19 / 24
第2章 モフモフへの使命
19 鼻くそなんか構ってられるか
しおりを挟むアキはブラウンと過ごしていたはずなのに、その表情はやけに翳っていた。
2人と合流した私は街角で買ったパンを頬張りながら首を傾げる。
「なにして過ごしてたの?」
私の質問にアキは黙りこくったままだ。
「動体視力を鍛えたんだよ、発光虫で」
ブラウンがそう言って笑った。
なるほど、発光虫‥。
幼かった頃、オッドさんが沢山捕まえてきてくれて、ブラウンと一緒に発光虫で遊んだことがある。
発光虫は不規則に光る虫。きっと発光虫を集めて、どの発光虫が光ったかを当てるゲームみたいなことをしていたんだろう。
「何でそんなに疲れてるの、アキ」
私とのトレーニングに備えてブラウンと行動していたはずなのに、明らかに朝よりも疲れている様子。
「ぐらぐら揺れる岩の上で発光虫を見続けたんだよ、何時間も!!」
「効率的に身体能力を伸ばしたくてね。
動体視力と体幹を同時に鍛えようと思って」
ほんの数分行うなら楽しいだろうけど、朝からこの時間まで行っていたならアキが疲れ顔なのもよくわかる。
「‥強制的に押し付けるのは嫌だから聞くけど、どうする?アキ。午後は休む?」
私とブラウンは、もっと世界を知りたいという明確な目標がある。だけどアキはそうじゃない。アキ自身が望んでいるならトレーニングする意味はあるけど‥
「いや、やるよ‥。
俺、変わりたいから」
アキはそう言って自分で両頬を叩いて気合いを入れた。
良かった、と微笑むとアキも小さく笑みを浮かべる。
「カラーはどうだったの?収穫あった?」
ブラウンの言葉に、私は思い出したかのように声を上げてバッグをごそごそと漁った。取り出したのは、私の小さな手のひらに収まる赤い玉。
「見て!これ!」
「‥魔法石?」
「違うの、お猿さんが呼べるの」
猩々と言いたかったけど、ここは人里の中。突然あんな大きな赤いけむくじゃらが現れたら皆びっくりしてしまうはずだ。
「「‥お猿さん?」」
ブラウンとアキがキョトンとした顔を浮かべている。
「そうなの。不思議だよね。
名前呼んだら大きい猿が出てくるの」
「それ‥!!」
ブラウンが突然私の肩を両手で強く掴んだ。
どうしたんだろ、そんなに興奮しちゃって。
「やっぱり、カラーは‥!」
ブラウンは、思いのほか大声を出していたことに気が付いたらしい。急に口を噤んで、辺りを見渡した。行き交う人々が不思議そうに私たちを見ている。
「‥移動しようか」
まだパンを食べている途中だというのに、私はブラウンに引きづられるようにしてその場から離れることになった。
♦︎
人里から少し離れた山中‥
誰の目にも触れないこの緑の中に、一際映える真っ赤なもじゃもじゃが1匹。
『‥‥大概ニセイ』
どうやら猩々はかなりキレてる様子。あまりにも頻繁に呼び出しすぎちゃったかな。
「カラー‥やっぱり、カラーは召喚士だったんだよ!!!」
ブラウンがカタカタと指を震わせながら大きな声を上げた。
召喚士‥?何言ってるんだろう。
「そのオッドアイは、カラーが召喚士だから!
絶対そうだ!!」
「待って、落ち着いてよブラウン‥
たぶん、この丸い玉になんか魔法がかかってるだけだと思うよ?私が召喚士なわけないじゃん」
だって、召喚士がこの世に2人存在するわけがないんだから。
現召喚士はウォングバッド。もう13年も前から、王と共にこの国を治めてる。
『オマエ、ナターシャノ娘ダロ』
猩々が鼻くそをほじりながら気怠そうに言った。私は鼻くその色も赤いのか知りたくてガン見していたんだけど、相変わらず猩々の動きは素早い。鼻くその色を確かめることはできなかった。
「ナターシャって!
前召喚士のナターシャですか?!」
ブラウンが猩々に問い掛けた。仮にも大きすぎる猿である猩々を目の前にして、よく物怖じしないなぁブラウン‥
アキは案の定固まり続けていて、何度目かわからない唾を飲み込み続けている。
私はといえば、猩々の小指に鼻くその残りが付いていないか、その小指を凝視していた。
『小僧、煩イ。落チ着ケ‥ナ?
ナターシャハ、コノ国ノサイハテノ地マデ逃ゲタ』
「‥な、何故?」
猩々に諭され、少しボリュームを落としたブラウンが前のめりで質問を続ける。
『狙ワレテイタカラダ。
沢山ノ召喚獣ヲ各地ニ戻シ、最後ノ召喚獣トナッタノハ儂ダッタ』
あっ‥
「‥‥赤じゃないんだ‥」
猩々の、鼻くそ‥
「ナターシャを狙っていたのはウォングバッドですか?何故ウォングバッドとカラー、2人の召喚士がこの世に存在してるんですか?!」
ブラウンの興奮は治らない様子。
私の話をしているんだろうけど、正直話の内容が意味わからない。
なんで私が召喚士だっていう前提で話が進んでいるんだろう。
『瞳ダ』
「え‥?」
『ウォングバッドハ、ナターシャノ片目ヲ抉リ取ッタ。奴ノ顔ヲ拝ンダ事ガナイカラ確証ハナイガ、ナターシャノ片目ヲハメ込ンデイルンダロ』
どこか遠い話すぎて真面目に話を聞いていなかった私だけど、今の猩々の話を聞いた途端に全身に鳥肌が立った。
本当にナターシャが母なのかはわからないけど、怒りなのか悲しみなのかよくわからない感情が突然湧き上がったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
やりません。やれないんです。
朝山みどり
恋愛
国の制度変更により、薬の調合・販売には免許が必要となり、長年村で薬師をしてきた祖母は年齢制限のため資格を取得できず、薬師を名乗れなくなった。経験や評判は評価されず、「紙(免許)」がすべてになった。
ダイアナは祖母の店を再開するため、講習と試験を受け、町のポイード薬局で半年間の住み込み見習いを始める。講習では祖母の経験が理論として体系化されていることを学び、学問と実践の両立を実感する。
同室となったマリアと協力しながら、厳格な規格・衛生管理のもとで調薬を学ぶ日々。祖母の知恵と新しい制度の知識を胸に、半年後に胸を張って帰ることを楽しみ過ごしていたが……
他のサイトでも公開しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる