89 / 101
【最終章】ダイヤモンドの消失。
21
しおりを挟む
「ここですね……」
「ここに、ステラが?」
オリオン殿下の魔法から居場所を特定し辿り着いたのは、町の外れ、ちょうど国境付近に位置する廃墟のような建物だった。
廃墟というのは、昼間でもちょっと怖い。夜だと立派な心霊スポットになりそうだ。
思わずリヒトにしがみつけば、大丈夫だと力強く頷いてくれる。確かに彼にかかれば幽霊だって斬れそうだ。
不意に呻き声のようなものが聞こえて、思わずびくりと肩を震わせる。
恐る恐る廃墟に近付くと、門番であろう装備をした屈強な男達が地面に転がっていた。
「!?」
「これは……」
「お嬢様は危険なので近付かないように……俺が見て来ます、殿下もお下がり下さい」
リヒトは市街地では目立たぬようにと楽器ケースに隠していた剣を抜き、建物に入っていく。
わたし達は皇室騎士達の背に守られる形で、近付けるギリギリから薄暗い中を覗き込んだ。
足音が響き、奥から、リヒトの声がした。
「……旦那様!?」
「えっ。お父様が、中に……?」
「モルガナイト公爵が?」
「近くにと居ないと思ったら、先に辿り着いていたとは……」
「孤軍奮闘ってやつ?」
「……猪突猛進でしょうか」
わたし達は、少数の騎士達に守られながら奥へと進む。残りの騎士達は見張りとして廃墟の周りを固め万が一に備えていた。
わたし達も彼等と外で待つように散々説得されたけれど、父もステラも中に居るのだ、ここまで来て待っているだけなんて無理だった。
奥に進むと、途中幾人もの男達が呻いて転がっているのが見えた。
これら全てお父様がやったのだろうか。単独でこれだけの敵を相手にして、誰一人死んではいない。
「旦那様、どうやってこちらに……? 住民からは何の情報も得られなかったと騎士達が申しておりましたが……」
「なあに、話さないのなら、口を割らせるまでさ」
「……さっすが。帝国の剣、モルガナイト公爵」
お父様は戦争の英雄。
話には聞いていたけれど、実際にその片鱗を見たのは、初めてだった。わたしの前ではいつだって、優しいお父様だったのだ。
彼はわたしの姿を見た途端、いつものように表情を緩めて、困ったように笑った。
「……どうやらここは、人身売買の拠点らしくてな」
「人身売買、ですか!?」
「ああ、ここは丁度国境だ。隣国に女子供を売り捌いて、奴隷にでもしているんだろう」
「そんな……」
「何も話さなかったってことは、町ぐるみでこいつらと癒着してるってことかよ……」
「拐われるのは必ず住民ではなく余所者。皆は余所者を警戒していた……利害の一致なんだろうな」
かつての敵国に奴隷を送り、その見返りに金銭を得て、更に利があると示すことで町の安全を保障して貰う。
既に両国の間で平和条約が結ばれているのに、先の大戦で真っ先に攻め入られた土地では、そんな条約信用出来ないのだろうか。
勝利国ではあるけれど、この地域は侵略された記憶が根強いのだろう。怨み合うより余程良いのかもしれないけれど、何とも歪んだ取引だ。
父達は苦々しそうに呟きながら、次々襲ってくる男達を薙ぎ払う。
フレイア様も両国の板挟みの心境なのか、話を聞いて複雑そうだ。
わたし達は壁際に身を寄せて、安全圏から騎士達の戦いを見守ってはいるけれど、どうにも落ち着かない。
ステラもこのままでは、奴隷にされてしまうのかもしれない。
今も酷い目にあっているのではないか、怪我をしているのではないか。
同じように落ち着かないレオンハルト殿下に目配せしては、そっと抜け出して奥へと進もうとしたけれど、戦闘モードの父にすぐに気付かれる。
いつもより感覚が研ぎ澄まされているのだろう。彼の瞳は、かつての英雄を憑依させたように、鋭く光っている。
「ミア、危ないから戻りなさい!」
「でも……ステラは、わたしが迎えに行かないと!」
あの日、ステラと今世で再会して、すぐにお母さんだと気付けなかった。
あんなに会いたかったはずなのに、泣いてしまってほとんど言葉にならなかった。
あの時、どれだけ嬉しかったか。会えてどれだけ安心したか。
昨夜の話をお父様から聞かされた時、ステラがどれだけ思い詰めているか気付かされた。
今度こそわたしが、この暗闇に囚われたステラを見付けるのだ。安心してって、抱き締めるのだ。
皆の静止を振り払い、わたしはステラを探して走り出した。
*******
「ここに、ステラが?」
