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第1章 幕開け
9 無価値
しおりを挟む冒険者たちを追っていたら、まさかのキングベヒーモスなんていう巨体すぎる魔物に出くわして、それからまさかまさかのT地区のギルド登録場にいる。
なんて濃い1日なんだろう‥
「身体D23、頭脳V5、財力Z1、経験Q10、器用さO12、魅力S8、魔力ー‥」
おじさんが突然呪文のように言葉を並べだした。私は思わずキョトン顔である。
「身体能力が凄まじいな‥Z地区で生まれ落ちたということで間違いないかな?」
「え?うん」
「成る程‥これは逸材だ。魔力が測定不能なのが不思議なところだが、言い返せば魔力を含めずにトータル数値Sなのか‥」
「え、私魔力ないんだ」
地味にショックだった。
ブラウンから聞いた話では、この世界では魔力のある人が使いたい魔法の源である【魔法石】を身に付けていれば魔法が使えるんだそうだ。
それはつまり、鉄仮面は体のどこかに【移動の魔法石】を身に付けているから移動魔法が使えたということ。
魔力が少なければ例えジャラジャラ魔法石を持っていても、使える魔法は少ない。魔法使いなんかは魔力が相当高くて、体に沢山魔法石を身に付けているんだってブラウンがいつだか言ってたなぁ。
私やブラウンに魔法石は無縁だったけど、いつか手に入れることができたら私も魔法を使えるもんだと思ってたのに‥
「私‥?君は女だったのか?」
おじさんが驚いたように声を上げた。
ーーしまった。‥いや、この人たちはこんなに高いレベルの中で生きているんだから、人身売買なんてしてないかな‥?
いや、でも一応‥
「い、いや、おじさんの真似したの。
普段は俺って言ってる。おじさんさっき自分たちのこと【私たち】って言ってたでしょ」
「あはは、そういうことか。
君が女の子なら驚きだよ」
な、なにそれ!
思わず頬を膨らませそうになったが、まぁ我慢だ。
「そ、それで?!
お、俺は、魔法使えないの?!」
「うーん、それは分からないな。
何故測定不能なのか‥」
「んー、まぁいっか。
魔法使えなくても生きていけるし」
現に、生まれてから今まで魔法に頼ったことなんてない。それで充分生きてこれたんだから、裏を返せば魔法なんていらないのだ。
‥まぁ、憧れてはいたけど。
「何はともあれ、私の研究にも大いに刺激になったよ」
「研究?」
「ああ。どれくらいの数値の人間がキングベヒーモスと戦えるのか、報酬を出して人を集めたんだ」
「あー‥だからギルド登録場に?」
「そうだよ。君はなかなか聡いところがあるね」
つまり、このおじさんはギルドの任務として協力してくれる冒険者を募ったんだろう。
その参加者たちが、先程キングベヒーモスに吹き飛ばされていった人たち。
鉄仮面は、おじさんの仲間かなんかだったんだろうな。
「嫌悪感を抱くかね?
結果、彼らは散ってしまった」
いとも簡単に吹き飛ばされていった冒険者たち。吹き飛ばされていった先を見てはいない。だけど残酷にもどうなったかなんて見なくてもわかる。
「いや、強制じゃなくて同意の上でしょ?
強い魔物と戦う覚悟の上で付いてきたのなら、それは本人たちの責任で、別におじさんのせいじゃないんじゃない?」
きっと高い報酬に釣られ、一攫千金を夢見たんじゃないのかな。
私だってそんな話が舞い込めば、きっと首を縦に振って付いて行ったはず。
「ふふ、そうか。君は後先考えずに私たちを助けにきたようだったから、こういう話は好きじゃないと思ったが、どうやら違ったようだね」
確かに、報酬とか無しに2人を助けようとしたけど‥
でもそれはただ単に私の中の善意が働いただけだ。
「数値に関してもそうだけど、人ってそんな簡単に分析できるもんじゃないと思うよ」
「おっと。痛いところを突かれたなぁ」
おじさんがくすくすと笑いだす。何が楽しいんだかさっぱりわからない。
「‥ところで、俺は元の場所に戻してもらえるの?」
「あぁ、そうだ。君、私の元で働かないかい?様々な場所の魔物と戦って欲しいんだ」
「研究材料ってことね。コインを稼げるのは嬉しいけど‥」
私の数値で、一体どんな魔物とどういう風に戦えるのか知りたいんだろうな。
でも、ブラウンとアキを置いていくわけにはいかないし‥
なんと答えていいかわからなくなった私が言い淀んでいると、鉄仮面が私の体の前にスッと腕を出した。
まるで、おじさんと私の間に壁を作ったような感じだ。
「‥博士、得られる情報はたかが知れているかと」
な‥!失礼なやつだなこいつ。
ていうかおじさん【博士】なんだ。
「たかーーー」
たかがって何と言い返そうと思いきや、鉄仮面が腕を少し上に上げて、まるで『喋るな』というかのように私を制した。
なんなんだ、こいつ‥
「うーむ‥確かに、このくらいの数値の人間はここら辺にも沢山いるが‥」
「Y地区からこの者を引き上げる通行金総額を考えれば、そのコインで冒険者を募った方がよっぽど懸命ですよ」
「それもそうかもしれんな‥」
「では、俺はこの者を送り届けてきます」
窓の外は空しか見えなくて、どうやらここは建物の上の階の方に位置するらしかった。博士のための特別な部屋なのかなんなのかはわからないけど、私たちの他に人はいない。
窓に近寄って興奮したいところだったけど、そんな陽気な気分ではない。
無条件に、自分があまり価値のない『下の地区』の人間であると思い知らされて、言い返す力も湧いては来なかった。
そもそも、たまたまここに来てしまったんだ。私は、緑生い茂る野生の中で原始的な生活を送っているただの子どもなんだから‥
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