アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜

文字の大きさ
84 / 101
【最終章】ダイヤモンドの消失。

しおりを挟む
(調査チーム『レオンハルト&オリオン』)

「リオと一緒に聞き込みってのは、中々新鮮だよな!」
「確かに。髪色はちゃんと誤魔化していますけど……双子というだけで目立つ気がします」
「あー、声をかけると何と無く皆挙動不審になるよな……特に女」
「女性達の反応はまた別問題だと思いますが……」

 付かず離れずの距離で、目立たぬよう気配を殺した護衛騎士達を引き連れ、兄と共に町を練り歩く。
 この半年、聖女に託つけて父上からの自由行動のお許しを得てからは、お忍びでの外出も板についたものだ。

「まあ、ただでさえこのダイヤモンド侯爵領は余所者への警戒心が高いので、気を付けないといけませんね」
「おう……そうだな」

 会話が途切れる。どこか上の空の兄の様子に、おおよその原因の目星をつけては、肩を竦める。
 互いに出発前に令嬢達と会瀬をしていたのは知っているが、その話題を口にすることはなかった。

 それでも彼は分かりやすい。ステラ嬢との間に、何かあったのだろう。
 良く言えば真っ直ぐ、悪く言えば駆け引き下手。
 そんな彼が、あの聖女と対等に渡り合えたとも思えない。きっとまた振り回されているのだろうと考えては、思わず苦笑が漏れる。

 未来のこの国の太陽。
 そんな重圧をものともせず、だからと言って皇太子という立場を笠に着ることもなく、ただひたすら真っ直ぐに、強く伸びやかに生きる兄。

 そんな兄を、これからも支えていきたい。
 彼の行く手に邪魔が入ろうものなら、彼に知られぬ内に全力で排除する。
 常々そう考えながら第二皇子として生きてきたけれど、さすがに初めての恋を邪魔するほど野暮ではない。

 ステラ嬢の伯爵家という家柄が枷となるなら、ヘリオドール家に身分を与えるでも、彼女にどこかの侯爵や公爵の家に養子に入って貰うでも、皇族権限でどうにでもなる。

 あの万人を虜にする美貌、民から慕われる人柄、そして魔力の扱いに長けた『聖女』ならば、皇太子の妃候補に申し分ないのである。

 一筋縄ではいかない彼女ではあるけれど、簡単に靡くような女性なら、ここまで彼も惚れ込まなかっただろう。
 手に入らないからこそ、より欲しくなるものだ。

「まあ、もしも手に入れられたのなら、離すつもりも更々ないですけど」
「……? 何か言ったか?」
「いえ、お互い、苦労しますね」
「……?? 何が?」
「……おや、何かあったんでしょうか」
「無視すんな!?」

 気を取り直して調査のための聞き込みを再開しようと辺りを見回すと、不意に向こうの通りが騒がしいのに気付く。
 近付いてみると、一人の女性が泣き叫んでいるのが見えた。
 地べたに座り込み、人目を憚らず大声を上げている。只事では無さそうだと、兄と頷き合い女性へと駆け寄る。

「レディ、どうされたのですか?」
「娘が……娘が消えたんです!」
「消えた……? 失礼ですが、いつ頃かは分かりますか?」
「ついさっきよ! 買い物で少し目を離した隙に……。どこに行ったの、レイチェル……!」
「これは……」
「もしかして……?」

 彼女には消えた時間の認識も、消えた人物の記憶もあるようだ。
 これも一連の『消失』事件の一部なのだろうか。だとすれば、他の朧気な証言よりも明確な手掛かりになる可能性がある。
 僕達はその女性から、詳しい話を聞くことにした。


*******

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...