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2章 魔法の国ルクレイシア
自己紹介 (セイルクside)
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「名前と年齢と魔法属性、あとは質問で補いつつ……という形の自己紹介でいいですか?」
指を一本ずつ立てて自己紹介で言う内容を説明したフードの女、クレアが俺に聞いてきた。
こいつを黙らすために適当言ったせいで自己紹介する羽目になった。
まぁ、質問で答えてもらえるなら色々聞けて都合がいい。
さっきのことだって聞きたいからな。
俺は黙って頷いて口を開いた。
「俺が先に自己紹介する」
俺が先に言うことが意外だったのか、少しの間沈黙が流れた。
我に返ったのか、クレアは「お願いします」と俺に順番を譲った。
一度息をついてから淡々と自分のことを述べた。
「名前はセイルク。………セイルク=オルフェン。
歳は今年で15になった。属性は風」
何の無駄話もなくただ必要な内容だけを述べると、クレアは控えめに手を挙げて質問した。
「色々質問しますね。魔力量はどれくらいなんですか?」
「学校でやった測定だと1,000点中800手前で、国内だとトップ50くらい」
こいつに基準を言っても伝わるのかわからないが一応言ってみると、頷いて考え込んでいた。
どっちだよ。
【測定】
ルクレイシアでは毎年全国民が対象になっていて、誤差がないように全て同じ機械で行う。
魔力量の他に、国内ランクや属性が一緒になって結果で出てくる。
測定は北方ではやっておらず、普及していないため、魔力を数値化するのはこの国特有で、観光がてら測定する人もいる。
そのため数値を信用して、国外で自分の力がどれだけ通用するかわからないまま出ることになる点が、ひとつ不安なところである。
それから俺はいくつかの質問に答えた。
国立魔法使い養成学校に特待生で通っていること。
魔力コントロールが未熟なこと。
攻撃系が得意で防御系や支援系はあまり使えないこと。
他人を浮かすことはできても、自分を浮かせられないこと。
先生には魔力コントロールを教えてもらっていたが、依頼から帰ってきた途端断られるようになったこと。
「それじゃあ、毎日ハシュアさんのもとへ通っていたのは」
「……あぁ、また教えてもらうためだ。でも、もう行かない」
店を出る前、俺が謝ったらまた教えてもらえるか聞いた。
あのときの先生の顔が、ずっと頭から離れない。
申し訳なさと悔しさと、葛藤が入り混じったような顔。
いつも優しく笑いかけてくれた先生が、帰ってきてからはずっと、呆れた顔か怒った顔しか見てこなかった。
俺が何かしてしまったのか、それとも外を見て俺がしょぼいと思ったのか、わからない。
それでも毎日怒って追い返すだけで、俺を引き取った人と違って暴力を振るったり魔法を使ったりして追い出さなかった。
だからきっと俺が悪いことをしたから教えてもらえないだけで、認めてもらえればまた教えてくれると思ってた。
けど、あの顔は知らない。
笑って「いいだろう」と言ってくれると思ってたからこそ、辛かった。
どうして先生がそんな顔をするんだと言いそうになって、逃げるようにしてこいつを追いかけてきた。
俺が黙ると、沈黙が流れる。
さっきまで質問攻めしていたのが嘘かのように何も言わなくなった。
踏み込んでこないだけありがたい。
俺は促すようにクレアに手で合図した。
気づいたクレアが自己紹介を始めた。
「クレアです。クレア=モルダナティス。歳は今年で15歳になりました。
属性はぜん………氷ですが他も少しなら使えます。
あとは……魔力量は数値化したことがないのでわかりませんが、魔力暴走を抑えたときの感じからしてセイルクさんよりはあると思います」
クレアは魔力量に関して言及して自己紹介を終えると、俺の質問を待つ形になった。
確かに魔力暴走を抑えるくらいなら、俺より高くないとおかしいか。
俺はすぐに質問に移った。
「同い年ならタメでいいだろ。あと、セイルクでいい。
質問に移るが……まず俺が教えてほしかった『飛行』は使えるのか?」
「少し種類が違うかもしれませんが……使えますよ」
「使える」
「えっ?」
タメでいいって言ったの忘れたのかこいつ……。
「敬語使うな。俺も庶民っていうか孤児だし、そんな言葉使われる身分じゃない」
「あ……はい、じゃなくて、うん」
もしかしたら敬語口癖なのかもしれないな。
ちょっと悪いことしたか?
俺は気を取り直して質問する。
「ずっと顔を隠してるのは?」
「西に行くほど、私を探している人がいるからで、かな」
「西に行く理由は?」
「人と会う約束をしてるの。ずっと待ってくれてるから会いに行きたくて」
「出身は?」
「………ここよりずっと西にあったアナスタシア王国」
前にも話したなというようにするすると答えていたクレアが少しためらったのは、出身がアナスタシア王国だからか。
アナスタシア王国は7年前に滅亡した国で、当時は色々話題になっていた。
国の要が逃げたとか、クーデタだとか、魔法使いを探してるとか。
7年も前だからあまり覚えていないが、いい記憶はない。
ためらうのも当然、か。
少し微妙な空気が流れる中で一番聞きたかったことを質問した。
「─────魔法文字を読めないのに、どうして魔法が使えるんだ?」
クレアの肩が震えた気がした。
さっきは躱されたが、魔法文字が読めないと言ったのはクレアの方だ。
教えてもらわないと困る。
ここでまた口を挟むと言わないと思って俺が黙っていると、クレアは根負けしたようでため息をついた。
「……魔法文字を習う機会がなかったと言ったけど、私は魔法文字を習うより前に魔法が使えたの。
『凍れ』と言えば凍ったし、『氷柱』と言えば氷柱が出た。
だから習う機会がなかったし、初めて魔法文字を習ったときは2、3年くらい前だったけど……まったく読めなかった」
つまり、クレアは他の魔法使いが必ず通る魔法文字を飛ばして魔法を使えたということ。
そんなやつがいるなんて、俺は知らなかった。
昨日俺が手品だと馬鹿にしたのも、魔法だったなんて信じられなかった。
誰だって魔法文字の詠唱で魔法文字を使った魔法陣を出して放つのが『普通』だ。
それなのにクレアは言ったら魔法が使える。
魔法文字も読めないのに、俺より魔力が高くて、俺のできない『飛行』が使える。
クレアは『異常』だ。
そんな『異常』なやつに俺は教えを乞おうとしているのか?
信じられない。
俺は探るように質問する。
「……魔法陣には魔法文字が使われるはずだ。魔法陣を使ってないのか?」
「魔法陣は使うよ。言ったら出てくるところは同じだから。
ただ、私の魔法陣に魔法文字は入ってない。
みんなが使う魔法陣から魔法文字を抜いて、その部分を純粋な線だけで構成し直してる感じかな」
「威力が落ちたりしないのか?」
「昔比較したことがあるけど、まったく同じだよ。魔法陣は中身の緻密さが重要視されるから、魔法文字でも線でもよかったみたい」
聞けば聞くほど本当なのか疑いたくなる。
クレアは察したのか、すっと立ち上がって部屋の真ん中に立った。
ちらり、と一度俺を見てから地面に手をかざした。
『氷像』
クレアが一言そう言うと、クレアの足もとを中心にこの部屋の地面いっぱいに魔法陣が現れた。
見てみると、たしかに魔法文字はひとつも見当たらず、ただただ幾何学模様が何重にも調和して緻密に存在しているだけだった。
青白く光った魔法陣から少しずつ氷の像が現れてきて、本当に魔法を使ったということを証明していた。
氷の像の全体が出ると、クレアは指を鳴らして像を跡形もなく消し去った。
何もかも規格外な魔法に、「魔法」を見ている気分になる。
俺の知る魔法とは違いすぎる。
戻ってきたクレアは俺の目の前に座って口を開いた。
「私に教えてもらう気はなくなりましたか」
それは俺が今まさに考えていたことで意表をつかれた。
ただ魔法が使えることを証明したいだけだと思っていた。
今の言い方だと俺が自分で要求を断らせるためにわざと見せたことになる。
どうしてわかったのだろうか。
俺が驚いているのを見て、クレアはため息をついた。
「この国は、『思い込み』が激しいので仕方ないです」
クレアは立ち上がって部屋の扉に手をかけた。
出ていく前に、ぼう然と見ている俺を振り返る。
「北に、氷と風が得意な魔法使いを知っています。紹介してほしかったら言ってください」
パタン
クレアは一言告げてその場を後にした。
敬語に戻っていたことに気づいたのはそのときだった。
俺は、クレアに教えを断られた。いや、なしにした。
最後まで顔は見えなかったが、声が震えていたのは気のせいではない。
「……思い込み?」
俺はクレアの言葉を考え込んでいた。
雪はさらに勢いを強めていた。
指を一本ずつ立てて自己紹介で言う内容を説明したフードの女、クレアが俺に聞いてきた。
こいつを黙らすために適当言ったせいで自己紹介する羽目になった。
まぁ、質問で答えてもらえるなら色々聞けて都合がいい。
さっきのことだって聞きたいからな。
俺は黙って頷いて口を開いた。
「俺が先に自己紹介する」
俺が先に言うことが意外だったのか、少しの間沈黙が流れた。
我に返ったのか、クレアは「お願いします」と俺に順番を譲った。
一度息をついてから淡々と自分のことを述べた。
「名前はセイルク。………セイルク=オルフェン。
歳は今年で15になった。属性は風」
何の無駄話もなくただ必要な内容だけを述べると、クレアは控えめに手を挙げて質問した。
「色々質問しますね。魔力量はどれくらいなんですか?」
「学校でやった測定だと1,000点中800手前で、国内だとトップ50くらい」
こいつに基準を言っても伝わるのかわからないが一応言ってみると、頷いて考え込んでいた。
どっちだよ。
【測定】
ルクレイシアでは毎年全国民が対象になっていて、誤差がないように全て同じ機械で行う。
魔力量の他に、国内ランクや属性が一緒になって結果で出てくる。
測定は北方ではやっておらず、普及していないため、魔力を数値化するのはこの国特有で、観光がてら測定する人もいる。
そのため数値を信用して、国外で自分の力がどれだけ通用するかわからないまま出ることになる点が、ひとつ不安なところである。
それから俺はいくつかの質問に答えた。
国立魔法使い養成学校に特待生で通っていること。
魔力コントロールが未熟なこと。
攻撃系が得意で防御系や支援系はあまり使えないこと。
他人を浮かすことはできても、自分を浮かせられないこと。
先生には魔力コントロールを教えてもらっていたが、依頼から帰ってきた途端断られるようになったこと。
「それじゃあ、毎日ハシュアさんのもとへ通っていたのは」
「……あぁ、また教えてもらうためだ。でも、もう行かない」
店を出る前、俺が謝ったらまた教えてもらえるか聞いた。
あのときの先生の顔が、ずっと頭から離れない。
申し訳なさと悔しさと、葛藤が入り混じったような顔。
いつも優しく笑いかけてくれた先生が、帰ってきてからはずっと、呆れた顔か怒った顔しか見てこなかった。
俺が何かしてしまったのか、それとも外を見て俺がしょぼいと思ったのか、わからない。
それでも毎日怒って追い返すだけで、俺を引き取った人と違って暴力を振るったり魔法を使ったりして追い出さなかった。
だからきっと俺が悪いことをしたから教えてもらえないだけで、認めてもらえればまた教えてくれると思ってた。
けど、あの顔は知らない。
笑って「いいだろう」と言ってくれると思ってたからこそ、辛かった。
どうして先生がそんな顔をするんだと言いそうになって、逃げるようにしてこいつを追いかけてきた。
俺が黙ると、沈黙が流れる。
さっきまで質問攻めしていたのが嘘かのように何も言わなくなった。
踏み込んでこないだけありがたい。
俺は促すようにクレアに手で合図した。
気づいたクレアが自己紹介を始めた。
「クレアです。クレア=モルダナティス。歳は今年で15歳になりました。
属性はぜん………氷ですが他も少しなら使えます。
あとは……魔力量は数値化したことがないのでわかりませんが、魔力暴走を抑えたときの感じからしてセイルクさんよりはあると思います」
クレアは魔力量に関して言及して自己紹介を終えると、俺の質問を待つ形になった。
確かに魔力暴走を抑えるくらいなら、俺より高くないとおかしいか。
俺はすぐに質問に移った。
「同い年ならタメでいいだろ。あと、セイルクでいい。
質問に移るが……まず俺が教えてほしかった『飛行』は使えるのか?」
「少し種類が違うかもしれませんが……使えますよ」
「使える」
「えっ?」
タメでいいって言ったの忘れたのかこいつ……。
「敬語使うな。俺も庶民っていうか孤児だし、そんな言葉使われる身分じゃない」
「あ……はい、じゃなくて、うん」
もしかしたら敬語口癖なのかもしれないな。
ちょっと悪いことしたか?
