一条物語

いしぽよ

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第1章 序章

第6話 勃発、嘉禄の乱

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頼経が将軍に就任したのを皮切りに、鎌倉では物騒な話題が飛び交い始める。
それは、頼経が源氏でもなく、そもそも武家ですらないことへの不満からだった。
頼経は、公家の頂点である五摂家の家柄であるので、これを機に、公家に幕府が乗っ取られるのではないか、
もう既に北条家に幕府が乗っ取られようとしているというのに、そこに公家まで首を突っ込まれては敵わない、
元服しているとはいえ、頼経はまだ9歳であるので、まだ大丈夫だが、頼経が成長し、自我を持ち始めたら厄介なので今の内に手を打つべきでは?といった話題が御家人、特に幕府の中核である有力御家人達の間で頻繁に飛び交った。彼らの不満は形容できない程大きかった。我々は、頼朝公の為に力を尽くしてきたというのに、今や元・伊豆の一、豪族に過ぎなかった北条家の家来に成り下がってしまい、元々不満を募らせていた。
そこへ今回の、頼経将軍就任の件だ。元々幕府を実行支配していた北条家の力がますます大きくなり、北条家の家来化がより一層進み、その上今後は、公家の家来にならねばならないなど言語道断、こんな屈辱、到底受け入れられない、許すまじ、といったところである。ただ、厳密には、彼らの不満は、頼経というよりやはり北条家への不満であった。そもそも頼経を都から鎌倉へ呼び、将軍職に任命したのは北条家であるので、諸悪の根源は北条家であり、頼経は被害者である。頼経は表面上の不満対象にすぎない。やはり有力御家人なだけあって賢く、本質、諸悪の根源を見抜き、叩くべき相手を正確に見抜いていた。とはいえ、頼経も成長し、真に大人になった暁には、どんな男になるかわからない。どんな経緯であれ、自身が将軍であることは事実なのだから、その立場に胡坐をかき、我々武家を一丁前に支配し始めるかもしれないし、へたをすれば北条家をも手名付けて、北条家以上に力を付け、我々武家を支配し、せっかく頼朝公が築き上げ、先の承久の乱にて確立したこの武家の世が再び公家の世に戻り、平安の頃のように、武家は、所詮、公家の犬といった存在に逆戻りしてしまうかもしれない。そう考えると、北条家は今すぐ叩くべき諸悪の根源であり、頼経は次世代の不安の種である。というのが、有力御家人達の見解であった。
現状は、頼経がまだ幼いことを理由に北条家が執権政治を行い、幕府を私物化している。頼経はまだ幼いので現状脅威ではない。その為、今の内に北条家を叩いて起き、頼経が大人になる前に、将軍の独裁政権にならないような意思決定の仕組みを確立させておくことが現状を打開する解決策であると結論付けた有力御家人達は、結託し、打倒北条家を掲げた反乱を企てる。と言いつつも、やはり彼らも人間。表立ってはこのようなことをいい、結託しつつも、実は、隙を見て己が北条家の代わりに幕府を実行支配し、ついでに五摂家も手名付けて武家と公家の双方の頂点に君臨しようと企んでいた為、この結託は形上のものであった。やはり人間、そう理屈通りに動けないものである。

ある日、ある晴れた日のこと。北条泰時と幼い頼経が蹴鞠をして遊んでいるところに衝撃的な知らせが次々と入る。
「和田義盛、謀反に御座います!」
泰時「!?」
「続いて比企能員、謀反に御座います!」
泰時「な、何ぃ!?」
「同じく、梶原景時!」
泰時「にゃ、にゃんだってぇ!?」
あまりの衝撃に、言葉がおかしくなる泰時。
「同じく、三浦義澄!」
「同じく、.........」
次々と絶え間なく届く、有力御家人達の謀反の知らせ。北条家以外の有力御家人全員が謀反を起こしたと知る。
泰時「な、なんということじゃ......こ、これは、とても偶然とは思えぬ、や、奴ら、う、裏で繋がっておるな?全員で結託して我が北条家を叩くつもりなんじゃろう…」
泰時「こ、こんなのどうすれば…」
あまりの衝撃と絶望的な事態に呆然と立ち尽くす泰時。その時、一つの鞠が飛んできて、泰時の腹に直撃する!
あまりの衝撃に、泰時は数メートル先まで吹っ飛ばされる!
泰時「こ、これはどういうことにゃ?」
あまりの衝撃に、言葉がおかしくなる泰時。
鞠を蹴って泰時を吹っ飛ばしたのは、なんと頼経であった。
頼経「しゃんとせい泰時!そなた、幕府の執権じゃろうが!!」
泰時「わ、わかっておるわ。う、く、、、。」
頼経に喝を入れられ、我に返る泰時。しかし、かなり効いたようだ。
その様子を見ていた北条一族は、頼経の貫禄に言葉を失う。わずか9歳にしてこの貫禄、この振る舞い、間違いなく、将来大物になる。そうなれば我が北条家の執権政治もいつまで持つか、頼経を将軍にしたのは我が北条家にとって、吉と出るか凶と出るか。こやつの今後の成長には目を光らせておく必要があるな。

重い腰を上げた泰時率いる北条家は有力御家人討伐の為、兵を集める。
今回は、しくじると北条家が滅亡し兼ねない事態なので、九州から鎮西奉行、京都から六波羅探題に就いていた北条家戦力をも鎌倉へ終結させる。
これにより、鎮西奉行・六波羅探題の力が一時的に弱体化した。これを見て、ある組織が動き出す。(続く)
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