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第二章 ただ今契約履行中
3 傲岸不遜な令嬢エロイーズの登場
しおりを挟む「初めまして……で宜しいかしら。私は宰相アッカーソン公爵が娘、エロイーズ・コンスタンティア・アッカーソンと申しますわ」
そう告げると聖女である茉莉花へ儀礼的にもカーテシーをする事もなく、ギラギラと挑戦的且つ高圧的な笑みを湛えたまま、茉莉花を上から下まで舐め回す様な不躾極まりのない視線でエロイーズは見つめ……いや、しっかりと睨みつけていた。
エロイーズ・コンスタンティア・アッカーソン公爵令嬢。
淡いコバルトグリーンの髪に赤みがかったのオレンジ色であるリオ・トマトの瞳を持ち、全身より自信に満ち溢れた美しい顔立ちの令嬢。
この世のあらゆるモノが彼女の下に平伏す……これは至極当然であり、そして下位の者を従える事を許された者なのだと言わんばかりに、それは彼女より発されるオーラがありありと物語っていた。
しかし一体何処からそんな自信が湧いてくるのか……と、茉莉花は初対面にも拘らず思いっきり突っ込みを入れたい衝動を何とか抑えると共に深く嘆息する。
そう、そのくらいエロイーズと言う女性は傲岸不遜な令嬢。
まぁそれは彼女の気性も然る事ながら、その出自によるものがかなり大きいとも言える。
「はあ、私は佐倉 茉莉花です」
「くすっ、マイカ……様ね。お噂は耳にしておりますのよ、此度の聖女様は大層平凡な御方……だとか。私、こう見えましてもあまり噂は信じませんが、でも今回の噂は如何やら的を射ていたようですわね」
エロイーズは厭らしく侮蔑を含ませた視線のまま、茉莉花を見下す様に嘲笑う様に言う。
そして茉莉花には如何して初対面の人間に、これ程までに負の感情をあからさまにしてまで言われなければならないのかが皆目見当がつかない。
そう、わかるのは明らかに茉莉花の神経を確実に逆撫でしている。
まるで茉莉花を憎くて仕方ないとでも言う様に……。
「アッカーソン公爵令嬢っ、失礼にも程があります!! 茉莉花様は陛下が召還なされたこの世界にとってなくてはならない尊い聖女様です。尊き聖女であられる茉莉花様はこの世界において陛下と同等の地位にある御方、その御方に対して余りにも無礼でありましょうっっ」
何とも言えない空気へとなりつつあった二人の間に割って入ったのは、茉莉花の後ろで控えていたジョージーだった。
本来ならば中間管理職くらいの立ち位置である伯爵令嬢の彼女にしてみれば、高位貴族と聖女の諍い?に口を挟む事は断じて許されない。
それがまだこの世界に召喚されたばかりの茉莉花を庇う為だと言ってもその相手が最悪だ。
エロイーズは今をときめく宰相の娘。
ランズウィック内では今迄彼女より高位な女性は存在しなかった。
いやヴァルの母である王太后が存在したのだが、病弱故に郊外の離宮で長期静養中である為、実質存在していないと言ってもいい。
またそれをいい事にエロイーズの態度は実に女王然としていたのだ。
宰相の息の掛かった高位貴族は兎も角、腹の中で宰相を善しと思わない者からすればエロイーズの態度は実に不快にしか思えないが、誰も決して表情には毛程にも出さない。
国王であるヴァルでさえ彼らの傀儡となっているのだ。
一介の貴族がそんな化け物の様な彼らに歯向かえば、結果は火を見るより明らか。
その所為で気骨のある貴族達が何人この世より葬られてきた事か。
だからこそ今エロイーズに歯向かったジョージーよりも下位貴族の令嬢であるドロシーは、身体をガタガタを大きく震わせ、事の成り行きを恐れ戦いているしかない。
元来ジョージーは姉御肌気質で群れを嫌い、一匹狼の様な女性である。
それは皆で仲良く、噂や誹謗中傷の溜まり場でもある茶話会には、殆どと言っていい程参加はしない。
本当に形程度の付き合いだけ。
然も参加する際は確実に相手を選んでいる。
まかり間違っても誹謗中傷の胸焼けがしそうな見苦しい所ではなく、純粋にお茶を楽しむ為だけに参加をしていた。
そんな所でもエロイーズ親子とその一派の話は何時も話題に上っていた。
何時だったかそんな彼らに楯を突き、何処かの家は事実上抹殺されたらしい……と。
そう、彼らは合法的にそして大胆な方法で、逆らった家を次々と潰していく。
そうして最後に男は強制労働へ、女達は……美しければ裏社会で売られ、そうでない者は下女となっている等と実しやかな噂と言う真実。
あらら、ついついやってしまった……とジョージーは、バツの悪い表情をして見せるも、時既に遅し。
自身より下位の伯爵令嬢であり、然も宮殿に伺候している侍女と言う身分でありながら、身の程を弁えず口を挟む愚か者に対して、エロイーズが断じて見逃す筈はない!!
