魔法探偵の助手。

雪月海桜

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第四章【朝霧の残像】

姫乃ちゃんとの距離。

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「……」

 箱を閉じて、何かの呪文をぽつりと呟いたシオンくんがそれに触れる。白く無機質だった箱を、キラキラとした光のカケラが纏い、まるでステンドグラスの細工のように美しい。

「はい、出来たよ。開けてみて」
「う、うん……」

 すっかり見惚れていると、修復が完了したようだ。
 受け取った箱を開けると、そこには綺麗にひび割れの直った鏡がそこにあった。

「わあ、ありがとう!」
「ふふ。どういたしまして」

 こんなのを見てしまうと、家にある壊れたもの全て直してしまいたくなる。とてもエコなのではないか。
 最強魔法は中々危ないものな印象だったから、純粋に初期イメージのわくわくを感じてしまう。

「でも、なにをもって『もと』とするかは、本当にその人によるんだよね」
「え?」
「たとえば、どんな物でも使い込む内に表面に細かい傷や汚れが生じるだろう? それを思い出として、それが消えたものは『もと』の自分の物とは違う、別物の新品と感じるかもしれない」
「たしかに……」

 そう考えると、人の心とは複雑だ。単純に壊れたから直すだけでなく、愛着、思い出、状態、あらゆるものを加味して『そのもの』であるかどうか考えるのだから。

「人は記憶や思い出、全てを積み重ねたものに価値を見出だす生き物だ。だから……いくら未承認の魔法道具を回収する際に必要だったとはいえ、夕崎くんや真昼さんの記憶を曖昧にしてしまったのは、申し訳ないなと思ってる」
「それは……シオンくんのせいじゃないよ。シオンくんは、最善の道を探してたくさん頑張ってるもん」

 わたしの慰めなんて、あまり意味がないのかもしれない。きっと彼は今までにも、たくさん同じことをしてきたのだから。
 それでも、人知れずみんなを危険から守っているシオンくんを、わたしは否定したくなかった。

「ありがとう、みゆりさん。……さて、朝霞さんが持つ最後の未承認の魔法道具について、情報を集めようか」
「うん。……あ、でも、今日一日見てみたけど、キラキラは見付けられなかったんだ。もしかしたら、持ち歩いてはいないのかも」
「そうか……家にあるんじゃ回収は難しいね。みゆりさんなら、遊びに行くのは問題なさそうだけど……さすがに僕が女の子の家に行くのはまずい気がする」

 確かに、わたしの家にも来てもらったことないのに、なんて考えてしまう。論点が違うのは百も承知だ。

「というか、姫乃ちゃんの家……昔行った記憶はあるんだけど、最近は全然……」
「そうなの?」
「二年生まで同じクラスでね、その頃は家族ぐるみで仲良しだったの。この鏡も、その時一緒に出掛けたお祭りで……。でも、三、四年で別のクラスになっちゃって……少し疎遠になって、でも五年生でまた同じクラスになれて……学校ではずっと一緒なんだけど、外で遊んだりは自然となくなっちゃって」
「なるほど……」

 わたしは昨日必死に思い出そうとしてかき集めた記憶たちを振り返る。
 そうだ、もうすぐ夏祭りの時期だ。それに誘ってみるのもいいかもしれない。
 姫乃ちゃんと、仲良くなれた若菜ちゃんと、それから……シオンくんは、来てくれるだろうか。
 ちらりと視線を向けると、シオンくんと目が合った。

「じゃあ、視認できる魔力以外に何か変わったところはなかった?」
「え、あ、うん……えっと」

 わたしはすっかり意識がお祭りに傾いてしまったけれど、シオンくんは真面目に魔法道具について考えていたようだ。
 事件が解決したら、改めてお祭りに誘ってみよう。わたしも頭を切り替えた。
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