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第1章 幕開け
6 冒険者たち
しおりを挟む長く伸びきった髪をバッサリと切り落としたのはその日の夕暮れのことだった。
森の奥にあった洞窟をとりあえずの住まいとし、交代で見張りをしながら私たちは話し合った。
Y地区全体が人身売買をしているのかはわからない。先程の集落だけが行っている可能性もある。
ただ、どちらにしてもこの姿のままでは危ない。
女を意識して生きたことのなかった私にとって、髪を切り落とすことは何も苦じゃなかった。
「‥ばっさりだね」
ブラウンが改めてそんな事を言う。
ブラウンは目元をすっかり隠しているから、なかなか感情を読み取るのは難しいけど、声色からしてやや元気がないのは分かった。
私がさっぱり気にしてないのに、なぜブラウンが気にしてるんだ。
「頭が軽くて最高に気持ちいいよ」
私の体は小柄だし、胸もまだ膨らんでない。
ブラウンは声変わりが始まってるけど、私のこの姿なら声変わりが始まる前の少年にしか見えないだろう。
性別問わず子どもまで売り飛ばしているなら、危険なことには変わりないけど‥
「でも、念を入れるならその目も隠すべきだよ」
「あー、そうだよねぇ」
ブラウンの声に、私は唸った。
確かにこのオッドアイはやけに目立ってしまう。それはこの国なら尚のこと。
「片目を隠すのはどう?」
ブラウンがそう言って、布の切れ端を私に差し出してきた。
正直、私に屈強な筋肉はない。この身体の身軽さと、この目で相手の行動を読む洞察力が私の強さの秘訣だった。
そんな私にとって、片目を隠すということは自分の戦闘能力をグッと落としてしまうということ。
「人気のない場所では隠さなくていいと思うよ。狩の時なんかはね。ただ、おそらく‥その目を誰かに見られるのは危険だよ」
私は頷きながら、ブラウンから布を受け取った。
このオッドアイは、厄でしかない。
現体制(ウォングバッド)を恨む人からも蔑まれ、代々召喚士がオッドアイであるという貴重さから狙われる対象でもある。
「厄介なものを貰っちゃったなぁ」
Z地区で生まれ落ちた私に召喚士の血が混ざっているわけなんてないのに、無駄にオッドアイなもんだからこんなことになる。
「きっと治安のいい上の世界に行けたら、目を隠さなくても良くなるし、性別を装わなくても良くなるはずだよ。そのためにはどうにかしてコインを稼がないといけないけど‥。
まぁ、カラーは今日から男の子っていうことで」
ブラウンが小さく笑った。私も吊られて笑いをこぼす。
「ふふっ、そうだね。
今日から『俺』って言うよ」
「うわー、違和感ありまくりだね」
ケラケラと笑い合うこの空間は、まさしく平和そのものだった。
私もブラウンも、広いこの世界を知りたいだけ。誰かを傷つけたり、欲深く生きていきたいわけじゃない。
こうして仲良くヘラヘラしながら生きていきたいだけなのに、どうもこの世界は手厳しい。
日中は見張りをつけながら狩をして、夜も交代交代で辺りを見張りながら眠り、早くも何日か経ってしまった。
近くに沢があって、ここは絶好の野宿スポットだけど、どうやらここ近辺には人は寄り付かないらしい。
何日経っても、いくら辺りを見渡しても、人影は一向に見当たらなかった。
「んー、ここが安全なのはいいことだけど、動き出さない限り上には行けないよね」
そんな私の言葉にアキも頷いた。
アキの表情はどこか疲れているように見えた。出会ってから数日、それまでこんな野生の中で生きてきたことがないんだから当然っちゃ当然か。
「ただ集落には迂闊に近寄れないし、集落の対価がコインじゃなくて物資だからね‥実質、物資はあってもコインは流通してないってことだから」
アキの言う通りだ。
今後もしうまく集落と接点を持てたとしても、貰えるものがコインではなく物資なら私たちは上には上がれない。
「やっぱりY地区にはギルドはないのかな?
まだY地区のこと全然知れてないし、危険を承知の上でもっと遠くまで探索するべきだと思うよ、私は」
だって、動かないと先に進めないじゃないか。
ブラウンとアキは、誰かと遭遇する可能性があるからもう少しこの近辺を知った方がいい、とやけに慎重派だ。
だけど、この近辺を知ったところで先に進めるのかと言えばそれは違うと思うから‥
ブラウンと交代して見張りについた私は、2人には内緒でほんの少し遠くまで歩いてみた。
もちろん2人に何かあったら嫌だから、そこまで遠くには行けないけど‥。
洞窟を視野に入れられる程度に、周囲に目を凝らした。
少しでも何かを得たい一心だった。だから、『彼ら』を見かけた時には思わず身を潜めた。
明らかに冒険者たちじゃんか‥
私の目に映った彼らは8人グループだった。服装からして、あからさまに『冒険者』である彼らに対し、私の警戒心は見事に薄れた。
私たちを含め、この間の人身売買集落の男も‥この野生地区では、亡くなった冒険者から装具や服を頂戴することはもちろんある。
だけどなかなか替えが手に入らないため、どこか傷んでいたり、服はぼろぼろだったりして基本はチグハグな格好をしている。
だけどいま私の目に映る8人グループは、みんな装具を含め服装も完璧で、真ん中にいるふくよかなおじさんを守っている風なのはすぐに分かった。
明らかに、上の地区から来た人たち。
そんな人たちが、こんなところで何をしているんだろう?
私の好奇心が最高潮に高まった瞬間だった。
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