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第1章 幕開け
10 無理難題
しおりを挟む見慣れたみどりの中に戻ってきた。岩山からは離れているようだけど、鉄仮面曰くここはY地区で間違い無いらしい。
何を思ったのか、鉄仮面はおもむろにその鉄仮面を外した。
顔を出したのは驚く程に整った顔立ちの男だった。重い鉄仮面で肩が凝ったのか首を回し、少し怪訝そうな表情で紺に近い黒っぽい髪をワサワサーと荒く手で梳かしている。
「どうしたの急に」
「顔を見せるのが礼儀だと思ったからな」
いや‥それはそうかもしれないけど、今?
少なくともさっきのギルド登録場でもできたんじゃないの‥?
「俺の名前はオリオン。お前は?」
挙句に、名前まで名乗り出した。
どういうことなんだ一体‥
「お、俺はカラー‥」
「カラーか。その片目はどうした」
「え‥?」
「その布、外そうとしてただろ?
何故敢えて隠してる?本当は見えるんだろう?」
う、うぅ。鋭い。
そういえば、オリオンは私がコソコソと冒険者たちを追いかけている時から私に気が付いていたようだったし、なかなかに強者かもしれない。
「‥お洒落だよ、お洒落。
なんとなくカッコいいじゃん」
「‥‥」
オリオンは何か言いたげだったけど、私が答える気がないのだと悟ってくれたのか、それ以上言及してくることはなかった。
「ていうか、なんで今更名乗ったの?
もうお別れでしょ?」
住む世界が違いすぎるし、もう二度と会うこともないはずなのに。
「カラー、お前、俺に協力してくれないか」
え?さっき私のこと『たかが知れてる』発言してなかった?
オリオンはそんな私の気持ちを察したらしい。私が口を開く前に言葉を続けた。
「俺は今の体制をぶっ壊したい。上の地区には強い奴らはザラにいるが、俺が求めてるのは上の奴らと繋がりがない戦力。俺が博士に協力したのは、その戦力を見つけたかったからだ」
「今の体制‥?」
確かに、私はブラウンとアキ以外と繋がりはないけど‥
「ステータス重視のこんな世界、俺は間違いだとしか思わない。俺1人ではアイツを討てないから、協力者が欲しいんだ」
「アイツって?」
「ウォングバッドだよ」
さらりと出てきた言葉は、この国の召喚士の名前だった。
王と唯一並肩を並べられる存在、召喚士‥そのウォングバッドを本気で討つつもりなのだとしたら、オリオンは予想以上に上の地区の人間なのかもしれない。
私からすれば、さっきのT地区だって相当上だけど、T地区の人間はそもそも王や召喚士に近付ける機会すらないだろうから‥
「ウォングバッドを倒しても‥また新たな召喚士が誕生するだけでしょ?体制、変わらなくない?」
「現国王は病に犯されていてそう長くない。時期国王候補は、この体制をよく思っているわけではないから‥ウォングバッドが消えれば、体制を一新できるチャンスがあるんだ」
「‥オリオン、何者?詳しすぎない?」
私の言葉に、オリオンはぽりぽりとこめかみを掻いた。喋り過ぎてしまった、というような少し苦めの表情を浮かべている。
冷たい声の印象とウォングバッドを討ちたいという突き抜けた野望から、取っ付きにくい性格の持ち主かとも思ったけどどうやらそうでもない様子。
意外にもペラペラと喋るし、案外表情も豊かだ。顔も見せてくれたし、名前も教えてくれた。上の地区に住んでいるからといって、こちらを卑下している様子もないし。
「‥俺は、何者でもないよ。
ただただ、協力者が欲しいだけだ」
さっき見せたほんの少しの動揺を隠すようにして、オリオンは視線を少し下げた。
あーこれ、少し嘘ついてる反応かな。『何者でもない』わけではないんだろうなぁ。まぁ正直オリオンが何者かであっても、どうでもいいんだけどさ。
いやー、でも‥ここまで端正な顔立ちをしていると、どんな表情でも本当に様になるなぁ。
「それ、俺に利点ある?」
私は正直な気持ちを話してみた。簡単に言えば、国の叛逆者になれって言ってるんだよね、オリオンは。
もっと世界を知りたいけど、そのためのリスクが大きすぎる。
まぁもともとこの国のサイハテ育ちの私にとって、失うものはほとんどないんだけど。
「コインはいくらでもやる。
この世界をもっと知っていけば、いかに今の体制がクソだか分かるはずだ」
あー、確かにアキも言ってたなぁ。
上層部だけが潤う仕組みだって。
「俺には仲間が他に2人いるんだけど、一緒につれていける?」
「今すぐ動き出せるような話なんかじゃない。それに、A地区の警備は手厚すぎるから、不法侵入なんて許されない。カラー‥お前自身のステータスがAにならないと、この作戦の実行は難しい。仲間を連れて行きたいのであれば、仲間もまた同じ。ステータスが低ければ連れていけない」
「?!」
なんかこの人今さらっと凄いこと言わなかった?
「ん?」
ん?じゃなくて!
「お、俺のステータスをAに‥?!
何言ってんの?!」
簡単に発言してくれちゃってるけど、言っている意味がわからない。
「もし無理ならウォングバッドが下の地区を訪問する稀少な機会を狙うしかない。‥でも、ウォングバッドはL地区くらいまでしか訪問しないだろうな。だから最低条件としてステータスをLにしないといけない」
ステータスAに比べたらLは随分と簡単なんじゃないかと錯覚してしまいそうになるけど、これ、絶対簡単なんかじゃない。
「もし仮にステータスがLになったとして‥実際にL地区に身を置くための通行金は‥?俺、無一文だよ‥」
「いや、だから‥コインならいくらでもやるよ。
お前の仲間も、裏切りの心配がないような奴らなら、そいつらの分だって出す」
「‥‥オリオン、ほんと‥何者?」
「だから、何者でもないって」
なんだか私‥
物凄い人と出会っちゃってない‥?
「‥やるよ、やる!
こんな機会ないし!」
オリオンは少し安堵したかのように表情を柔らかくした。
「そうか、よかった。
‥‥ちなみに、最低目標がステータスLなだけで、上げれるならもっと上げて欲しい。万が一Lに届かなかった場合は契約解消、カラーやカラーの仲間に裏切りが生じた場合は迷わず斬る。いいな?」
「う、うん‥」
こんな大切な話、勝手に決めちゃって大丈夫だったかな‥。
ていうか、ブラウンはLまで届きそうだけど、アキと私は大丈夫かな‥
「Lに届かず契約解消になった場合は、それまでに渡したコインを全て没収させてもらうからな」
「そ、そんな!」
「当たり前だろ。そんな甘い話あるか」
ひぇぇぇ、益々大丈夫かな‥?!
全て没収って、働いて返せってことでしょ?!どれほどの大金かわからないけど、果たして返せるものなのか‥
って、いけないいけない‥
やると決めたからには、弱気になってる場合じゃない‥
「‥具体的に、期間はどのくらい?」
「そうだなぁ‥。
話を詰めるためにも、仲間の元に案内してもらおうか」
私は頷いて、洞窟に戻ることにした。
オリオンに岩山まで案内してもらい、少し迷いながらも何とか日が暮れる前に洞窟へとたどり着いた。
突然オリオンを連れてきた私に対し、ブラウンとアキは案の定、かなり驚いた表情を見せていた。
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