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第四章【朝霧の残像】
偽者じゃない。
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「姫乃ちゃん!」
「……みゆり」
シオンくんの言った通り、姫乃ちゃんは人の居ない夢咲神社の境内にある木の椅子に座っていた。
シオンくんを背負った先生を待たず、わたしは姫乃ちゃんへと詰め寄る。
「急に居なくなるから、心配したんだよ!」
「……ごめんなさい。ちょっと人が増えてきたから、人酔いしてしまって」
「はぐれないように、手だって繋いでたのに……どうやって?」
「それは……」
お祭りの中ではぐれないように、移動中は繋いでいた手。姫乃ちゃんが離れたなら、本当ならわたしはすぐに気付いたはずだった。
「存在が、それだけ不安定だったんだろうね」
「……月宮くんの方が、よっぽど具合が悪そうね」
「あはは、お互い様かな」
シオンくんの声がして振り向くと、彼はとーや先生の背に乗ったまま、石段を登って疲れたらしい先生を労っていた。
「朝霞姫乃さん。きみのこと、調べさせてもらったよ」
「あら、月宮くんが私に興味を持つなんて意外ね。何を調べたのかしら?」
クラスの情報通と名高い姫乃ちゃん。けれど逆に、彼女の情報については、あまり知っている人は居ない。
今となっては姿かたちすら曖昧なのだから、随分なミステリアス美人だ。
「そうだね……調べてわかったことは、きみは、『今ここに居るはずのない人間』だ」
「それ、どういうこと?」
わたしは思わず動揺して、シオンくんへと視線を向ける。
対する彼はいつも通りの表情で、先生の背中から降りて、地面の感触を確かめていた。
ヘッドフォンは片耳だけずらしている。もう片方はしたままだったけれど、心の声を聞く範囲を狭めているのだろう、先程より顔色も良くなっていた。
「朝霞姫乃さんは、五年生になる直前の春休み、事故に遭ったんだ」
「……え?」
「いわゆる轢き逃げだね。そして、病院に運ばれた彼女は今も、意識不明のままだ」
「は……え? うそ……」
まって、そんなこと、知らない。五年生になる直前?
そんなの嘘だ。だって、五年生で同じクラスになってから、姫乃ちゃんはずっとずっと、わたしの一番傍に居た。
なのに、姫乃ちゃんは俯いたまま答えない。否定も怒りも笑いもしなかった。
五年生からの担任であるとーや先生もまた、否定も肯定もしない。姫乃ちゃんの答えを待っているようだ。
「……きみは、未承認の魔法道具が作り出した、偽者?」
「違うわ! 私は、私よ!」
ようやく顔を上げた姫乃ちゃんは、今まで見たこともないような苦しそうで泣きそうな顔をしている。
そうだ、姫乃ちゃんは、姫乃ちゃん。鏡や写真に映らなくても、人によって見える姿が違っても、過去の思い出が曖昧でも……
……それは、本当にわたしの親友の姫乃ちゃんだと言えるのだろうか。
「姫乃、ちゃん……?」
「違う……私は、偽者じゃない。幻なんかでもない。確かに、身体は病院にあるけど、本物の朝霞姫乃よ」
「……幽霊みたいな状態ってこと? だから、人によって見え方が違うの?」
わたしの言葉に、姫乃ちゃんは驚いたようにした。見え方が違うことを、知られてるとは思っていなかったのだろう。
姫乃ちゃんは、視線を泳がせて言葉を探すようにしている。
「……みゆり」
シオンくんの言った通り、姫乃ちゃんは人の居ない夢咲神社の境内にある木の椅子に座っていた。
シオンくんを背負った先生を待たず、わたしは姫乃ちゃんへと詰め寄る。
「急に居なくなるから、心配したんだよ!」
「……ごめんなさい。ちょっと人が増えてきたから、人酔いしてしまって」
「はぐれないように、手だって繋いでたのに……どうやって?」
「それは……」
お祭りの中ではぐれないように、移動中は繋いでいた手。姫乃ちゃんが離れたなら、本当ならわたしはすぐに気付いたはずだった。
「存在が、それだけ不安定だったんだろうね」
「……月宮くんの方が、よっぽど具合が悪そうね」
「あはは、お互い様かな」
シオンくんの声がして振り向くと、彼はとーや先生の背に乗ったまま、石段を登って疲れたらしい先生を労っていた。
「朝霞姫乃さん。きみのこと、調べさせてもらったよ」
「あら、月宮くんが私に興味を持つなんて意外ね。何を調べたのかしら?」
クラスの情報通と名高い姫乃ちゃん。けれど逆に、彼女の情報については、あまり知っている人は居ない。
今となっては姿かたちすら曖昧なのだから、随分なミステリアス美人だ。
「そうだね……調べてわかったことは、きみは、『今ここに居るはずのない人間』だ」
「それ、どういうこと?」
わたしは思わず動揺して、シオンくんへと視線を向ける。
対する彼はいつも通りの表情で、先生の背中から降りて、地面の感触を確かめていた。
ヘッドフォンは片耳だけずらしている。もう片方はしたままだったけれど、心の声を聞く範囲を狭めているのだろう、先程より顔色も良くなっていた。
「朝霞姫乃さんは、五年生になる直前の春休み、事故に遭ったんだ」
「……え?」
「いわゆる轢き逃げだね。そして、病院に運ばれた彼女は今も、意識不明のままだ」
「は……え? うそ……」
まって、そんなこと、知らない。五年生になる直前?
そんなの嘘だ。だって、五年生で同じクラスになってから、姫乃ちゃんはずっとずっと、わたしの一番傍に居た。
なのに、姫乃ちゃんは俯いたまま答えない。否定も怒りも笑いもしなかった。
五年生からの担任であるとーや先生もまた、否定も肯定もしない。姫乃ちゃんの答えを待っているようだ。
「……きみは、未承認の魔法道具が作り出した、偽者?」
「違うわ! 私は、私よ!」
ようやく顔を上げた姫乃ちゃんは、今まで見たこともないような苦しそうで泣きそうな顔をしている。
そうだ、姫乃ちゃんは、姫乃ちゃん。鏡や写真に映らなくても、人によって見える姿が違っても、過去の思い出が曖昧でも……
……それは、本当にわたしの親友の姫乃ちゃんだと言えるのだろうか。
「姫乃、ちゃん……?」
「違う……私は、偽者じゃない。幻なんかでもない。確かに、身体は病院にあるけど、本物の朝霞姫乃よ」
「……幽霊みたいな状態ってこと? だから、人によって見え方が違うの?」
わたしの言葉に、姫乃ちゃんは驚いたようにした。見え方が違うことを、知られてるとは思っていなかったのだろう。
姫乃ちゃんは、視線を泳がせて言葉を探すようにしている。
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