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2章 魔法の国ルクレイシア
冷え (セイルクside)
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雪が止まずにこのままひどくなりそうだと思った俺は、もう帰ろうと図書館を出た。
来たときより積もって視界も悪い。
北寄りのルクレイシアでは冬に雪が降りやすいが、一応区分としては中央なだけあって、少し積もるくらいが普通だ。
だから今日の雪はルクレイシアの人間にとっても異常気象だ。
俺は図書館を出てすぐの分かれ道で止まった。
右に行けば学校の寮へ、左に行けばオルフェン家へ行く。
距離的にはオルフェン家の方が近いが、あの家に俺の居場所はない。
寮に帰ればあの人たちはいないが……。
どっちにしろ、面倒なことに変わりはない。
俺は憂鬱な気分で右へ歩みを進めた。
【ルクレイシア第一国立魔法使い養成学校】
文字通り、魔法使いを養成するための六年制学校。
毎年行われる魔力検査で同年代を等級ごとに区別して、第一から第九までの養成学校に強制的に入学させられる。
第一から第五学校までは寮が備え付けられ、学生は全員部屋を持っているが使用は自由となっている。
学費は全額免除で、魔力のみで振り分けられるため、あらゆる身分の国民がいることになる。
しかし、身分差別をする者は少なく、尊重し合う者の方が多い。
差別の根源はいつでも『魔法』である。
大雪の中でなんとかして寮に着いた俺は、入る前に自分についた雪をできるだけ落とす。
雪を払うと、少し大きな音を立てて地面に落ちていく。
雪で濡れた制服が冷たくて、思わず身震いすると、俺はすぐに中に入った。
保温の魔法が作動していて中は十分に暖かい。
エントランスから少し歩いて談話室へ入ると、先客がいた。
焦茶色の長い前髪の間からのぞく紺色の瞳が俺の姿を捉えた。
俺を視認した瞳は冷え切っていた。
暖炉の前の特等席から立ち上がった彼女は、毛布がわりにしていた自分のローブを腕にかけた。
「今日も飽きずに『先生』とやらに押しかけにいったの?」
「……あぁ」
俺を見ることなく話しかけてくる彼女、ミュゼは「ふーん」と言ってテーブルの紅茶を片付ける。
この時間はいつもミュゼが談話室で読書をすることを忘れていた俺が気まずい顔で立っていると、ミュゼは俺の目の前に立った。
「3年も通い続けて、いい迷惑なんじゃない?その人のためにも、いい加減諦めなよ」
俺を見上げる形で言ってきたミュゼの言葉は、ひどく重かった。
今日の先生の顔が忘れられない。
心の底ではもしかしたら、と思っていたものがすべて崩れ去っていくような感覚がした。
やっぱり、迷惑だったのか。
「……今日で辞めたからもう行かねぇよ」
俺がぽつりと呟くと、ミュゼは信じられない顔をして俺を見た。
「は?本当に?」
「そうだよ。……お前、なんなの」
「なんなのはこっちの台詞だから。
今まで啖呵切ってたくせに、新しい『先生』でも見つけた?」
ミュゼはことあるごとに俺を馬鹿にしてくる。
先生のもとに通い続けていたこと、魔力のコントロールが上手くいかないこと、風属性の魔法使いならできて当たり前の『飛行』ができないこと。
俺が魔法で取れない部分の点を座学で主席をとることで補ってることを、次席のミュゼはよく思っていない。
ただ、馬鹿にしてくるにしても今日みたいにしつこくない。
すれ違いざまに言ってくるだけで、いつもは俺がもっと噛みついてた。
でも、今日は疲れた。
新しい『先生』という言葉で最初に浮かんだのはクレアだった。
クレアなら教えてくれるんじゃないかと思った。
属性は違えど使えると言ったから使えるんだろう。
去り際、壁をつくられたことさえどうにかなれば、教えてくれるだろうか。
疲れた頭では何かをしっかり考えるのはとても面倒で、俺は詰め寄ってくるミュゼと目を逸らした。
「……そう思っとけ」
それだけ言って、俺は談話室を後にした。
暖まるつもりが心が冷えてしまった。
部屋に戻った俺はすぐにベットの上で横になった。
魔力暴走を起こしたし、先生のもとには行かないと言ったし、クレアに謝ったけどまた傷つけた。
今日は散々だった。
明日は学校がある。
早く寝て学校を終えたら、クレアに会いに行こうと、俺は瞼を閉じた。
来たときより積もって視界も悪い。
北寄りのルクレイシアでは冬に雪が降りやすいが、一応区分としては中央なだけあって、少し積もるくらいが普通だ。
だから今日の雪はルクレイシアの人間にとっても異常気象だ。
俺は図書館を出てすぐの分かれ道で止まった。
右に行けば学校の寮へ、左に行けばオルフェン家へ行く。
距離的にはオルフェン家の方が近いが、あの家に俺の居場所はない。
寮に帰ればあの人たちはいないが……。
どっちにしろ、面倒なことに変わりはない。
俺は憂鬱な気分で右へ歩みを進めた。
【ルクレイシア第一国立魔法使い養成学校】
文字通り、魔法使いを養成するための六年制学校。
毎年行われる魔力検査で同年代を等級ごとに区別して、第一から第九までの養成学校に強制的に入学させられる。
第一から第五学校までは寮が備え付けられ、学生は全員部屋を持っているが使用は自由となっている。
学費は全額免除で、魔力のみで振り分けられるため、あらゆる身分の国民がいることになる。
しかし、身分差別をする者は少なく、尊重し合う者の方が多い。
差別の根源はいつでも『魔法』である。
大雪の中でなんとかして寮に着いた俺は、入る前に自分についた雪をできるだけ落とす。
雪を払うと、少し大きな音を立てて地面に落ちていく。
雪で濡れた制服が冷たくて、思わず身震いすると、俺はすぐに中に入った。
保温の魔法が作動していて中は十分に暖かい。
エントランスから少し歩いて談話室へ入ると、先客がいた。
焦茶色の長い前髪の間からのぞく紺色の瞳が俺の姿を捉えた。
俺を視認した瞳は冷え切っていた。
暖炉の前の特等席から立ち上がった彼女は、毛布がわりにしていた自分のローブを腕にかけた。
「今日も飽きずに『先生』とやらに押しかけにいったの?」
「……あぁ」
俺を見ることなく話しかけてくる彼女、ミュゼは「ふーん」と言ってテーブルの紅茶を片付ける。
この時間はいつもミュゼが談話室で読書をすることを忘れていた俺が気まずい顔で立っていると、ミュゼは俺の目の前に立った。
「3年も通い続けて、いい迷惑なんじゃない?その人のためにも、いい加減諦めなよ」
俺を見上げる形で言ってきたミュゼの言葉は、ひどく重かった。
今日の先生の顔が忘れられない。
心の底ではもしかしたら、と思っていたものがすべて崩れ去っていくような感覚がした。
やっぱり、迷惑だったのか。
「……今日で辞めたからもう行かねぇよ」
俺がぽつりと呟くと、ミュゼは信じられない顔をして俺を見た。
「は?本当に?」
「そうだよ。……お前、なんなの」
「なんなのはこっちの台詞だから。
今まで啖呵切ってたくせに、新しい『先生』でも見つけた?」
ミュゼはことあるごとに俺を馬鹿にしてくる。
先生のもとに通い続けていたこと、魔力のコントロールが上手くいかないこと、風属性の魔法使いならできて当たり前の『飛行』ができないこと。
俺が魔法で取れない部分の点を座学で主席をとることで補ってることを、次席のミュゼはよく思っていない。
ただ、馬鹿にしてくるにしても今日みたいにしつこくない。
すれ違いざまに言ってくるだけで、いつもは俺がもっと噛みついてた。
でも、今日は疲れた。
新しい『先生』という言葉で最初に浮かんだのはクレアだった。
クレアなら教えてくれるんじゃないかと思った。
属性は違えど使えると言ったから使えるんだろう。
去り際、壁をつくられたことさえどうにかなれば、教えてくれるだろうか。
疲れた頭では何かをしっかり考えるのはとても面倒で、俺は詰め寄ってくるミュゼと目を逸らした。
「……そう思っとけ」
それだけ言って、俺は談話室を後にした。
暖まるつもりが心が冷えてしまった。
部屋に戻った俺はすぐにベットの上で横になった。
魔力暴走を起こしたし、先生のもとには行かないと言ったし、クレアに謝ったけどまた傷つけた。
今日は散々だった。
明日は学校がある。
早く寝て学校を終えたら、クレアに会いに行こうと、俺は瞼を閉じた。
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