オリオン殿下の魔法から居場所を特定し辿り着いたのは、町の外れ、ちょうど国境付近に位置する廃墟のような建物だった。
廃墟というのは、昼間でもちょっと怖い。夜だと立派な心霊スポットになりそうだ。
思わずリヒトにしがみつけば、大丈夫だと力強く頷いてくれる。確かに彼にかかれば幽霊だって斬れそうだ。
不意に呻き声のようなものが聞こえて、思わずびくりと肩を震わせる。
恐る恐る廃墟に近付くと、門番であろう装備をした屈強な男達が地面に転がっていた。
「!?」
「これは……」
「お嬢様は危険なので近付かないように……俺が見て来ます、殿下もお下がり下さい」
リヒトは市街地では目立たぬようにと楽器ケースに隠していた剣を抜き、建物に入っていく。
わたし達は皇室騎士達の背に守られる形で、近付けるギリギリから薄暗い中を覗き込んだ。
足音が響き、奥から、リヒトの声がした。
「……旦那様!?」
「えっ。お父様が、中に……?」
「モルガナイト公爵が?」
「近くにと居ないと思ったら、先に辿り着いていたとは……」
「孤軍奮闘ってやつ?」
「……猪突猛進でしょうか」
わたし達は、少数の騎士達に守られながら奥へと進む。残りの騎士達は見張りとして廃墟の周りを固め万が一に備えていた。
わたし達も彼等と外で待つように散々説得されたけれど、父もステラも中に居るのだ、ここまで来て待っているだけなんて無理だった。
奥に進むと、途中幾人もの男達が呻いて転がっているのが見えた。
これら全てお父様がやったのだろうか。単独でこれだけの敵を相手にして、誰一人死んではいない。
「旦那様、どうやってこちらに……? 住民からは何の情報も得られなかったと騎士達が申しておりましたが……」
「なあに、話さないのなら、口を割らせるまでさ」
「……さっすが。帝国の剣、モルガナイト公爵」
お父様は戦争の英雄。
話には聞いていたけれど、実際にその片鱗を見たのは、初めてだった。わたしの前ではいつだって、優しいお父様だったのだ。
彼はわたしの姿を見た途端、いつものように表情を緩めて、困ったように笑った。
「……どうやらここは、人身売買の拠点らしくてな」
「人身売買、ですか!?」
「ああ、ここは丁度国境だ。隣国に女子供を売り捌いて、奴隷にでもしているんだろう」
「そんな……」
「何も話さなかったってことは、町ぐるみでこいつらと癒着してるってことかよ……」
「拐われるのは必ず住民ではなく余所者。皆は余所者を警戒していた……利害の一致なんだろうな」
かつての敵国に奴隷を送り、その見返りに金銭を得て、更に利があると示すことで町の安全を保障して貰う。
既に両国の間で平和条約が結ばれているのに、先の大戦で真っ先に攻め入られた土地では、そんな条約信用出来ないのだろうか。
勝利国ではあるけれど、この地域は侵略された記憶が根強いのだろう。怨み合うより余程良いのかもしれないけれど、何とも歪んだ取引だ。
父達は苦々しそうに呟きながら、次々襲ってくる男達を薙ぎ払う。
フレイア様も両国の板挟みの心境なのか、話を聞いて複雑そうだ。
わたし達は壁際に身を寄せて、安全圏から騎士達の戦いを見守ってはいるけれど、どうにも落ち着かない。
ステラもこのままでは、奴隷にされてしまうのかもしれない。
今も酷い目にあっているのではないか、怪我をしているのではないか。
同じように落ち着かないレオンハルト殿下に目配せしては、そっと抜け出して奥へと進もうとしたけれど、戦闘モードの父にすぐに気付かれる。
いつもより感覚が研ぎ澄まされているのだろう。彼の瞳は、かつての英雄を憑依させたように、鋭く光っている。
「ミア、危ないから戻りなさい!」
「でも……ステラは、わたしが迎えに行かないと!」
あの日、ステラと今世で再会して、すぐにお母さんだと気付けなかった。
あんなに会いたかったはずなのに、泣いてしまってほとんど言葉にならなかった。
あの時、どれだけ嬉しかったか。会えてどれだけ安心したか。
昨夜の話をお父様から聞かされた時、ステラがどれだけ思い詰めているか気付かされた。
今度こそわたしが、この暗闇に囚われたステラを見付けるのだ。安心してって、抱き締めるのだ。
皆の静止を振り払い、わたしはステラを探して走り出した。
*******
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる