魔法探偵の助手。

雪月海桜

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第四章【朝霧の残像】

白い箱。

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 姫乃ちゃんを一日観察してみたけれど、特に魔力のキラキラも、おかしな点も見付けられなかった。
 寧ろ授業中でも度々真後ろの姫乃ちゃんを振り返るわたしの方がおかしい子扱いされていた気がする。
 とーや先生はこっち側のはずなのに、引き気味に注意されたのは解せない。

「そもそも姫乃ちゃんに何かあるなら、ずっと一緒に居たわたしが気付かないはずないんだよなぁ……」

 あっという間に放課後を迎え、姫乃ちゃんはわたしの奇行を哀れみの目で見たあと早々に帰っていった。
 そういえば姫乃ちゃんは、放課後はいつもすぐに帰ってしまう。一緒に帰ったことも、通学が被ることもない。

 というか、これだけずっと一緒に居るのに、休みの日に遊んだ記憶もそれこそ鏡をゲットした幼い日の夏祭りくらいしか印象にない。
 これはさすがに、おかしいのではないか。

「……もしかしてわたし、あんまり仲良くない……?」

 すっかり自信を喪失したまま、わたしは放課後の第二音楽室へと向かう。
 相変わらず触れただけで開く扉の向こう、暗幕に閉ざされた空間に、彼はいつものように黒い皮張りの椅子に座っていた。

「やあ、いらっしゃい。早速鏡を直そうか」
「シオンくん……うん、ありがとう」

 デスクを隔てた向こうの彼に、わたしはひび割れた鏡を差し出す。

「さて問題です。鏡を直す時、使う魔法の本質はなんでしょう」
「え!?」

 鏡を受け取ったシオンくんからの突然の問題に、わたしは目を見開いた。

「えっ、え……直すんだから、『直す』じゃないの?」
「ふふ。では、直すの定義は?」
「て、定義?」

 なんだろう、ちょっと難しい話になってきた。今日の授業中真面目に聞いてなかった分の補習か何かだろうか。

「えっと、もとに戻す、みたいな」
「うん、そう。だから直すの本質は戻すなんだ。……でも、魔法を使う側がその『もと』の状態を知っているなら、加減はできるけれど……もし知らないまま使ったとしたら、加工前のガラスと金属に戻してしまうかもしれない」
「パーツになってしまう……」
「それどころか、ガラスの前の珪砂とかになってしまうかも」
「まさかの素材の段階……」

 さすがに極端だとは思うけれど、そう考えると、取り戻したい『もと』を定義するのはとても難しい。
 鏡のひび割れだけを直したい、と前もって打ち合わせ必須だ。

「ふふ。みゆりさん、この鏡をどうしたい? 素材にしてみる?」
「ひび割れだけ修復お願いします!」
「うん、わかった」

 シオンくんは楽しそうに頷いて、以前見掛けた手のひらサイズの白い箱を取り出す。確か中身は空っぽのやつだ。そして、シオンくんは鏡をその中に入れた。
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