85 / 119
閑話 昔の思い出を携えて
待つもの (ファルside)
しおりを挟む
長い長い夜が明けた次の日は、うんざりするくらいの晴れだった。
どうしてもダイニングルームに行く気になれなくて、俺が部屋から出ようとしないのを察して、ルアが朝食を持ってきてくれた。
「公子様、今日はルアと遊びますか?」
自室のテーブルに朝食を並べながら、ルアはそう聞いてきた。
昨日の言葉は慰めるために適当に言ったわけではなかったようだった。
ちらりとルアを見ると、ルアは昨日のつらそうな顔が嘘みたいに笑顔だった。
取り繕った笑顔なのはすぐにわかった。
ルアも俺も無理をしていて、2人で責務を放って遊んだら、どれだけ楽なことか。
ベッドの上で座っている俺は、ベッドシーツをぐしゃり、と握った。
「………いや、視察に行くよ。
本当はここでルアと遊びたいけど………公爵家として、責務は果たさないといけないから。それに、またわがままだって言われるのも困るし」
俺がルアを見て答えると、ルアは準備の手を止めてわざわざ俺の顔を見た。
目が合って、ルアが俺を痛ましそうに見る。
「公子様…………わかりました。
それでは視察から帰ったら、私とデザートを食べませんか?シェフが公子様に試食してほしいみたいです」
「うん、じゃあ楽しみにしてるよ」
ルアのせめてもの誘いは、俺の心を少し軽くした。
帰ったら、デザートが待っている。
今はそれだけでも嬉しかった。
準備を終えたルアは部屋を下がり、俺は1人晴れ晴れとした空を見ながら朝食を食べた。
「『シャルア』ちゃんと乗るから、あなたはメルオンくんと乗りなさい」
一瞬理解できなかった。
「………………はい、わかりました」
でも、すぐに俺は笑顔を貼り付けて母上に向かって頷いた。
俺はいらない子だから、一緒に乗りたくないのだろう。
聞いたところによると、今日の朝は『シャルア』と一緒だったらしい。
着実に俺と『シャルア』が入れ替わってきていた。
父上は俺のほうを見ていたが、もともと無口だからか、何も言わずに馬車に乗り込んだ。
俺が乗る予定だった公爵家の馬車に、今から『シャルア』が乗る────はずだった。
母上が乗り込んで、『シャルア』があと少しで乗る、というところで、『シャルア』は踵を返して、俺とメルオンの乗る馬車のほうへ歩いてきた。
「『シャルア』ちゃん………?」
母上が問い返すと、『シャルア』は母上を見て口を開いた。
「わたしは、公爵家では、ありません。
間違えないでください」
母上と言葉を練習しているとは聞いていたが、最初と比べて上達していることに、素直に驚いた。
諭すような表情で、母上に対して答える『シャルア』に、母上はたじろいでいた。
何も言えないでいる母上を見兼ねて、先に乗り込んでいた父上が母上を馬車の中に引き入れて、自らの膝に乗せた。
そして、「早く乗れ」と俺に言って扉を閉めた。
『シャルア』でいっぱいになっていて、つい忘れていたが、父上の膝の上は母上の特等席だ。
『シャルア』が来る前までは頻繁にあの光景を目にしていたが、俺が関わる時間が減ったせいか、すごく久しぶりに見た気がした。
『シャルア』が来ても、2人はまだ仲がいいことに複雑になりながら、俺たちは父上たちが乗っている馬車の後続を走る馬車に乗った。
「わ、わぁ!二人とも、街が近くなってきた、よ…………」
「「……………………」」
移動中、メルオンは頑張って盛り上げようと柄にもなくたくさん喋っていたが、俺と『シャルア』はまったく返事をしなかった。
俺はメルオンが嫌がると思って返事をしていないだけだが、『シャルア』はどうしてなのかわからない。
ただ窓の外を見る俺をずっと見つめてくる。
最初は気のせいだと思っていたが、これがずっと続くと話は変わる。
正直に言って、いたたまれなかった。
「…………言いたいことがあるなら言えばいいだろ」
俺が『シャルア』のほうを見てそう言ったら、『シャルア』はわずかに口を震わせた。
沈黙が続いて、メルオンがはらはらしながら俺たちを交互に見るなかで、『シャルア』はようやく口を開いた。
「……すぐに消えるので、そのうちぜんぶ、元どおりになります」
「何言って──────」
ガタンッ
『シャルア』の謎の発言の意図を聞こうとした途端、俺たちの乗る馬車は急に停まった。
目的地に着くには、まだ早すぎる時間だった。
「あ……着いたのかな?
