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番外編
番外編 アイザックの苦い過去 10
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アイザックの様子が可笑しいと彼と共に男爵邸へ来ていた従僕は彼を追いかけ男爵の腐乱した遺体とその近くで蹲っている主を見つけた。
彼の機転でアイザックは近くの宿屋へ連れて行きそして直ぐにアイザックの父であるミドルトン公爵へ連絡をしたのだ。
その従僕とはヨルムである。
20代後半の若々しい彼は元はと言えばシャロンの間者だったのだ。
10代の頃ミドルトン公爵暗殺の為邸宅へ忍び込み、結果失敗し自決を試みたが公爵に阻まれ敢え無く失敗し最初こそは荒れもしたが徐々に公爵へ心を開きまた間者としての腕を見込まれ次代の公爵の執事になるべくアイザックが10歳の頃より従僕として付いていたのである。
勿論シャロン側に彼が生きている事を知られる訳にはいかない。
だから公爵は彼に新しい名前と戸籍を用意し顔も全くの別人へと整形したのだ。
何も美形にしなくとも……。
何十年経った今でも彼は思い出した様に愚痴っている。
そんなヨルムに公爵は『どうせ別人として生まれ変わるのならしみったれた不幸そのものの顔ではなく、如何にも人生を楽しく謳歌するくらい美形に生まれ変わるといい。ヨルム、木は森の中に隠せだよ。だから表の世界に相応しく生まれ変わるといい』と大らかに笑って言ってはいたがヨルムにすれば生まれ変わった自身を見てよく思ったものだった。
木は森の中に隠せ――――目立つ大樹はどの様に隠せば宜しいのでしょうか……と。
話は戻りヨルムの機転で連絡を受けた公爵はショックを隠しきれない息子を連れて公爵家へと転移魔法で帰宅した。
実は公爵もまた宰相であるマリス侯爵の策で戦場にいたのだ。
だからまだ国内の事情がしっかり把握出来てはいない。
しかし事の次第を聞くとまだ何か不安が拭えず部下に命じ男爵家と関係のあるへフリー伯爵家の事を調べさせた。
すると思わぬ結果を公爵とアイザックへ齎されたのだ。
へフリー伯爵家の取り潰し――――。
それは4ヶ月前、彼らが戦場へ赴いて暫くしての事だった。
へフリー伯爵は敵対国家とされるシャロンと密約を結びどうやら外患誘致を図ったらしい。
外患誘致――――。
外国と通謀し自国に対して武力を行使させたり、また自国に対して外国から武力行使があった時に相手に加担をする等軍事上相手国へあらゆる利益を与える犯罪なのだ。
その外患誘致をへフリー伯爵はシャロンと行っていたというのだ。
外患誘致は敵へ自国を売る売国行為なのだ。
罪が明らかになれば即処刑は当たり前というくらいの重罪なのである。
だから疑いを持たれるだけでも厄介なのだ。
然も証拠等が見つかれば……。
だから4ヶ月前その罪が明らかになった瞬間――――つまり証拠が見つかったという事でもある。
王が不在のまま宰相の指示で伯爵へ騎士達が大挙して押しかけた時にはへフリー伯爵は妻を逃がして自身は執務室にて服毒し自害して果てていたという事であった。
証拠もあり本人が自害していると言う事は罪を認めているも同然だと判断され、へフリー伯爵家は爵位剥奪し家名断絶、そして領地没収という重罪を課せられた。
宰相にとってへフリー伯爵は実の子供では?という同情の声も上がったらしいが、『宰相だからこそ一個人の感情を捨て肉親の情よりも国益の為に如何あるべきかを行動として示さなければならない』と述べ、へフリー伯爵の断罪だけではなくマリス侯爵自身も親の監督不行き届きだといい領地の一部を国へ返還したとの事だった。
そうした中でも今回の男爵家の事件はへフリー伯爵と懇意にしていたという事よりシーウェル男爵もきっと何かしら共犯だったのだろうと、それ故に仲間割れをして殺害されたとの見方が大筋であった。
