魔法探偵の助手。

雪月海桜

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第四章【朝霧の残像】

合流。

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 そうしてお祭りを堪能しながら、やがて一周して鳥居の近くまで戻ってきたことに気付く。
 すぐに姫乃ちゃんの魔法道具の回収が出来そうなら、そこでシオンくんと偶然を装って合流する予定だった。

 きょろきょろと辺りを見渡すけれど、シオンくんの姿はなかった。もしかすると、人波に押し流されて遅れているのかもしれない。

「みゆり? なにか探してるの?」
「んー、いや、ちょっと……」
「……小日向に朝霞? お前たちも祭りに来てたんだな」

 そんな中、不意にわたしたちを呼ぶ声がして、振り返り視線を向ける。

「あれ、夕崎くん……と、とーや先生? え、補導??」
「ははっ、やっぱそう見えるか」
「違う違う! 野外ステージで『円川ヒナ』がミニライブするって聞いて観に来たら、偶々見回りの先生と会ったから話してただけ!」

 楽しそうなとーや先生と、焦る夕崎くん。そりゃあ今時期問題でも起こしたらバスケの試合に出られなくなるかも知れないのだから、その慌てぶりも当然だろう。

「えっ、というか、わか……ヒナちゃん、ライブするんだ? 夕崎くんファンだったんだね」
「おう! 可愛いだろ、円川ヒナ」

 夕崎くんは根っからのバスケ馬鹿で、アイドル好きなイメージはあまりなかったし、少し意外だった。クラスメイトの知らなかった一面だ。
 そのアイドルもまたクラスメイトなのだと知ったら、夕崎くんはどんな顔をするのだろうか。

 若菜ちゃんが近頃また忙しそうだったのはそのせいだったのかと、ぼんやりと考えていると、ふと、先生の後ろからひょこりともう一人の人影が見えた。

「この場合、僕も補導されているように見えるのかな……」
「し、シオンくん!?」
「ああ、転校生もさっき見かけたから声かけたんだ。せっかくの祭りに一人なんて寂しいだろ」

 偶然を装って合流、とは聞いていたものの、こんなに大所帯になるとは彼も予想していなかったのだろう。
 夕崎くんのコミュ力に負けたらしいシオンくんは、少し困ったように笑っている。

「えっと、補導というか……シオンくんは寧ろとーや先生の保護者枠だよ!」
「いや、それもそれでどうなんだ??」

 わたしのフォローに対して先生が突っ込みを入れるけど、否定は飛んでこなかった。

「あれ、朝霞は? さっきまで居たよな?」
「え!?」

 夕崎くんの声に、はっとする。気付けば隣に居たはずの姫乃ちゃんの姿が見えなくなっていた。
 シオンくんたちの表情にも、わずかに緊張が走る。

「えっと、わたし姫乃ちゃん探してくる……!」
「僕も手伝うよ。……兄さんも、ね!」
「ああ。もちろん」
「お、なんだ、オレも手伝おうか?」
「夕崎くんはライブ行ってて! もしかしたら、話し聞いて先に行ったのかもだし……そっちに居なくても、姫乃ちゃん見つけたらわたしたちも行くから」
「そうか? わかった。……そういえば朝霞って、円川ヒナにめちゃくちゃ似てるよな! もしかしたら、朝霞の正体は……」

 どうやら夕崎くんには、姫乃ちゃんがヒナちゃん似に見えているらしい。
 本物は別のクラスメイトなのだから、その発想自体は惜しかった。


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