追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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3章 依存国ツィーシャ

話をしよう (リュカオンside)

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ツンと、冷たい空気が肌を撫でる。
僕は目をこすりながら布団を畳んで大きく伸びをした。
陽も上っていない、朝というには早すぎる時間に起きるのは、僕の日課になっている。
でも、昨日のことが気になっていたからなのか、いつもよりもっと早い朝になった。

着替えを済ませてもう一度伸びてから、僕はそっと部屋の扉を開けた。

いつもなら気兼ねなく音を立てて朝の準備を始めるのだが、隣で『ちびっ子』が寝ていることもあって、今日はできるだけ音を立てないようにいろんなことをこなす。

洗濯、掃除、お風呂に、朝食準備。

てきぱきとできるようになったのはつい最近だ。
といっても、料理はまだまだ勉強中で、音を立てずに作れる朝食を考えてパンケーキを作っていた。
昨日の朝も食べた気がするけど、『ちびっ子』は知らないから大丈夫だろう。
ところどころ焼き加減を間違えたり、あまり膨らまなかった生地があったりするが、最初に比べればいい出来になった。

そうこうして外も明るくなったころ、『ちびっ子』の寝る部屋から物音がした。
多分起きたのだろう。

そこで僕はやっと焦り始めた。
何をどこからどう話せばいいのか、全く考えていなかったから。

どう切り出そう?
『聞いてほしいんだ』?
『昨日のことだけど』?

というか、ご飯を勧めずに話を始めるのってどうなんだろう。
『ちびっ子』はまたパニックを起こしてしまうだろうか。


「………ク、…リューク!」
「あっ、え、なに……」

不意に声をかけられて振り返ると、心配そうに僕を見てくる『ちびっ子』がいた。
色々考えていたせいで、聞こえていなかったみたいだ。
僕は真っ白な頭で勝手に動く口に言葉を任せた。

「………ご飯、できてるんだ。食べたらでいいから、聞いてほしいことがあるんだ」
「わかった」

『ちびっ子』は顔を顰めることもせず、ただひとつ頷いて朝食の置いてある机へ歩いて行った。
最初の波は乗り越えた………ぽい。
僕の頭にやっと思考が戻ってきた。






パンケーキを美味しく食べてくれた『ちびっ子』は、ずっと黙ってどう話そうか考えている僕を見て口を開いた。

「えっと……話したいことがあるなら、ゆっくりでいいよ。リュークが昨日してくれたみたいに、私もリュークのことは急かさないから」

そこまで言われて、僕は色々と肩の荷が降りた気がした。
僕が勝手に気負っていただけで、『ちびっ子』は普通に待ってくれる。

昨日決めたんだ、話すと。

僕は言葉を待つ『ちびっ子』を見て話を始めた。

「ありがとう。話そうと思っているのは昨日のことに関係してて……どうやって話そうか悩んでたんだ」

そこで一度切って、僕はロザリオを取り出した。
これは、昨日のルレーヌのものではない。
『ちびっ子』はロザリオを見て少し驚いた様子を見せたけど、すぐに僕のほうに向き直った。

「この前、僕も『クレア』も大魔協の人間だって話をしたと思うんだけど、大魔協に入ると、このロザリオをもらうんだ。
それで、昨日『ちびっ子』が嫌がっていたあの女も、このロザリオを持っていた」
「そう、だったんだ。
昨日、気になってたんだけど……あの人は結局どうなったの?」

僕は少しためらった。
少し不安そうにこちらを見てくる『ちびっ子』を安心させることができないことだから。
でも、知っておかないといけないことだから、言うしかない。

「『ちびっ子』を帰してから、少し話したんだ。それで、あの女はロザリオを介して大魔協の奴に身体を乗っ取られて…………死んだ。
本人自体はいい人だったんだけど、弱みにつけいられて、死んだんだ」
「………リュークたちも、そうなの?」

鋭い指摘に、僕は笑うしかなかった。
それに、『も』というのは、僕だけじゃなくて、『クレア』も含まれているからなんだろう。
僕はひとつ、控えめに頷いた。
君の昔話をしてもいいのかわからないけど……聞かれたからには仕方ないよね。

「僕も『クレア』も、親とか兄妹の命が危なくて、貧しい分、稼がないといけなかった。
そこで、大魔協にほぼ同時期に拾われたんだ。だから、このロザリオは僕のやつ」

『ちびっ子』は忌々しそうにロザリオを見て話を聞いている。
僕もこれは持っていたくないけど、何かと使えるからずっと持っている。

「さて、本題はここからなんだけど。
昨日の一件で、僕だけならよかったんだけど、『ちびっ子』まで目をつけられたんだ」
「………リューク、私も言わないといけないことがあるんだけど」

僕が申し訳なく思って話すと、『ちびっ子』は驚くよりも、僕みたいに申し訳なさそうな顔をした。
どうしてだろうか。
僕は『ちびっ子』に発言を促した。

「私、結構前からもう狙われてるんだ……大魔協に。昔、捕まったことがあって」

そこまで言われて、僕は驚いて席を立ってしまった。
『ちびっ子』の顔を両手で挟んで自分のほうに向けて、覗き込む。
僕の突然の行動に『ちびっ子』が目を丸めているのがよくわかる。

あそこは非人道的なことしかしない。
『ちびっ子』が、あの国で受けた以上のことを体に刻み込まれていないか、確認するためだった。

「………ない?」

ただ、ひと通り見て、目立った外傷がないことに驚いた。
ひどい傷は見当たらない。
僕や『クレア』でさえ『教え』と称して受けた傷があるのに。
僕がとても驚いているのを見て、なんとなくわかったのか、『ちびっ子』は僕の両手に手をかけて顔から離した。