早く降りないと待たせちゃうよね!降りない、と、………………」
メルオンの貼り付けていた笑顔が、窓の外に視線をやった瞬間に消えた。
一体何があったのかと、俺が窓の外を見ようとしたときだった。
ガァァンッ!
突然、俺と『シャルア』が座っているほうの扉が無理やり開けられた。
いや、壊された。
体が動かなかった。
視線だけを動かすことができて、壊された扉に視線をやる。
片耳についているダイヤ型のサファイアのピアスを揺らして、身体のラインがよく見える服を着た、全身黒色の細身の男。
明らかに異様な雰囲気を放つ男に、誰も動けなかった。
男はギロリと俺と『シャルア』を見た。
目が合った瞬間に殺されるのかと思った。
「銀髪の子どもってどっちだよ………まぁいいか」
男は小さく何かを呟いているのをただ見ていることしかできなかった俺は、次の瞬間、体が浮いた感覚に驚くしかなかった。
反応が遅れて、自分が男に抱えられているのがわかった。
俺の反対側には『シャルア』が抱えられている。
まだ視線だけしか動かせない俺が見た『シャルア』の表情は、今までにない絶望を宿していた。
今からどうなるのか、まったくわからなかった。
何が目的で抱えられているのか、頭が回らなくて、わからなかった。
「任務完了………っと」
男がまた呟いて、俺たちを抱えて動き出そうとして、俺はやっと、誘拐されかけていることに気づいた。
でも、気づくのには遅すぎて、大人の強い力に屈するしかなかった。
このまま、連れ去られるほかないのかと悔しさが募る。
何のためにいつも鍛錬してきたのだろう、と悔しくなる。
今連れ去られたら、城には戻れない。
戻れなかったら、ルアとの約束が守れない。
また、悪い子になる。
母上とも、仲直りできないまま────?
(もう…………いいか)
俺は諦めていた。
どうせ、いらない子なのだからこのまま消えて仕舞えばいいのだと。
そう思っていた。
ボゴッ
土が男の顎先にめがけて盛り上がった。
難なく避けてしまった男は俺たちを抱えながら、攻撃されたほうを向く。
必然的に俺も向くことになって、視線の先にいる人に目を見開いた。
「息子たちを返しなさい………」
母上が、立っていた。
自身の属性である地属性の魔法で作ったと思われる、巨大なゴーレムが母上の後ろに立っている。
母上は男を睨みながら地面に手を置いている。
地震や地割れのときの姿勢だ。
「面倒だなぁ………」
男は嫌そうな声でそう言って、右足で地面に3回、強く音を立てた。
「だめっ─────!」
男の行動にさっきまで絶望で萎縮していた『シャルア』が過敏に反応して、暴れて男の腕の中から解放された。
地面に叩きつけられた『シャルア』はすぐに立ち上がって、母上のもとへ走り出す。
「なっ、こいつ…………」
男は頭にきたのか、俺を投げ捨てると、母上に向かっていく『シャルア』を捕まえようと追いかけ出す。
投げ捨てられた俺は背中に痛みを感じて、動くのもやっとだった。
でも、あの男を止めないと後悔すると思った。
『вутукьдчшшглжжцд』
いつも剣術の稽古中に練習している『身体強化』をかけて、俺は立ち上がった。
走れ、走れ、とそう強く願って動き出した俺の体は、いつもよりも数倍速く動いた。
なぜかはわからないが、『シャルア』の必死さに焦りを感じていたのかもしれない。
本来なら追いつかないはずの大人の速さに、俺はすぐに追いついた。
『его ко ч сб мэчийдбшлэ』
『凍結』を詠唱して、男の足を氷で固定すると、男は身動きが取れなくなった。
男は後ろにいる俺を見て「クソが」と睨みながら吐き捨ててきたが、動けないままでいる。
「────『シャルア』!!」
後は任せたとは言いたくなくて、名前だけ読んだ俺を見て、『シャルア』は少し安心した顔を見せて母上の側まで駆け寄った。
「──────『結界』!」
『シャルア』の一言で展開された『結界』は、母上とシャルアを囲んだ。
なぜ『結界』を展開したのかは、すぐにわかった。
キィィィン……………!
