サイハテの召喚士

茶歩

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第2章 モフモフへの使命

19 鼻くそなんか構ってられるか

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 アキはブラウンと過ごしていたはずなのに、その表情はやけに翳っていた。

 2人と合流した私は街角で買ったパンを頬張りながら首を傾げる。


「なにして過ごしてたの?」


 私の質問にアキは黙りこくったままだ。


「動体視力を鍛えたんだよ、発光虫で」


 ブラウンがそう言って笑った。
なるほど、発光虫‥。


 幼かった頃、オッドさんが沢山捕まえてきてくれて、ブラウンと一緒に発光虫で遊んだことがある。
 発光虫は不規則に光る虫。きっと発光虫を集めて、どの発光虫が光ったかを当てるゲームみたいなことをしていたんだろう。


「何でそんなに疲れてるの、アキ」


 私とのトレーニングに備えてブラウンと行動していたはずなのに、明らかに朝よりも疲れている様子。


「ぐらぐら揺れる岩の上で発光虫を見続けたんだよ、何時間も!!」


「効率的に身体能力を伸ばしたくてね。
動体視力と体幹を同時に鍛えようと思って」


 ほんの数分行うなら楽しいだろうけど、朝からこの時間まで行っていたならアキが疲れ顔なのもよくわかる。


「‥強制的に押し付けるのは嫌だから聞くけど、どうする?アキ。午後は休む?」


 私とブラウンは、もっと世界を知りたいという明確な目標がある。だけどアキはそうじゃない。アキ自身が望んでいるならトレーニングする意味はあるけど‥


「いや、やるよ‥。
俺、変わりたいから」


 アキはそう言って自分で両頬を叩いて気合いを入れた。
良かった、と微笑むとアキも小さく笑みを浮かべる。



「カラーはどうだったの?収穫あった?」


 ブラウンの言葉に、私は思い出したかのように声を上げてバッグをごそごそと漁った。取り出したのは、私の小さな手のひらに収まる赤い玉。


「見て!これ!」


「‥魔法石?」


「違うの、お猿さんが呼べるの」


 猩々と言いたかったけど、ここは人里の中。突然あんな大きな赤いけむくじゃらが現れたら皆びっくりしてしまうはずだ。


「「‥お猿さん?」」


 ブラウンとアキがキョトンとした顔を浮かべている。


「そうなの。不思議だよね。
名前呼んだら大きい猿が出てくるの」


「それ‥!!」


 ブラウンが突然私の肩を両手で強く掴んだ。
どうしたんだろ、そんなに興奮しちゃって。


「やっぱり、カラーは‥!」


 ブラウンは、思いのほか大声を出していたことに気が付いたらしい。急に口を噤んで、辺りを見渡した。行き交う人々が不思議そうに私たちを見ている。


「‥移動しようか」


 まだパンを食べている途中だというのに、私はブラウンに引きづられるようにしてその場から離れることになった。




♦︎



 人里から少し離れた山中‥
誰の目にも触れないこの緑の中に、一際映える真っ赤なもじゃもじゃが1匹。


『‥‥大概ニセイ』


 どうやら猩々はかなりキレてる様子。あまりにも頻繁に呼び出しすぎちゃったかな。


「カラー‥やっぱり、カラーは召喚士だったんだよ!!!」


 ブラウンがカタカタと指を震わせながら大きな声を上げた。
 召喚士‥?何言ってるんだろう。


「そのオッドアイは、カラーが召喚士だから!
絶対そうだ!!」


「待って、落ち着いてよブラウン‥
たぶん、この丸い玉になんか魔法がかかってるだけだと思うよ?私が召喚士なわけないじゃん」


 だって、召喚士がこの世に2人存在するわけがないんだから。
 現召喚士はウォングバッド。もう13年も前から、王と共にこの国を治めてる。


『オマエ、ナターシャノ娘ダロ』


 猩々が鼻くそをほじりながら気怠そうに言った。私は鼻くその色も赤いのか知りたくてガン見していたんだけど、相変わらず猩々の動きは素早い。鼻くその色を確かめることはできなかった。


「ナターシャって!
前召喚士のナターシャですか?!」


 ブラウンが猩々に問い掛けた。仮にも大きすぎる猿である猩々を目の前にして、よく物怖じしないなぁブラウン‥
 アキは案の定固まり続けていて、何度目かわからない唾を飲み込み続けている。

 私はといえば、猩々の小指に鼻くその残りが付いていないか、その小指を凝視していた。


『小僧、煩イ。落チ着ケ‥ナ?
ナターシャハ、コノ国ノサイハテノ地マデ逃ゲタ』


「‥な、何故?」


 猩々に諭され、少しボリュームを落としたブラウンが前のめりで質問を続ける。


『狙ワレテイタカラダ。
沢山ノ召喚獣ヲ各地ニ、最後ノ召喚獣トナッタノハ儂ダッタ』


 あっ‥


「‥‥赤じゃないんだ‥」


 猩々の、鼻くそ‥


「ナターシャを狙っていたのはウォングバッドですか?何故ウォングバッドとカラー、2人の召喚士がこの世に存在してるんですか?!」


 ブラウンの興奮は治らない様子。
私の話をしているんだろうけど、正直話の内容が意味わからない。

 なんで私が召喚士だっていう前提で話が進んでいるんだろう。


『瞳ダ』


「え‥?」


『ウォングバッドハ、ナターシャノ片目ヲ抉リ取ッタ。奴ノ顔ヲ拝ンダ事ガナイカラ確証ハナイガ、ナターシャノ片目ヲハメ込ンデイルンダロ』


 どこか遠い話すぎて真面目に話を聞いていなかった私だけど、今の猩々の話を聞いた途端に全身に鳥肌が立った。
 本当にナターシャが母なのかはわからないけど、怒りなのか悲しみなのかよくわからない感情が突然湧き上がったのだ。


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