「多分、『教え』のことだよね?私は受けてないよ。
捕まったときに、魔力暴走を起こして身体がすごく弱ってて……………代わりに別の人が受けてくれたんだ」

『ちびっ子』は罪悪感を募らせた顔をして、昔に思いを馳せているみたいだった。
魔力暴走を起こしたのはすごく心配だけど、それで傷ができなかったなら、幸運と言うべきかもしれない。
僕はようやく安心して席に戻った。

「ごめん……僕も『クレア』も受けていたから、もし受けていたらって思って。
少し脱線したけど……『ちびっ子』は前から狙われてるって言ったね。いつから?」

僕の質問に『ちびっ子』はまた複雑な顔をして答えた。

「5年前に1回、襲撃を受けたことがあったけど、それ以来なくて。
そこから……フレンティアにいたときだから、2ヶ月くらい前?に大魔協と対峙して、ここに来るひとつ前の国でも……顔は見てないけど対峙したと思う。
2人ともピアスが特徴的だったから」
「あぁ……『これ』ね」

『ちびっ子』が指を指した先にある、僕の右耳についたサファイアのピアスに少し触れた。

大魔協はみんなほぼ同じ見た目だから、特徴的と言われればそうだ。
連絡手段として使われているこのピアスは、大魔協に生涯を捧げるために取れない仕組みになっている。
位置情報の特定もこれでできるらしいけど、僕は逃亡生活が始まったときにそれを聞いて魔法陣を書き換えたから、多分大丈夫だと思う。
結構簡単に書き換えられる魔法陣だったから、信仰心の強さから不審に思って書き換えたりしないとでも考えたんだろうな。
多分、『クレア』が見つかったのも、このピアスが原因なのかもしれない。

それにしても、5年前にも、それについ最近にも狙われているなんて思いもしなかった。
あいつの言っていた通り、無詠唱で複数属性なところがおいしいのかもしれない。
あのクソみたいな貸出制度にはうってつけだし。

「………それなら、わかると思うけど。本当に大魔協は危ない。
せっかく来たのに申し訳ないけど……目をつけられた分、外出は最低限にして、出るときはフードをする以外に外見も僕みたいに変えて出たほうがいい。それで早く帰ってくる」
「……うん、そうだね。アナスタシアに近づくほど、危険が増すのは知っていたからこれくらいは我慢できるよ」

『ちびっ子』は僕の忠告にへらりと笑った。
僕が知らない間に、色々と苦難を通ってきたと思うと、守ってやれなかった罪悪感がまた押し寄せてくる。

まだ、15歳だ。
本当ならもっと気兼ねなく外で遊んで、友達と交流したりする時期のはずだ。
『ちびっ子』の人生は、狂いすぎている。


「ねえ、リューク。気になっていたんだけど」

僕が『ちびっ子』の不遇を思っていると、ふと、切り出された。
驚いて顔を見上げると、『ちびっ子』は本当に気になった様子を見せていた。
一体何が気になっているのだろうか。
僕が首を傾げてみせると、『ちびっ子』は気になっていることを教えてくれた。

「リュークは、ここに来る前に連絡したとき、ツィーシャにいるって言うから、なんでなんだろうって……。
リュークを狙ってる人たちがすぐ近くにいる場所に身を置くのはどうしてなんだろうって、ずっと思ってて。
……私は大魔協からツィーシャを守るためなのかなって思ってるんだけど、他に理由があったりする?」

その表情にはとても心配が募っていた。
そういえば、連絡してここにいるって言ったとき心底驚いてた気がする。
たしかに、ツィーシャは北に領土の大きい一国を挟んですぐの場所に、北方でグラントに次ぐ大国、イェルガが待っている。
イェルガは大魔協の本部があると同時に、僕の出身地でもあって、僕はあそこから狙われている。
逃げてまでどうしてこんな命を投げ出すような場所にいるのか、知りたいんだろう。

「この国は、本当にアナスタシアと似てる状況に陥り出してる。確かに大魔協から前の二の舞にならないように守りたいとは思ってるよ。悪いところじゃないし。
他に理由があるとしたら………前座、みたいな?」
「………前座?」

僕の言葉に『ちびっ子』は見当がつかない顔をした。
僕はそのまま続けた。

「僕は──────大魔協を終わらせたいんだ。たくさんの人生を無下にして、私利私欲に走っているあの馬鹿らしい協会を、この手で壊したいんだ。
この数年間、ずっと、そのためだけに魔法を練習してきてる。

少し、言い方が悪いかもしれないけど……遅かれ早かれ、大魔協はここに侵攻してくる。そのときに、僕はここの国民を守って、打撃を与えてやりたい。大魔協に対抗できる勢力の反撃はこれが始まりだって、感じさせたいんだ。

決して、ここを自分の復讐のための舞台にしたいわけじゃないけど、絶好の機会だとは思ってる」

「復讐……が、リュークの生きる目的?」

『ちびっ子』は飲み物がまだ少し入ったコップを握りしめて、僕のほうを見た。

生きる目的、と言われて、それさえ果たされれば死んでもいい、とも取れるくらいに僕の肩に重くのしかかった。
それくらい、『ちびっ子』は真剣な顔つきをしていた。

「…………そうだよ」

僕はその言葉を言うだけで精一杯だった。


─────僕は復讐しただけで満足できるのだろうか。

そんな疑問が頭をよぎったから。
漠然と、ただ痛い目を見せたいと考えていたから、その先のことは考えたことがなかった。




「………リューク、『クレア』との話をしてもいい?」


迷いが生じた僕を察したのか、そうでもないのか。
それはあまりにも唐突で、僕は返事をすることも忘れて『ちびっ子』を見た。
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