頃――――東の蒼弓国にある奴隷商人にどうやら買われたらしいと、探りを入れたヨルムが漸く少女を発見しそのまま極秘裏に保護したのだが、少女が味わったこの十年という長い時間は恐らく女性……いや、人間としても最低限の扱いと惨たらしく薬漬けにされその身体は既に廃人同様と化し、アイザックと再会した時には少女の命の灯火が消えようとする瞬間でもあった。
しかし奇跡は起こったのだ。
既に意識のない状態であった少女は最期の最後でほんの僅かな時間だけ意識を取り戻し、恋い慕うアイザックと最期の言葉を交わす事が出来たのである。
愛する少女の死への悲しみに押し潰されそうなアイザックを悲しみの底より奮い立たせたのは、やはり彼の愛した少女の存在だった。
少女が失踪したであろう十年前――――彼女は表の世界から裏の世界へ、血の繋がった祖父と従姉妹によって地獄へと貶められた。
何よりも自分勝手で歪んだ愛情しか抱く事の出来ない二人によって、少女とそして少女の両親、そして叔父夫婦らに仕えていただろう侍女等数え上げれはきっとキリがないくらい多くの人間が、二人の人間のエゴによって闇の世界へと貶められたのだ。
そう、その中にはアイザックの父親も、彼らとシャロンの手に掛かり毒殺されてしまった。
気が遠くなりそうなくらいの怒りと悲しみの中でアイザックとヨルムの二人は、シャロンと全く係わりのないミドルトン家独自の諜報機関を作り上げていく。
そう二人が諜報機関を造り上げる目的は復讐の為。
お互いに愛する者、尊敬していた者達を一方的に、そして理不尽な形で奪われたが故にどちらともなく選んだ結果でもあった。
そうして時間を掛けて信頼の出来る創設した諜報機関を使い、密やかに彼らへ知られない様に証拠を掻き集め、遂には時の宰相とその一族郎党を処断する事が出来たがしかし、それはあくまでもシャロンの闇のごく一部でしかない事を改めて思い知らされた結果でもあった。
そうこの話は彼個人の悲恋話だけでなく、ルガート王国とシャロン王国の力関係、そして今尚根っこの部分で両国は繋がっているという事実。
表向き――――二年前にシャロンと言う国はラファエル率いるルガート王国が滅亡へと追い込んだのだがっ、彼の国は闇魔法に長けた王国と言うだけではなく、麻薬や人身売買……悪と名のつくありとあらゆる悪事を今も現在進行形で行っているのだ!!
だから『シャロン』と言う国こそ地図上では存在はしないが、一度闇へ潜れば闇社会での『シャロン』は今も健在なのである。
そして今そのシャロンの頂点にいるのが元王太子のアーロンなのだっっ!!
流石に三十年前にアイザックの恋人を闇へ貶めたのは彼ではないが、しかしアイザックの長年に渡る調査で分かった事は当時『神童』と持て囃されていたアーロンは、彼が5歳になった頃よりどうやら既に闇社会へと介入していたらしい。
最初は周りの大人達も特に気にも留めていなかったようなのだが、アーロンはまるで玩具の積み木をうず高く積んでは思いっきり派手に、そう積み上げた物を叩き壊す様に、実に愉しく駒となる人間を操っては何人も殺していたと言う。
そう、時の宰相と言う駒をシャロンが切り捨てたのも、実際にアーロンの放った言葉であったという。
『飽きたからもう……要らないよ』
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