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2章 魔法の国ルクレイシア
魔物討伐3:クレアは強い魔法使い (セイルクside)
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雪は激しくなることなく、ただ一定に、しんしんと降り続けていた。
ちょうど昼も近かったことと、奥に行くのもこの天気では不利になると俺が判断したことで、一時の休息を取ることになった。
クレアは亜空間から小型魔石を取り出して結界を展開した。
結界は魔物はもちろん雪をも弾く、使用者が許可したものしか入れない仕様になっているらしく、クレアのすごさをまた思い知った。
座れそうな木の株に腰を下ろすと、クレアが亜空間の収納から何かを探しながら口を開いた。
「それにしても……Eランクがほとんどだけど、50体くらいは狩ったね。評価はよくなりそう?」
俺はクレアに言われて、もうそんなに狩ったのかと思った。
去年は終了近くで50体を狩ったからだ。
少し信じられなくて、配布されている魔石で確認すると、確かに俺が狩った魔物は50体を超えていた。
そのほとんどがEランクだが、評価は去年より期待できる。
俺はクレアを見て答える。
「今年は数も強さも違うから、その分Eでも十分高い評価がもらえると思う」
「そっか。じゃああとは怪我なく終わりたいね」
クレアはそう言って亜空間からすぐに食べられるような簡易的なものを取り出した。
錠剤みたいなもので、足りるのかは不思議だが、何も言わずに食べ始めたのを見て俺も持ってきていた携帯食を食べることにした。
討伐開始から3刻が経って、改めてクレアは本当に強い魔法使いだと実感した。
パートナーとして俺に大抵の狩りを任せてくれる反面、俺の属性だと苦手な魔物である鳥型などの飛行する魔物や、背後からの急襲などはクレアがすぐに対処してくれる。
雪が降る直前に狩った鳥型の魔物は、クレアはいとも簡単に狩っていたが、あれはCランク──今回の討伐範囲で1番高いランクだ。
まるでそれ以上のランクの魔物をいつも相手にしているように、雑魚を処理するような魔法に驚いてしまった。
もしかして、討伐の経験があるのだろうか。
思わず気になってしまい、俺はクレアに質問していた。
「なぁ、クレアは魔物を狩るのに慣れてるんだな。魔物討伐は今回が初めてじゃないのか?」
俺の質問にクレアは食べる手を止めた。
そして、少しの間沈黙を置いて答えてくれた。
「………そうだね。私は北方に住んでいた時期があったから、その間に2回くらい討伐は行ったことがあるんだよ」
「北方……」
クレアの答えに俺は色々と合点がいった。
クレアの言う北方があの、グラント公国なら、これだけ強い魔法使いなのも頷けるからだ。
俺はまた思わず質問していた。
「北方はここよりも魔法が発達してるから、クレアはそんなに強くなったのか?」
「え?」
何が不思議だったのか、クレアは驚いたように俺の方を向いて聞き返してきた。
俺が首を傾げると、クレアは「わかりやすく言ってほしいな……」と困惑気味な声で言ってきた。
これ以上に言うことはない気がすると思いながらも、俺は考えて言葉を紡いだ。
「クレアの魔法は強いから、北方といえばグラント公国だし。魔法使いだらけで魔法でできた国なんだろ?それならたくさん関わりもあるだろうし、魔法も上達するもんだと思って」
言い直した言葉でなんとか伝わったのか、クレアは少し笑った。
「確かにグラント公国に住んでいたけど、グラント公国は魔法使いと言うよりは魔法騎士の方が多いよ。それに、魔法でできた国っていうのは語弊があるかな」
「そうなのか?」
ルクレイシアが「第二のグラント」と謳っていた時期があったから、てっきりグラント公国は何をするにつけても魔法で片付ける国だと思っていた。
それに、魔法騎士───魔法も剣術も兼ね備えたオールラウンダーの方が多いだなんて、初めて聞いた。
俺の方が今度は驚いていると、クレアは水を飲んで答えた。
「魔物の発生が一番と言っていいくらい多いから、みんながみんなを守り闘えるように鍛えられてるんだよ。
信じられないなら、自分の目で確かめに行ってみるといいよ」
クレアはさらりと言って、食べていた簡易食を亜空間にしまった。
みんながみんなを守り闘えるように。
その言葉はクレアの闘いぶりに出ている気がした。
やっぱり、クレアは北方で強くなったんだろう。
それに、自分の目で確かめに行くなんてことを考えたこともなかった。
クレアの話すグラント公国は俺が知ってるグラント公国と違った。
一生ここを出ずに生きていくと思っていたけれど、クレアみたいに旅をして、自分の目で見たものを信じるのもいいかもしれない。
俺のどこかに、何かが芽生えた気がした。
「さて、と。雪が止みそうにないし、終了まで半分くらい残ってるからもう少し狩りに行こうか」
食事を簡単に済ませて、体も休まり、クレアのひと言で討伐を再開した。
といっても、奥には進まずに戻りながらだ。
雪の中で奥に進んで、クレアが魔物を倒せても俺ができなきゃ意味がないし足手まといだ。1対多数で俺を抱えていたらクレアも不利になるかもしれない。
そう言った理由で俺たちは戻りながらの討伐を開始した。
そうして歩き出して数分のことだった。
「う、うわぁぁぁぁぁあああああ!!」
「だ、誰かっ、助けてくれぇぇぇ!!」
背後から恐怖に溢れた声が聞こえたと思うと、地面が震え上がるような足踏みが聞こえてきた。
俺は振り向いてすぐ、奥へ進まなくてよかったと思った。
俺たちの方へ助けを求める生徒とパートナーは体の至るところから血が流れていて、魔石が反応していないのが不思議なくらいの重症だった。
そして、その背後────地面が揺れる足踏みの正体である魔物が彼らのすぐ後ろまで迫ってきていた。
魔物は5メートルほどの巨体で、肩幅が大きいのか、周辺の木々がなぎ倒されている。体の周りが黒い何かで覆われていて、頭だと思われる部分も黒すぎてどんな顔かすらわからない。
どんどんと迫ってくる魔物に俺が固まっていると、クレアの手が俺の背中に触れた。
そのおかげで少し緊張が解けた俺は、かろうじてクレアを見ることができた。
「あの魔物は私が引きつける。
だから、セイルクはあの2人を保護して受付の方に連絡を飛ばして」
魔物の方に顔を向けながら話してくるクレアの言葉を理解して、俺はすぐに反論した。
「……は?引きつけるって……それじゃあクレアが危険すぎるだろ!」
俺が困惑してる間にも魔物はすぐそこまで迫ってきている。
早くどうにかしないといけないことはわかっていても、クレア1人では危険すぎる。
そんな俺の反論にクレアは少し笑った。
この状況で笑ってられるクレアはおかしい。
俺が何か言おうとすると、クレアが先に口を開いた。
「大丈夫。必ず死なずに倒す。
………魔物の気配がなくなったら、光の方向に走ってきて」
「それ、どういう───────」
グオォォォォォォオオオオオ!!
俺の言葉は魔物の雄叫びにかき消された。気づけば魔物はすぐそこまで来ていた。
「うわぁっ!!」
そのうちの1人が雪で滑って転ぶ。
逃げている彼らの顔に絶望が上乗せされていく。
魔物が大きく振り上げた手を彼らに向かって下ろそうとした瞬間。
『貫け───氷槍』
クレアの言葉に反応して、地面から現れた氷の槍が、魔物の手を貫いた。
グァァァァァァァァァァ………!!
攻撃が効いたのか、魔物が叫び、手を引くと、クレアは自分の体を浮かせて魔物の頭上まで上昇した。
魔物はクレアの存在を認めると、また大きく雄叫びを上げた。
「───行って!」
クレアは俺の方を見てそれだけを言うと、俺たちとは反対方向、森の奥の方へ向かって飛び始めた。
魔物もクレアを追いかけて奥の方へと歩みを進めていき、俺たちは九死に一生を得た。
クレアに言われたとおりに、俺は魔物から逃げてきた2人を魔石で連絡を入れてから『浮遊』で受付まで運んだ。
受付までくると、2人は俺に何度も礼を言いながら医務室へ運ばれていった。
俺は受付に頼んで高いところから森の方を見た。
クレアが光の方向に走ってきてと言っていたことを思い出して、必死に光を探す。
しかし、遠くであがる爆発音のようなものとそれによって上がる土や木々しか見えない。
今どこにクレアがいるのかもわからない。
一体どこにいるのかと必死に探す。
あれは違う。向こうも違う。どんなに探しても見つからない。
「クレア………っ」
俺が拳を握りながら森を必死に見ていると、一際目立つ金色の光が見えた。
冬の寒空が嘘かのような暖かい金色の光。
───あれだ。
俺は光へ向かってすぐに駆け出した。
ちょうど昼も近かったことと、奥に行くのもこの天気では不利になると俺が判断したことで、一時の休息を取ることになった。
クレアは亜空間から小型魔石を取り出して結界を展開した。
結界は魔物はもちろん雪をも弾く、使用者が許可したものしか入れない仕様になっているらしく、クレアのすごさをまた思い知った。
座れそうな木の株に腰を下ろすと、クレアが亜空間の収納から何かを探しながら口を開いた。
「それにしても……Eランクがほとんどだけど、50体くらいは狩ったね。評価はよくなりそう?」
俺はクレアに言われて、もうそんなに狩ったのかと思った。
去年は終了近くで50体を狩ったからだ。
少し信じられなくて、配布されている魔石で確認すると、確かに俺が狩った魔物は50体を超えていた。
そのほとんどがEランクだが、評価は去年より期待できる。
俺はクレアを見て答える。
「今年は数も強さも違うから、その分Eでも十分高い評価がもらえると思う」
「そっか。じゃああとは怪我なく終わりたいね」
クレアはそう言って亜空間からすぐに食べられるような簡易的なものを取り出した。
錠剤みたいなもので、足りるのかは不思議だが、何も言わずに食べ始めたのを見て俺も持ってきていた携帯食を食べることにした。
討伐開始から3刻が経って、改めてクレアは本当に強い魔法使いだと実感した。
パートナーとして俺に大抵の狩りを任せてくれる反面、俺の属性だと苦手な魔物である鳥型などの飛行する魔物や、背後からの急襲などはクレアがすぐに対処してくれる。
雪が降る直前に狩った鳥型の魔物は、クレアはいとも簡単に狩っていたが、あれはCランク──今回の討伐範囲で1番高いランクだ。
まるでそれ以上のランクの魔物をいつも相手にしているように、雑魚を処理するような魔法に驚いてしまった。
もしかして、討伐の経験があるのだろうか。
思わず気になってしまい、俺はクレアに質問していた。
「なぁ、クレアは魔物を狩るのに慣れてるんだな。魔物討伐は今回が初めてじゃないのか?」
俺の質問にクレアは食べる手を止めた。
そして、少しの間沈黙を置いて答えてくれた。
「………そうだね。私は北方に住んでいた時期があったから、その間に2回くらい討伐は行ったことがあるんだよ」
「北方……」
クレアの答えに俺は色々と合点がいった。
クレアの言う北方があの、グラント公国なら、これだけ強い魔法使いなのも頷けるからだ。
俺はまた思わず質問していた。
「北方はここよりも魔法が発達してるから、クレアはそんなに強くなったのか?」
「え?」
何が不思議だったのか、クレアは驚いたように俺の方を向いて聞き返してきた。
俺が首を傾げると、クレアは「わかりやすく言ってほしいな……」と困惑気味な声で言ってきた。
これ以上に言うことはない気がすると思いながらも、俺は考えて言葉を紡いだ。
「クレアの魔法は強いから、北方といえばグラント公国だし。魔法使いだらけで魔法でできた国なんだろ?それならたくさん関わりもあるだろうし、魔法も上達するもんだと思って」
言い直した言葉でなんとか伝わったのか、クレアは少し笑った。
「確かにグラント公国に住んでいたけど、グラント公国は魔法使いと言うよりは魔法騎士の方が多いよ。それに、魔法でできた国っていうのは語弊があるかな」
「そうなのか?」
ルクレイシアが「第二のグラント」と謳っていた時期があったから、てっきりグラント公国は何をするにつけても魔法で片付ける国だと思っていた。
それに、魔法騎士───魔法も剣術も兼ね備えたオールラウンダーの方が多いだなんて、初めて聞いた。
俺の方が今度は驚いていると、クレアは水を飲んで答えた。
「魔物の発生が一番と言っていいくらい多いから、みんながみんなを守り闘えるように鍛えられてるんだよ。
信じられないなら、自分の目で確かめに行ってみるといいよ」
クレアはさらりと言って、食べていた簡易食を亜空間にしまった。
みんながみんなを守り闘えるように。
その言葉はクレアの闘いぶりに出ている気がした。
やっぱり、クレアは北方で強くなったんだろう。
それに、自分の目で確かめに行くなんてことを考えたこともなかった。
クレアの話すグラント公国は俺が知ってるグラント公国と違った。
一生ここを出ずに生きていくと思っていたけれど、クレアみたいに旅をして、自分の目で見たものを信じるのもいいかもしれない。
俺のどこかに、何かが芽生えた気がした。
「さて、と。雪が止みそうにないし、終了まで半分くらい残ってるからもう少し狩りに行こうか」
食事を簡単に済ませて、体も休まり、クレアのひと言で討伐を再開した。
といっても、奥には進まずに戻りながらだ。
雪の中で奥に進んで、クレアが魔物を倒せても俺ができなきゃ意味がないし足手まといだ。1対多数で俺を抱えていたらクレアも不利になるかもしれない。
そう言った理由で俺たちは戻りながらの討伐を開始した。
そうして歩き出して数分のことだった。
「う、うわぁぁぁぁぁあああああ!!」
「だ、誰かっ、助けてくれぇぇぇ!!」
背後から恐怖に溢れた声が聞こえたと思うと、地面が震え上がるような足踏みが聞こえてきた。
俺は振り向いてすぐ、奥へ進まなくてよかったと思った。
俺たちの方へ助けを求める生徒とパートナーは体の至るところから血が流れていて、魔石が反応していないのが不思議なくらいの重症だった。
そして、その背後────地面が揺れる足踏みの正体である魔物が彼らのすぐ後ろまで迫ってきていた。
魔物は5メートルほどの巨体で、肩幅が大きいのか、周辺の木々がなぎ倒されている。体の周りが黒い何かで覆われていて、頭だと思われる部分も黒すぎてどんな顔かすらわからない。
どんどんと迫ってくる魔物に俺が固まっていると、クレアの手が俺の背中に触れた。
そのおかげで少し緊張が解けた俺は、かろうじてクレアを見ることができた。
「あの魔物は私が引きつける。
だから、セイルクはあの2人を保護して受付の方に連絡を飛ばして」
魔物の方に顔を向けながら話してくるクレアの言葉を理解して、俺はすぐに反論した。
「……は?引きつけるって……それじゃあクレアが危険すぎるだろ!」
俺が困惑してる間にも魔物はすぐそこまで迫ってきている。
早くどうにかしないといけないことはわかっていても、クレア1人では危険すぎる。
そんな俺の反論にクレアは少し笑った。
この状況で笑ってられるクレアはおかしい。
俺が何か言おうとすると、クレアが先に口を開いた。
「大丈夫。必ず死なずに倒す。
………魔物の気配がなくなったら、光の方向に走ってきて」
「それ、どういう───────」
グオォォォォォォオオオオオ!!
俺の言葉は魔物の雄叫びにかき消された。気づけば魔物はすぐそこまで来ていた。
「うわぁっ!!」
そのうちの1人が雪で滑って転ぶ。
逃げている彼らの顔に絶望が上乗せされていく。
魔物が大きく振り上げた手を彼らに向かって下ろそうとした瞬間。
『貫け───氷槍』
クレアの言葉に反応して、地面から現れた氷の槍が、魔物の手を貫いた。
グァァァァァァァァァァ………!!
攻撃が効いたのか、魔物が叫び、手を引くと、クレアは自分の体を浮かせて魔物の頭上まで上昇した。
魔物はクレアの存在を認めると、また大きく雄叫びを上げた。
「───行って!」
クレアは俺の方を見てそれだけを言うと、俺たちとは反対方向、森の奥の方へ向かって飛び始めた。
魔物もクレアを追いかけて奥の方へと歩みを進めていき、俺たちは九死に一生を得た。
クレアに言われたとおりに、俺は魔物から逃げてきた2人を魔石で連絡を入れてから『浮遊』で受付まで運んだ。
受付までくると、2人は俺に何度も礼を言いながら医務室へ運ばれていった。
俺は受付に頼んで高いところから森の方を見た。
クレアが光の方向に走ってきてと言っていたことを思い出して、必死に光を探す。
しかし、遠くであがる爆発音のようなものとそれによって上がる土や木々しか見えない。
今どこにクレアがいるのかもわからない。
一体どこにいるのかと必死に探す。
あれは違う。向こうも違う。どんなに探しても見つからない。
「クレア………っ」
俺が拳を握りながら森を必死に見ていると、一際目立つ金色の光が見えた。
冬の寒空が嘘かのような暖かい金色の光。
───あれだ。
俺は光へ向かってすぐに駆け出した。
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