俺は気を取り直して質問する。
「ずっと顔を隠してるのは?」
「西に行くほど、私を探している人がいるからで、かな」
「西に行く理由は?」
「人と会う約束をしてるの。ずっと待ってくれてるから会いに行きたくて」
「出身は?」
「………ここよりずっと西にあったアナスタシア王国」
前にも話したなというようにするすると答えていたクレアが少しためらったのは、出身がアナスタシア王国だからか。
アナスタシア王国は7年前に滅亡した国で、当時は色々話題になっていた。
国の要が逃げたとか、クーデタだとか、魔法使いを探してるとか。
7年も前だからあまり覚えていないが、いい記憶はない。
ためらうのも当然、か。
少し微妙な空気が流れる中で一番聞きたかったことを質問した。
「─────魔法文字を読めないのに、どうして魔法が使えるんだ?」
クレアの肩が震えた気がした。
さっきは躱されたが、魔法文字が読めないと言ったのはクレアの方だ。
教えてもらわないと困る。
ここでまた口を挟むと言わないと思って俺が黙っていると、クレアは根負けしたようでため息をついた。
「……魔法文字を習う機会がなかったと言ったけど、私は魔法文字を習うより前に魔法が使えたの。
『凍れ』と言えば凍ったし、『氷柱』と言えば氷柱が出た。
だから習う機会がなかったし、初めて魔法文字を習ったときは2、3年くらい前だったけど……まったく読めなかった」
つまり、クレアは他の魔法使いが必ず通る魔法文字を飛ばして魔法を使えたということ。
そんなやつがいるなんて、俺は知らなかった。
昨日俺が手品だと馬鹿にしたのも、魔法だったなんて信じられなかった。
誰だって魔法文字の詠唱で魔法文字を使った魔法陣を出して放つのが『普通』だ。
それなのにクレアは言ったら魔法が使える。
魔法文字も読めないのに、俺より魔力が高くて、俺のできない『飛行』が使える。
クレアは『異常』だ。
そんな『異常』なやつに俺は教えを乞おうとしているのか?
信じられない。
俺は探るように質問する。
「……魔法陣には魔法文字が使われるはずだ。魔法陣を使ってないのか?」
「魔法陣は使うよ。言ったら出てくるところは同じだから。
ただ、私の魔法陣に魔法文字は入ってない。
みんなが使う魔法陣から魔法文字を抜いて、その部分を純粋な線だけで構成し直してる感じかな」
「威力が落ちたりしないのか?」
「昔比較したことがあるけど、まったく同じだよ。魔法陣は中身の緻密さが重要視されるから、魔法文字でも線でもよかったみたい」
聞けば聞くほど本当なのか疑いたくなる。
クレアは察したのか、すっと立ち上がって部屋の真ん中に立った。
ちらり、と一度俺を見てから地面に手をかざした。
『氷像』
クレアが一言そう言うと、クレアの足もとを中心にこの部屋の地面いっぱいに魔法陣が現れた。
見てみると、たしかに魔法文字はひとつも見当たらず、ただただ幾何学模様が何重にも調和して緻密に存在しているだけだった。
青白く光った魔法陣から少しずつ氷の像が現れてきて、本当に魔法を使ったということを証明していた。
氷の像の全体が出ると、クレアは指を鳴らして像を跡形もなく消し去った。
何もかも規格外な魔法に、「魔法」を見ている気分になる。
俺の知る魔法とは違いすぎる。
戻ってきたクレアは俺の目の前に座って口を開いた。
「私に教えてもらう気はなくなりましたか」
それは俺が今まさに考えていたことで意表をつかれた。
ただ魔法が使えることを証明したいだけだと思っていた。
今の言い方だと俺が自分で要求を断らせるためにわざと見せたことになる。
どうしてわかったのだろうか。
俺が驚いているのを見て、クレアはため息をついた。
「この国は、『思い込み』が激しいので仕方ないです」
クレアは立ち上がって部屋の扉に手をかけた。
出ていく前に、ぼう然と見ている俺を振り返る。
「北に、氷と風が得意な魔法使いを知っています。紹介してほしかったら言ってください」
パタン
クレアは一言告げてその場を後にした。
敬語に戻っていたことに気づいたのはそのときだった。
俺は、クレアに教えを断られた。いや、なしにした。
最後まで顔は見えなかったが、声が震えていたのは気のせいではない。
「……思い込み?」
俺はクレアの言葉を考え込んでいた。
雪はさらに勢いを強めていた。
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