勿論シーウェル男爵家も爵位剥奪の上家名断絶と領地没収とされたのは言うまでもない。
16歳のアイザックにはどうしようもなかった。
外患誘致罪等あってはならない事なのだ。
そして彼の父親であるミドルトン公爵でさえ名門とはいえど迂闊には動けないのだ。
今やアイザックと付き合っていたクラウディアは重罪人の娘というレッテルを押されたのだ。
単なる窃盗等軽い罪ではない。
国を裏切る行為なのだ。
ミドルトン公爵家がどんなに力を持っていようとも下手に首を突っ込めば藪蛇となり、虎視眈々と狙っている者達によりあらぬ冤罪を掛けられてしまう可能性が高いのだ。
当然アイザックは父にへフリー伯爵もシーウェル男爵も無罪だと訴えた。
その事はミドルトン公爵も薄々感づいてはいたのだが今はどう足掻いても国王の前に父親である宰相が証拠を差し出しているのだ。
身内より提出された証拠なのだ。
重要視される事はあってもそれが捏造だと誰が信じると言うのだ。
実の父親が愛する息子を守りたい気持ちを捨てて愛する国の為に苦渋の決断をして証拠を提出した哀れな父親……。
今のマリス侯爵に対する世論の考えなのだ。
そんな中で彼らの冤罪を主張するのは自殺行為だ。
然もこちらには確たる証拠等1つもない。
断然不利……なのだ。
だからミドルトン公爵はアイザックへ今は辛くとも動くなと何度も諭すが、へフリー伯爵やシーウェル男爵はそうかもしれない。
何故ならもうこの世の者ではないからだ。
世論も落ち着き宰相の捏造した証拠とは別の真実を探す事も待つ事は出来る――――だが、彼の愛するクラウディを含め女性達は一体何処へ消えてしまったのだ???
彼女達の行方だけは国内で総力を挙げて捜索したが誰もその姿を目撃した者はいない。
そう、髪の毛1本に至るまで彼女達の行方はその場で蒸発したかのように綺麗さっぱりと消えてしまったのだ。
勿論アイザックはヨルムを伴って身を窶して探せるだけ思いつく場所や国内を徹底的に探したのだが、彼の愛する者の存在は様として知る事が出来なかった。
彼の機転でアイザックは近くの宿屋へ連れて行きそして直ぐにアイザックの父であるミドルトン公爵へ連絡をしたのだ。
その従僕とはヨルムである。
20代後半の若々しい彼は元はと言えばシャロンの間者だったのだ。
10代の頃ミドルトン公爵暗殺の為邸宅へ忍び込み、結果失敗し自決を試みたが公爵に阻まれ敢え無く失敗し最初こそは荒れもしたが徐々に公爵へ心を開きまた間者としての腕を見込まれ次代の公爵の執事になるべくアイザックが10歳の頃より従僕として付いていたのである。
勿論シャロン側に彼が生きている事を知られる訳にはいかない。
だから公爵は彼に新しい名前と戸籍を用意し顔も全くの別人へと整形したのだ。
何も美形にしなくとも……。
何十年経った今でも彼は思い出した様に愚痴っている。
そんなヨルムに公爵は『どうせ別人として生まれ変わるのならしみったれた不幸そのものの顔ではなく、如何にも人生を楽しく謳歌するくらい美形に生まれ変わるといい。ヨルム、木は森の中に隠せだよ。だから表の世界に相応しく生まれ変わるといい』と大らかに笑って言ってはいたがヨルムにすれば生まれ変わった自身を見てよく思ったものだった。
木は森の中に隠せ――――目立つ大樹はどの様に隠せば宜しいのでしょうか……と。
話は戻りヨルムの機転で連絡を受けた公爵はショックを隠しきれない息子を連れて公爵家へと転移魔法で帰宅した。
実は公爵もまた宰相であるマリス侯爵の策で戦場にいたのだ。
だからまだ国内の事情がしっかり把握出来てはいない。
しかし事の次第を聞くとまだ何か不安が拭えず部下に命じ男爵家と関係のあるへフリー伯爵家の事を調べさせた。
すると思わぬ結果を公爵とアイザックへ齎されたのだ。
へフリー伯爵家の取り潰し――――。