突如、『結界』に攻撃が当たり、跳ね返された。
数秒後、俺たちを誘拐しようとした男とは異なる、サファイアのピアスを耳につけた男が空から落ちてきた。
『シャルア』が間に合っていなかったら、母上に当たっていた。
『シャルア』はこれを予測していたのだろうか。
何にせよ、『シャルア』のおかげで母上が助かった。
母上が無事でよかった。
安堵した俺は母上のもとへ行こうと走り出す。
「ははう──────」
ドゴッ
瞬間、後頭部に強い衝撃が生じた。
突然の衝撃に、俺の体は耐えられずにその場に倒れ込み、深い眠りについてしまった。
「…………ったく、手間かけさせるガキだな。
連れてくのはこいつじゃなかったみたいだし、殺すか……?」
男は倒れ込んだ俺をつまんで、物騒なことを呟いた。
男は『シャルア』を見ながら、俺を見せびらかすように揺らした。
「ファル…………っ!」
母上が目に涙をためて俺を見ていると、『シャルア』は母上の手に自分の手を重ねた。
安心させるために重ねたと思われるその手は冷たかったらしい。
『シャルア』が男のほうに歩を進める。
「はは……そうだ、そのまま来い!お前のせいで死ぬやつがまた増えるぞ………!」
男はずっと『シャルア』に向かってそう叫んでいたらしい。
男の目的は『シャルア』で、『シャルア』が近づくたびに口もとをほころばせていたという。
『シャルア』はただ、黙って近づいていくだけ。
母上がはらはらしながら見ていた次の瞬間だった。
グサリ
突然、男の心臓を氷の刃が貫いたという。
「ゴホッ…………お、前は………」
男は背後を見ようとしてぐらりと傾いて、俺を手放してばたりと倒れた。
手放された俺は男の背後に立った人物────父上によって保護された。
「片付けろ」
父上の一言で、どこに潜んでいたのか不思議な量の父上の『影』が処理を始めた。
父上のもとへ走り寄った母上は、父上と一緒に俺を強く抱きしめて離さなかったらしい。
どうしてもダイニングルームに行く気になれなくて、俺が部屋から出ようとしないのを察して、ルアが朝食を持ってきてくれた。
「公子様、今日はルアと遊びますか?」
自室のテーブルに朝食を並べながら、ルアはそう聞いてきた。
昨日の言葉は慰めるために適当に言ったわけではなかったようだった。
ちらりとルアを見ると、ルアは昨日のつらそうな顔が嘘みたいに笑顔だった。
取り繕った笑顔なのはすぐにわかった。
ルアも俺も無理をしていて、2人で責務を放って遊んだら、どれだけ楽なことか。
ベッドの上で座っている俺は、ベッドシーツをぐしゃり、と握った。
「………いや、視察に行くよ。
本当はここでルアと遊びたいけど………公爵家として、責務は果たさないといけないから。それに、またわがままだって言われるのも困るし」
俺がルアを見て答えると、ルアは準備の手を止めてわざわざ俺の顔を見た。
目が合って、ルアが俺を痛ましそうに見る。
「公子様…………わかりました。
それでは視察から帰ったら、私とデザートを食べませんか?シェフが公子様に試食してほしいみたいです」
「うん、じゃあ楽しみにしてるよ」
ルアのせめてもの誘いは、俺の心を少し軽くした。
帰ったら、デザートが待っている。
今はそれだけでも嬉しかった。
準備を終えたルアは部屋を下がり、俺は1人晴れ晴れとした空を見ながら朝食を食べた。
「『シャルア』ちゃんと乗るから、あなたはメルオンくんと乗りなさい」
一瞬理解できなかった。
「………………はい、わかりました」
でも、すぐに俺は笑顔を貼り付けて母上に向かって頷いた。
俺はいらない子だから、一緒に乗りたくないのだろう。
聞いたところによると、今日の朝は『シャルア』と一緒だったらしい。
着実に俺と『シャルア』が入れ替わってきていた。
父上は俺のほうを見ていたが、もともと無口だからか、何も言わずに馬車に乗り込んだ。
俺が乗る予定だった公爵家の馬車に、今から『シャルア』が乗る────はずだった。
母上が乗り込んで、『シャルア』があと少しで乗る、というところで、『シャルア』は踵を返して、俺とメルオンの乗る馬車のほうへ歩いてきた。
「『シャルア』ちゃん………?」
母上が問い返すと、『シャルア』は母上を見て口を開いた。
「わたしは、公爵家では、ありません。
間違えないでください」
母上と言葉を練習しているとは聞いていたが、最初と比べて上達していることに、素直に驚いた。
諭すような表情で、母上に対して答える『シャルア』に、母上はたじろいでいた。
何も言えないでいる母上を見兼ねて、先に乗り込んでいた父上が母上を馬車の中に引き入れて、自らの膝に乗せた。
そして、「早く乗れ」と俺に言って扉を閉めた。
『シャルア』でいっぱいになっていて、つい忘れていたが、父上の膝の上は母上の特等席だ。
『シャルア』が来る前までは頻繁にあの光景を目にしていたが、俺が関わる時間が減ったせいか、すごく久しぶりに見た気がした。
『シャルア』が来ても、2人はまだ仲がいいことに複雑になりながら、俺たちは父上たちが乗っている馬車の後続を走る馬車に乗った。
「わ、わぁ!二人とも、街が近くなってきた、よ…………」
「「……………………」」
移動中、メルオンは頑張って盛り上げようと柄にもなくたくさん喋っていたが、俺と『シャルア』はまったく返事をしなかった。
俺はメルオンが嫌がると思って返事をしていないだけだが、『シャルア』はどうしてなのかわからない。
ただ窓の外を見る俺をずっと見つめてくる。
最初は気のせいだと思っていたが、これがずっと続くと話は変わる。
正直に言って、いたたまれなかった。
「…………言いたいことがあるなら言えばいいだろ」
俺が『シャルア』のほうを見てそう言ったら、『シャルア』はわずかに口を震わせた。
沈黙が続いて、メルオンがはらはらしながら俺たちを交互に見るなかで、『シャルア』はようやく口を開いた。
「……すぐに消えるので、そのうちぜんぶ、元どおりになります」
「何言って──────」
ガタンッ
『シャルア』の謎の発言の意図を聞こうとした途端、俺たちの乗る馬車は急に停まった。
目的地に着くには、まだ早すぎる時間だった。
「あ……着いたのかな?
早く降りないと待たせちゃうよね!降りない、と、………………」
メルオンの貼り付けていた笑顔が、窓の外に視線をやった瞬間に消えた。
一体何があったのかと、俺が窓の外を見ようとしたときだった。
ガァァンッ!
突然、俺と『シャルア』が座っているほうの扉が無理やり開けられた。
いや、壊された。
体が動かなかった。
視線だけを動かすことができて、壊された扉に視線をやる。
片耳についているダイヤ型のサファイアのピアスを揺らして、身体のラインがよく見える服を着た、全身黒色の細身の男。
明らかに異様な雰囲気を放つ男に、誰も動けなかった。
男はギロリと俺と『シャルア』を見た。
目が合った瞬間に殺されるのかと思った。
「銀髪の子どもってどっちだよ………まぁいいか」
男は小さく何かを呟いているのをただ見ていることしかできなかった俺は、次の瞬間、体が浮いた感覚に驚くしかなかった。
反応が遅れて、自分が男に抱えられているのがわかった。
俺の反対側には『シャルア』が抱えられている。
まだ視線だけしか動かせない俺が見た『シャルア』の表情は、今までにない絶望を宿していた。
今からどうなるのか、まったくわからなかった。
何が目的で抱えられているのか、頭が回らなくて、わからなかった。
「任務完了………っと」
男がまた呟いて、俺たちを抱えて動き出そうとして、俺はやっと、誘拐されかけていることに気づいた。
でも、気づくのには遅すぎて、大人の強い力に屈するしかなかった。
このまま、連れ去られるほかないのかと悔しさが募る。
何のためにいつも鍛錬してきたのだろう、と悔しくなる。
今連れ去られたら、城には戻れない。
戻れなかったら、ルアとの約束が守れない。
また、悪い子になる。
母上とも、仲直りできないまま────?
(もう…………いいか)
俺は諦めていた。
どうせ、いらない子なのだからこのまま消えて仕舞えばいいのだと。
そう思っていた。
ボゴッ
土が男の顎先にめがけて盛り上がった。
難なく避けてしまった男は俺たちを抱えながら、攻撃されたほうを向く。
必然的に俺も向くことになって、視線の先にいる人に目を見開いた。
「息子たちを返しなさい………」
母上が、立っていた。
自身の属性である地属性の魔法で作ったと思われる、巨大なゴーレムが母上の後ろに立っている。
母上は男を睨みながら地面に手を置いている。
地震や地割れのときの姿勢だ。
「面倒だなぁ………」
男は嫌そうな声でそう言って、右足で地面に3回、強く音を立てた。
「だめっ─────!」
男の行動にさっきまで絶望で萎縮していた『シャルア』が過敏に反応して、暴れて男の腕の中から解放された。
地面に叩きつけられた『シャルア』はすぐに立ち上がって、母上のもとへ走り出す。
「なっ、こいつ…………」
男は頭にきたのか、俺を投げ捨てると、母上に向かっていく『シャルア』を捕まえようと追いかけ出す。
投げ捨てられた俺は背中に痛みを感じて、動くのもやっとだった。
でも、あの男を止めないと後悔すると思った。
『вутукьдчшшглжжцд』
いつも剣術の稽古中に練習している『身体強化』をかけて、俺は立ち上がった。
走れ、走れ、とそう強く願って動き出した俺の体は、いつもよりも数倍速く動いた。
なぜかはわからないが、『シャルア』の必死さに焦りを感じていたのかもしれない。
本来なら追いつかないはずの大人の速さに、俺はすぐに追いついた。
『его ко ч сб мэчийдбшлэ』
『凍結』を詠唱して、男の足を氷で固定すると、男は身動きが取れなくなった。
男は後ろにいる俺を見て「クソが」と睨みながら吐き捨ててきたが、動けないままでいる。
「────『シャルア』!!」
後は任せたとは言いたくなくて、名前だけ読んだ俺を見て、『シャルア』は少し安心した顔を見せて母上の側まで駆け寄った。
「──────『結界』!」
『シャルア』の一言で展開された『結界』は、母上とシャルアを囲んだ。
なぜ『結界』を展開したのかは、すぐにわかった。
キィィィン……………!
