魔法探偵の助手。

雪月海桜

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第四章【朝霧の残像】

残す。

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「ああ、なるほど。今現在を概念じゃないと認識するなら……朝霞さんの使う魔法道具の本質は『映す』じゃない……『残す』だ」

 シオンくんは、わたしの心の声からヒントを得たように、魔力の本質を見極める。

「残す?」
「鏡に宿った魔力だから、映すと認識して存在を投影させていたんだろうね。……でも、少し違う。思い出という過去を消費して、現在に存在を残してるんだ」
「えっと、どう違うの?」
「そうだな……例えばこの日々をテレビ番組だとしよう。映すは見たら終わりのリアルタイムで、一過性だ。次の瞬間には忘れてしまう。それだと、朝霞さんが六年二組に通っていることすら、僕たちは覚えていないだろう」
「……でも、わたしたちには姫乃ちゃんとの記憶がある」
「うん。だから、残すは録画。録画したなら何度でも見返せるよね。それは、思い出にもちゃんと残る……その分録画容量にも限りがあるから、古いものから消していってる状態だ」
「古いものから……」
「うん、朝霞さん本人は、今も病院に居て、目覚めていない。本来今は存在しえなかった時間だからね。録画容量は過去に実在した時間から賄うしかない」
「じゃあ、この代償は、本質を見誤ったからっていうよりも……」
「そう、本来不可能なはずの無茶を押し通したから。……その録画容量を少しでも浮かせるために、姿かたちや存在にかけるコストを減らした結果が、今の幽霊まがいなこの状態なんじゃないかな」

 シオンくんの見解を聞いて、姫乃ちゃんは納得したように小さく頷いた。

「それでも私は、無茶を押し通すわ。もう六年の夏なのよ、卒業まで、あと少し……私の身体は、いつ目覚めるかわからないもの」
「あまりお勧めはしないよ。危険すぎるし、もしきみが目覚めた時、この魔法で得た一年半の記憶が、きみの中にも残るとは限らない」
「え……?」
「そして、その場合ですら、失った思い出も取り戻せるとは限らない。このまま使い続けると、全てを失うかもしれないんだ」

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