それは4ヶ月前、彼らが戦場へ赴いて暫くしての事だった。
へフリー伯爵は敵対国家とされるシャロンと密約を結びどうやら外患誘致を図ったらしい。
外患誘致――――。
外国と通謀し自国に対して武力を行使させたり、また自国に対して外国から武力行使があった時に相手に加担をする等軍事上相手国へあらゆる利益を与える犯罪なのだ。
その外患誘致をへフリー伯爵はシャロンと行っていたというのだ。
外患誘致は敵へ自国を売る売国行為なのだ。
罪が明らかになれば即処刑は当たり前というくらいの重罪なのである。
だから疑いを持たれるだけでも厄介なのだ。
然も証拠等が見つかれば……。
だから4ヶ月前その罪が明らかになった瞬間――――つまり証拠が見つかったという事でもある。
王が不在のまま宰相の指示で伯爵へ騎士達が大挙して押しかけた時にはへフリー伯爵は妻を逃がして自身は執務室にて服毒し自害して果てていたという事であった。
証拠もあり本人が自害していると言う事は罪を認めているも同然だと判断され、へフリー伯爵家は爵位剥奪し家名断絶、そして領地没収という重罪を課せられた。
宰相にとってへフリー伯爵は実の子供では?という同情の声も上がったらしいが、『宰相だからこそ一個人の感情を捨て肉親の情よりも国益の為に如何あるべきかを行動として示さなければならない』と述べ、へフリー伯爵の断罪だけではなくマリス侯爵自身も親の監督不行き届きだといい領地の一部を国へ返還したとの事だった。
そうした中でも今回の男爵家の事件はへフリー伯爵と懇意にしていたという事よりシーウェル男爵もきっと何かしら共犯だったのだろうと、それ故に仲間割れをして殺害されたとの見方が大筋であった。
勿論シーウェル男爵家も爵位剥奪の上家名断絶と領地没収とされたのは言うまでもない。
16歳のアイザックにはどうしようもなかった。
外患誘致罪等あってはならない事なのだ。
そして彼の父親であるミドルトン公爵でさえ名門とはいえど迂闊には動けないのだ。
今やアイザックと付き合っていたクラウディアは重罪人の娘というレッテルを押されたのだ。
単なる窃盗等軽い罪ではない。
国を裏切る行為なのだ。
ミドルトン公爵家がどんなに力を持っていようとも下手に首を突っ込めば藪蛇となり、虎視眈々と狙っている者達によりあらぬ冤罪を掛けられてしまう可能性が高いのだ。
当然アイザックは父にへフリー伯爵もシーウェル男爵も無罪だと訴えた。
その事はミドルトン公爵も薄々感づいてはいたのだが今はどう足掻いても国王の前に父親である宰相が証拠を差し出しているのだ。
身内より提出された証拠なのだ。
重要視される事はあってもそれが捏造だと誰が信じると言うのだ。
実の父親が愛する息子を守りたい気持ちを捨てて愛する国の為に苦渋の決断をして証拠を提出した哀れな父親……。
今のマリス侯爵に対する世論の考えなのだ。
そんな中で彼らの冤罪を主張するのは自殺行為だ。
然もこちらには確たる証拠等1つもない。
断然不利……なのだ。
だからミドルトン公爵はアイザックへ今は辛くとも動くなと何度も諭すが、へフリー伯爵やシーウェル男爵はそうかもしれない。
何故ならもうこの世の者ではないからだ。
世論も落ち着き宰相の捏造した証拠とは別の真実を探す事も待つ事は出来る――――だが、彼の愛するクラウディを含め女性達は一体何処へ消えてしまったのだ???
彼女達の行方だけは国内で総力を挙げて捜索したが誰もその姿を目撃した者はいない。
そう、髪の毛1本に至るまで彼女達の行方はその場で蒸発したかのように綺麗さっぱりと消えてしまったのだ。
勿論アイザックはヨルムを伴って身を窶して探せるだけ思いつく場所や国内を徹底的に探したのだが、彼の愛する者の存在は様として知る事が出来なかった。
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