その様子にドロシーが恐怖で打ち震えているのに対し、明らかにエロイーズは身の内より溢れ出す怒りで全身をわなわなと震わせていたそして――――。
「お、お前如きがこの私に意見すると言うのっっ!! ゆ……許さない、絶対に許さないっっ。お前等に私を――――っっ!!」
バシッ、ビシっ、バシっ!!
茉莉花とドロシーの前でエロイーズは握っていた扇で、ジョージーの手や頬を何度も何度も打ち据える。
茉莉花も最初こそは成り行きが把握出来ずただ静観していたのだが、流石に目の前でジョージーを、然も彼女は自身の為に自ら割り込んできたのだ。
そんなジョージーを到底見捨てられる訳がない。
譬えそうでなくともこんな謂れなき暴力を見逃す事なんて、茉莉花には出来よう筈もなかったのだから――――。
「止めて下さいっっ!! 何故ジョージーに暴力を振るうのです!! そもそも貴女が私に対して失礼な物言いをしたからであって、それをジョージーが止めてくれただけの事。非があるのはジョージーではなく貴女でしょう、えーとまぁいいわ(何とかの)公爵令嬢っっ」
茉莉花はジョージーとエロイーズの前に割って入り、そして彼女へ強い口調で注意をする。
ジョージーに謝罪しろと……。
「せ、聖女様……」
「ごめんなさいジョージー、こんなに赤くなってしまって……」
打たれる前に飛び出せばよかった……。
そうして茉莉花はジョージーの打ち据えられた手と頬へ自身の手を添えて謝罪する。
それからエロイーズへと振り向き、彼女にも謝罪を要求した。
何故なら許されぬ事をすれば謝罪するのは当然の事。
それは茉莉花のいた世界の常識。
茉莉花の世界でもそれが出来ない人間は少なからず存在はするが、だがそうだからと言ってやってしまった事を全くなかった事に何て出来はしない。
譬え何処か遠くの世界へと連れてこられようとも、茉莉花にとって世界の常識の違い等関係はないのだ。
そう、茉莉花は悪いと思えば、それを口に出来る意思の強い性格なのだ。
普段のほんわかとした茉莉花からは想像だに出来ないが、一度怒ると相手が謝るまで問い詰めるのが――――茉莉花である。
「さぁ謝って下さい。ちゃんと謝るまで決してこの場より逃がしませんよ!!」
「な、ななな、なんですってっ、この私に下位の者へ謝れだなんてよ、よくも〰〰〰〰っっ!!」
そう言われて更に逆上したエロイーズは今度はジョージーではなく、茉莉花へとその扇を勢い良く振り下ろすっっ。
「「茉莉花様っっ!?」」
ジョージーとドロシーは一斉に叫んだ。
そうして見たのは、一瞬眩く茉莉花の身体より神々しい光が放たれたと同時に、扇を振り下ろした筈のエロイーズの姿が何故か忽然と消えたのだった。
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