追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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2章 魔法の国ルクレイシア

不穏 (ミュゼside)

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セイルクの『先生』が変わってから2週間くらいが経った。

今日は実技の授業でみんなの前で自分の実力を見せる時間があった。
いつもならセイルクは辞退して、先生に評価を下げられていた。
それなのに、今日はセイルクが名前を呼ばれたときそのまま前に立ったからみんなで驚いてしまった。

「……魔法人形を踊らせます」

先生に向かってそれだけ言うと、セイルクは深呼吸してから魔法を展開した。

………結果は大成功だった。
セイルクは浮かせた魔法人形をまるで本当に生きて思うままに踊っているかのように空中で舞わせた。
今までのセイルクではあり得ない精度だった。
先生もたくさん拍手をしてセイルクを褒めていた。

褒められたとき、セイルクはいつにもなく嬉しそうな顔をして微笑んだ。
その顔が、一部の女子の心を掴んだくらいには活き活きしていた。

クレアさんと一緒に毎日練習を始めてから、セイルクは変わった。
あんな笑顔、私じゃ引き出せなかった。
私の方が長い付き合いなのに、クレアさんはいとも容易くやってみせた。

初対面のときに見せてもらった魔法もすごかった。
処理速度も効果も威力も全部、私は負けていた。
セイルクに言われなくてもわかってた。あの人の魔法は本当にすごい。


私と同じような境遇のセイルクが変わった。
私はすごく焦りを感じている。認めてもらわないと、私に居場所はない。

机に置いたプリントを見る。
1枚目は、私の名前と、使用人を介してお願いして署名してもらった里親の名前。
2枚目は何も書いていない、ただの白紙。

私はまだ、パートナーが決まっていなかった。
国から派遣された魔法使いで妥協して、きっと同じだと思うセイルクと一緒に回ろうと思っていた。
でも、セイルクは今年、クレアさんと回ると言って私と回るのを断った。
クレアさんといても気まずくないと聞いて、いつからそんなに親密になったのか聞きたくなった。

でも、それよりも早くパートナーを見つけないといけなかった。
数日前に早く提出するように事務員から言われた。
提出期限も今週中に迫っている。
セイルクが親しい人と回るなら、私が国から派遣された魔法使いと一緒に回っているのはなんだか矛盾している気がした。
だから、誰か親しい人を見つけよう。

……そう思って街に出たまではよかった。
そういえば、私に友達がそんなにいないと気付いたのだ。
何が親しい人を見つけよう、だ。
そもそもいないのにどうやって見つけると言うんだ。
ため息をついて余計に落ち込んでしまう。
どこに行けば魔法使いがいるかなんてことを考えて、適当に歩いていく。

「お嬢さん、一人ですか?」

突然背後から声をかけられて、私は驚き振り返る。
気配なんて感じなかった。一体誰かと思って振り返った先には、あのクレアさんと同じようにフードを被った長身の人が立っていた。
声からして男の人……?

私が警戒して後ずさると、その人は「あぁ、待って待って」と言って私を止まらせる。

「今、あなたはふたつの憂いを抱えていますね。私なら、どちらも晴らしてあげられますよ」
「ふたつの……憂い?」

私は声の低さから男と推定した人の言葉を反復する。
男は私にずいっと近づいてきた。
驚くほどの速さで距離を詰めてきて、私を吸い込みそうな大きな体。
こんなに近いなら、フードの中も見えそうなのに、魔法で認識阻害でもしているのか、真っ暗なままだ。
固まっている私に男はそのまま話し始める。

「ひとつは、あなたが学校行事で必要な魔法使いのパートナーを探しているがなかなか見つからないこと。
そしてもうひとつは───クレア=モルダナティスが邪魔でどうにかしたいこと」
「…………どうして、そんな」

知っているのか、と言おうとしたところで男はふふふ、と笑った。
まるで、なんでもお見通しだと言っているみたいだった。

「何故知っているのかは言えませんが……先ほど申し上げたとおり、私ならあなたの憂いを晴らすことができます。
─────『この手を取って』、お嬢さん?」

私は「この手を取って」と言われた瞬間、頭にもやがかかったようなぼんやりとした感覚に襲われた。
そして、私は気づいたら、迷いなくその手を取っていた。

「交渉成立、ですね」

私は暗闇だったはずのフードから見えたサファイアのピアスが特徴的な男と協力関係になった。
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