突如、『結界』に攻撃が当たり、跳ね返された。
数秒後、俺たちを誘拐しようとした男とは異なる、サファイアのピアスを耳につけた男が空から落ちてきた。
『シャルア』が間に合っていなかったら、母上に当たっていた。
『シャルア』はこれを予測していたのだろうか。
何にせよ、『シャルア』のおかげで母上が助かった。
母上が無事でよかった。
安堵した俺は母上のもとへ行こうと走り出す。
「ははう──────」
ドゴッ
瞬間、後頭部に強い衝撃が生じた。
突然の衝撃に、俺の体は耐えられずにその場に倒れ込み、深い眠りについてしまった。
「…………ったく、手間かけさせるガキだな。
連れてくのはこいつじゃなかったみたいだし、殺すか……?」
男は倒れ込んだ俺をつまんで、物騒なことを呟いた。
男は『シャルア』を見ながら、俺を見せびらかすように揺らした。
「ファル…………っ!」
母上が目に涙をためて俺を見ていると、『シャルア』は母上の手に自分の手を重ねた。
安心させるために重ねたと思われるその手は冷たかったらしい。
『シャルア』が男のほうに歩を進める。
「はは……そうだ、そのまま来い!お前のせいで死ぬやつがまた増えるぞ………!」
男はずっと『シャルア』に向かってそう叫んでいたらしい。
男の目的は『シャルア』で、『シャルア』が近づくたびに口もとをほころばせていたという。
『シャルア』はただ、黙って近づいていくだけ。
母上がはらはらしながら見ていた次の瞬間だった。
グサリ
突然、男の心臓を氷の刃が貫いたという。
「ゴホッ…………お、前は………」
男は背後を見ようとしてぐらりと傾いて、俺を手放してばたりと倒れた。
手放された俺は男の背後に立った人物────父上によって保護された。
「片付けろ」
父上の一言で、どこに潜んでいたのか不思議な量の父上の『影』が処理を始めた。
父上のもとへ走り寄った母上は、父上と一緒に俺を強く抱きしめて離さなかったらしい。
12
あなたにおすすめの小説
職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります
チャビューヘ
ファンタジー
いいね、ブックマークで応援いつもありがとうございます!
ある日突然、クラス全員が異世界に召喚された。
この世界では「職業ガチャ」で与えられた職業がすべてを決める。勇者、魔法使い、騎士――次々と強職を引き当てるクラスメイトたち。だが俺、蒼井拓海が引いたのは「情報分析官」。幼馴染の白石美咲は「清掃員」。
戦闘力ゼロ。
「お前らは足手まといだ」「誰もお荷物を抱えたくない」
親友にすら見捨てられ、パーティ編成から弾かれた俺たちは、たった二人で最低難易度ダンジョンに挑むしかなかった。案の定、モンスターに追われ、逃げ惑い――挙句、偶然遭遇したクラスメイトには囮として利用された。
「感謝するぜ、囮として」
嘲笑と共に去っていく彼ら。絶望の中、俺たちは偶然ダンジョンの最深部へ転落する。
そこで出会ったのは、銀髪の美少女ダンジョン主・リリア。
「あなたたち……私のダンジョンで働かない?」
情報分析でダンジョン構造を最適化し、清掃で魔力循環を改善する。気づけば生産効率は30%向上し、俺たちは魔王軍の特別顧問にまで成り上がっていた。
かつて俺たちを見下したクラスメイトたちは、ダンジョン攻略で消耗し、苦しんでいる。
見ろ、これが「外れ職」の本当の力だ――逆転と成り上がり、そして痛快なざまぁ劇が、今始まる。
#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について
国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”
人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる